約850年の歴史を持つ陶器として、日本遺産にも登録された日本六古窯(ろっこよう)のひとつ「丹波(たんば)焼」。その産地が兵庫県丹波篠山(たんばささやま)市にある。
丹波篠山市の立杭(たちくい)地区では50軒以上の窯元が建ち並び、それぞれの窯元がギャラリーや工房を持つ。
立杭地区で1890年から続く窯元「雅峰(がほう)窯」では、伝統技法「しのぎ」を使った器が作られている。
「しのぎ」とは、土を削る専用のカンナで焼成前の器を削り、削った後の溝を模様に見せる技法である。削り方によって、ストライプ柄や、花のような形に見せることができる。
「雅峰窯」では「しのぎ」の特徴は残しつつ、ポップなカラーを取り入れたり、使う人のことを考え独創的な器を生み出したり、ストイックに新しいものに挑戦している。
伝統を守りながらも現代にもマッチした器を作り続ける窯元「雅峰窯」。唯一無二の魅力を持つ「雅峰窯」の器は、どのように作られているのだろうか。
「雅峰窯」の4代目・市野秀之(いちの・ひでゆき)さんは、弟子入りした窯元の影響を受け、独立当時から「しのぎ」の器を作ってきた。
今でこそさまざまな場所で見かける「しのぎ」の器だが、デザインには流行がある。売れないときもあったが、色を変え、形を変え、試行錯誤しながら「しのぎ」の器を作り続けてきたという。
市野さんは早くに父である先代を亡くし、また、独立してすぐ家庭を持ったため、生き残るために、家族のために、日々挑戦しながら器を作ってきた。
印象的なブルーの器も、独立したばかりの時に作ったというので驚きだ。「当時は丹波焼やないって言われたけど、丹波焼やないって言われるような作品を作れたのがうれしかった」と市野さんは話す。
「雅峰窯」にとっての「しのぎ」とはなんだろうか。
「雅峰窯」では「しのぎ」を「手で土をしのぐ(削る)こと」と定義しているという。
型を使って「しのぎ」の器を作る作り手も多いなか、一つひとつ丁寧に手作業で仕上げることにこだわる。筆者は、実際に「しのぎ」の器を作るところを見学させてもらった。難しいとされる真っ直ぐのしのぎは市野さんの奥さんが担当している。お二人は市野さん独立当時の22歳で結婚したので作陶歴はほぼ一緒。「しのぐのは僕よりうまい」と市野さんは話す。
奥さんは印をつけずに迷い無く器をしのいで(削って)いき、一糸の乱れもないほどの見事な「しのぎ」を見せてくれた。
また、「雅峰窯のしのぎは究極に繊細なしのぎ」を目指しているという。土を削ったときに、カンナの通り道の両端にできる線(丘)を「稜線(りょうせん)」と表すが、その稜線をいかに際立たせるかということにこだわって作るのだそうだ。
それを追い求めるために、土のブレンドや、「しのぎ」に合う器の形状など、全てを自分で決める。「そこが陶芸の面白いところ」と市野さんは語る。
市野さんの長男と次男も一緒に「雅峰窯」を営む。いろいろな挑戦をされているのは、後継者である息子さんたちのことを考えてのことでもある。
ポップな色合いの器が多い「雅峰窯」であるが、いまは「渋い」器に挑戦している。ポップな色の器はカフェで使われることが多く、渋さや深みがある器だと料亭などでも使いやすいそう。
「雅峰窯」を訪れると自由に器を見ることのできるギャラリーがある。
手にとって、作り手と話して、「雅峰窯」の器の魅力を感じてほしい。
また、「丹波焼」とひとくくりにいっても窯元ごとに作る器はさまざま。約50軒ある窯元が、50通りの器を作っているのが「丹波焼」の魅力である。
それぞれの窯元へ足を運び、自分に合う器をぜひ見つけて欲しい。
(降矢 結さんの投稿)
<情報>
雅峰窯
〒 669-2135 兵庫県丹波篠山市今田町上立杭355
TEL:0795-97-2107
FAX:0795-97-3407