「あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。
秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。
比内地鶏やきりたんぽ、秋田犬など、秋田県を象徴する名物の産地として知られる大館市は、県内の他の自治体と同じく、少子高齢化・人口減少に伴う社会課題が健在化する、課題先進地でもあります。数ある社会課題の中でも地域住民や行政の悩みの種になるのが「空き家」の問題です。
「NPO法人あき活ラボ」は、この空き家の問題を事業を通じて解決しつつ、大館や秋田に強い想いを持つファン(関係人口)が交流する拠点としてアップデートすることを目指して活動しています。大館にUターンすることになった経緯から、現在の活動、今後のビジョン、これから関係人口になる方の関わりについてお話を伺いました。
目次
東京での関係人口イベントで「いつかは地元、大館に戻りたい」という想いに着火。地域おこし協力隊としてUターンを決断
今回、お話を伺ったのはNPO法人あき活ラボの代表理事、三澤雄太さん(34)と同法人で理事を務める妻の舞さん(34)です。三澤さん夫婦は大館市の出身で、それぞれ大学進学をきっかけに県外へ出ました。大学卒業後、雄太さんはIT業界で、舞さんは住宅・不動産業界でキャリアを積んできました。
夫婦が当時住んでいた長野県から故郷大館市への移住を決断したのは、2019年2月に都内で開催された大館市の関係人口関連のイベントです。そこで出会った大館市の職員さんに、フリーランス地域おこし協力隊の制度を紹介してもらったことがきっかけでした。
舞さんは、移住を決めた当時の状況について、「イベントで移住を決意してから、2ヵ月で移住しました。(そのスピード感で移住を決意できたのは)、元々『いつかは大館に戻りたい』という想いがあったからです」と振り返ります。
ITに不動産、夫婦の得意分野で地域の悩み事に答え続けてきた結果、辿りついた「空き家」というテーマ
地域おこし協力隊として着任した雄太さんと舞さんのミッションは、大館市に来訪する企業と地域を繋げる「お試しサテライトオフィス体験」事業でした。言うなれば、企業活動を軸にした関係人口創出です。
加えて、雄太さんは、これまでのSEとしてのキャリアを活かし、HPの制作、映像づくり、コロナ禍におけるライブ配信支援などでも地域に貢献してきました。一方の舞さんは、ハウスメーカー、不動産会社での勤務経験が知られると、地域の方から「住まいや場」についての相談を受けるようになりました。その中で、多かったのが空き家に関することです。令和元年10月時点で、大館市にある空き家の数は1800件近くにのぼっていたそうです。将来的に帰ってくる予定があっても、今は空き家にせざるを得ないなど、事情は様々でした。
「夫婦で、目の前にいる人の悩み事や困りごとにシンプルに答えていった結果、自然に『空き家』というテーマに行き着きました」と語るのは雄太さん。協力隊時代は、個人で動く限界に悩むこともありましたが、2021年6月、法律や遺品整理などの専門家とともに空き家問題に取り組む「NPO法人あき活ラボ」を設立したことで、地域で暮らす人や地域と関わりを持ちたい人の、より細やかなニーズに応えられるようになったそうです。
絵本の読み聞かせ、子ども食堂、お母さんたちのお茶っこ会、地域の人に愛される場づくり
こうして空き家問題に取り組むこととなった雄太さんと舞さんですが、実は現在夫婦が住んでいる住居も元は空き家でした。当の建物は、かの吉田松陰が宿泊したり、明治天皇が東北巡幸の際に休憩したりするなど、由緒ある建物だそうです。
「せっかく由緒ある建物なので、ただの住居ではなく、建物の特徴を活かして地域に開放したら面白いなと思いました」と語るのは舞さん。「としょ木漏れ日」と名付けたコミュニティスペースで、絵本の読み聞かせ、子ども食堂、お母さんたちのお茶っこ会やカフェのトライアルなど、様々な活動を展開してきました。
現在、としょ木漏れ日はairbnb(エアビーアンドビー)を通じて宿泊滞在もできるようになっており、農泊の拠点としても活用されています。
空き家を宿泊拠点にした『まちやど』構想も。旅人と地域住民の交差点を目指して
三澤さん夫婦は、あき活ラボや、新たに設立した法人である「株式会社OIC」の事業に取り組む中で、「住宅宿泊管理事業者」の資格も取得しました。宿泊管理事業者に認定されることで、空き家を民泊として貸し出す運用が可能になります。同事業者の認定は、秋田県北では初めてだそうです。
雄太さんは、今後の事業展開について、「今ある空き家や空き店舗を民泊・ゲストハウス化して、大館を『まちやど』にする構想を持っています。大館を訪れる人が、民泊やゲストハウスに宿泊しながら、町の中を回遊して、食事や、温泉、昔ながらの営みなど、地元の人が知っているローカルな大館を楽しんでもらうための、情報発信の拠点にしていきたいです。例えば、料理を楽しんでもらうなら、作ってくれた人と食べる人が、顔と顔で繋がることができる仕組みがあれば理想ですよね」と語ります。捉え方によっては、空き家は地域資源にもなり得るのです。
また、地域外の人や関係人口との関わりについて、「地元の人が集まる所に、旅人や、大館に想いを持つ人を呼んで何かをやってもらうような仕掛けも考えていきたいです」と続けました。過去には、地域外からの旅人が楽器の演奏を披露する機会などもあったそうです。
「宿泊しながら、ちょっと働いて、地域のことをお手伝いする」新たな滞在モデルの拠点に
三澤さん夫婦は、大館が元気になるためには「縦と横の繋がり、どちらも必要」と提案します。「地域内で世代を超えた交流が行われることも大事ですが、東京や仙台だけではなく、県をまたいだ、弘前や近隣の自治体との繋がりも重要だと考えています」と、雄太さん。
続けて、拠点を活用した地域課題の解決について尋ねると、「拠点づくりに携わっている人の事例を聞くと、(場所を整備するだけでなく)イベントをどんどん仕掛けているんですよね。イベントを企画する中で、地域の人と地域外の関係人口が自然と関わっている状態が理想だと思います。例えば、災害があった時にも、拠点とコミュニティがあれば、そこがボランティアの人、物資、情報、色んな人が集まる拠点になります」と、自身の長野での災害ボランティアの経験を踏まえて回答してくれました。
三澤さん夫婦は、Uターンを考えている人や、関係人口として関わりを持ちたい人に向けては「今すぐ戻って来ようというつもりはありません。数ある拠点の中の一つが大館でもいいのかな、と。 物理的に住むだけが正解じゃなくて、関係人口っていうゆるいつながりの中で気にかけてくれたら、それで十分かなと思っています」と、とてもオープンな様子です。
インタビューの最後に、雄太さんは「空き家の問題は心理的にも、金銭の面でも重くなりがちですが、持ち主と地域内外の人との接点をNPO法人が作っていくことで、冬の雪下ろしの問題や、多世代交流の場づくりといった課題に対しても何かができるのではないかと思っています。地域外の人が、宿泊滞在しながら、ちょっと働いて、地域のことをお手伝いする、そんな関わり方があってもいいのではないでしょうか」としめくくりました。
了)
NPO法人あき活ラボでは秋田に想いを持つ「関係人口」の関わりを募集しています。
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・地域住民との交流活動
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NPO法人あき活ラボ
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