
東日本大震災をきっかけに2011年、震災ボランティアとして気仙沼に移住した杉浦恵一さんによって立ち上げられたともしびプロジェクト。仮設住宅で聞いた「忘れないでほしい」という声をきっかけに発足し、以来毎月11日には、キャンドルに明かりを灯(とも)してSNSで共有する「キャンドルナイト」を開催している。世界中どこからでも参加可能で、震災をきっかけに灯された希望の光を千年先までつないでいくことを目指している。
そんなともしびプロジェクトのキャンドル工房が宮城県気仙沼市にある。扉を開けて中へ入ってみると、キャンドル職人の浅野たかえさんの姿が。
明るい笑顔とお茶目な振る舞いが素敵な浅野さんに会うために、何度も工房を訪れる人もいるのだとか。かくいう筆者も、一週間の滞在期間ですでに三度、浅野さんのもとを訪れている。今回はその魅力を掘り下げるべくお話しを伺った。
目次
ともしびプロジェクトとの出会い
浅野さんがともしびプロジェクトのことを知ったのは、ハローワークに掲載された工房の求人をご主人に勧められたときのことだった。気仙沼で生まれ育ったものの内陸部に住んでいたこともあり、海側で活動している人々のことは知らなかったという。東日本大震災の発生後、初めて海側の被災状況を目の当たりにしたときは言葉を失った。
「戦争を見たことはないけれど、戦争があったかのような真っ黒状態で。もう言葉にならなかったよね」
そんな中、海側でキャンドルに火を灯す(とも)活動している人々がいるのだと知った。
元来ものづくりが好きだったこともあってとりあえず話を聞いてみようと行った面接で、ともしびプロジェクト代表の杉浦さんの言葉に心をつかまれた。
「震災を経験した気仙沼のお母さんたちにキャンドルを作って欲しかったんだって。それを聞いていいじゃんと思ったのよね。役に立てることがあるのかな、みたいな」
別の地域からキャンドル職人を招くのではなく、未経験でもいいから気仙沼に住む人の力でキャンドルを作っていきたい。震災の経験をキャンドルを灯すことでつなげていきたい、という杉浦さんの思いに強く惹(ひ)かれたのだそう。
同時に、他の職人仲間や観光客、災害ボランティアでやってきた若者など、様々な立場の人々とかかわるこの仕事であれば、常々直したいと思っていた人見知りを克服できるのではないかという期待もあった。
浅野さんの興味や思いがいくつも重なるところに偶然あったキャンドル作りという仕事。もはや必然だったのかもしれないというほどの巡り合わせだった。

キャンドル作りの魅力とは
キャンドル作りの魅力を聞いてみると、最初に挙がったのは「できることが増えていくところ」だった。キャンドル工房で働き始めてからは、1年間ひたすら練習続きだったという。すると、少しずつ自分にできることが増えているのが実感できるようになっていく。
その後、気仙沼市が東日本大震災以降スローガンとして掲げる「海と生きる」という言葉を軸に据えて、三陸の海岸の風景をイメージして作られたキャンドルシリーズ「The Sea」が完成すると、世界で気仙沼にしかないキャンドルを一人で作れるようになったのだと自信を持てるようになった。

頭の中で想像したものが形になることも楽しみの一つ。
キャンドルづくりは顔料の配分など、プロセスを数字でマニュアル化できるものではない。何度も失敗を重ねるなかで頭の中にレシピが出来上がっていく。工房の作業スペースの奥には、試行錯誤の過程が見えるたくさんの試作キャンドルが置いてあった。
イメージから形にしていく過程は難しいものの、できた時の達成感を知っているからこそ続けられるのだと笑う。
そして、浅野さんがこの仕事に惹かれた理由の一つでもある、震災を経験したからこそできること、届けられるものがあることも魅力だという。
「震災によって亡くなった人、まだ帰ってきていない人もいる。前に進んでいる人もいれば、その場で立ち止まっている人もいる。そういう人たちが、キャンドルを灯すことで少しでも温かい気持ちになってくれれば。」
言葉をかけるのではなく、また違う方法で何か力になりたいという、浅野さんの思いが感じられる。
キャンドルを作り続ける理由。「気仙沼に来た人がまた帰って来られる場所に」
当初は複数人いたキャンドル職人も今は浅野さん一人に。過去には一人ではできない、辞めたいと思ったこともあったそう。それでも今、工房に浅野さんの姿があり続ける理由を聞いてみた。
「お客さんだよね。つながって、お友達になって、そうしたらまたここに来るでしょう?それを考えたら辞められないじゃんと思ってね。頑張るしかないよなと思って」
キャンドル工房には、既に工房の存在を知っており、そこをめがけてやってくる人が多いが、たまたま工房を見つけて立ち寄る観光客もいるという。中には5回ほど訪れて、最終的に気仙沼への移住が決まったと報告にやって来た人もいたのだとか。
「送り出すときにはさよならって言わないのよ。いってらっしゃいなのよ。そして次に行ったところから気仙沼を見てみてって。そうすると自分の心のなかに気仙沼が残っていて、また帰りたいって人が帰ってくるよね」
最初は人見知りや言葉の訛(なま)りを気にしていたこともあり緊張していた接客も、杉浦さんやお客さんの「訛っていてもいい、そのままの浅野さんでいい」という言葉で一気に肩の力が抜けた。等身大で一人ひとりと向き合う浅野さんのもとには、ただキャンドルを買うだけでなく悩みをもった人や迷いを抱えた人もやってくる。そのことについて浅野さんは、「悩み相談室でもあるよね」と語る。
「ここに来た子たちの悩みとかには、心を大切にしてあげたいって思うね。キャンドルを買わなくても、あったかく元気になれたらいいなって。それがキャンドルにつながっていくから」
インタビュー中何度も登場した「来てくれるだけでいいの」という言葉が登場したことからも、浅野さんが心からそう願っていることが伝わって来た。
キャンドル工房にふらりとやって来て、そして帰ってくる。浅野さんが工房にいる限り、そんな人の循環は絶えず巡り続けるのだろう。待っているからね、と笑う浅野さんの姿にそう確信する。

3月11日、青いキャンドルに思いをのせて
まもなく東日本大震災の発生からちょうど15年を迎えようとしている。
毎月11日に開催されるキャンドルナイトだが、3月11日は特別である。「3.11 BLUE CANDLE NIGHT」と冠して、ともしびプロジェクトの工房で作られる青いキャンドルを全国各地で灯すのだ。この青にも思いが込められている。
「上を見て、明るい空を見て、ちょっとずつでもいいから前向きになれたらっていう気持ちを込めて『御空(みそら)色』になったんだけどね」
そして、青は海の色でもある。「海と生きる」と決めた気仙沼にぴったりな色だ。
今年の3月11日は青いキャンドルに明かりを灯して、思いをはせてみるのはいかがでしょうか?
3.11 BLUE CANDLE NIGHTへの参加方法の詳細はURLをご確認ください。
情報
ともしびプロジェクト
HP:https://tomoshibi.myshopify.com/
Instagram:https://www.instagram.com/tomoshibi_candle/
ともしびプロジェクト キャンドル工房
住所:〒988-0017 宮城県気仙沼市南町2丁目2−25電話番号:0226-25-8044





