宮古島オリジナル商品開発がキッカケで地域と共に77年。銘菓「博愛せんべい」産みの親、与座製菓所のあゆみ【沖縄県宮古島市】

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ドイツ皇帝博愛記念碑とモチーフになった博愛せんべいを頬張る筆者の息子

「博愛せんべい」産みの親、与座製菓所

沖縄県宮古島市平良下里の腰原(こしばる)地域で営業する「与座製菓所」は1947年創業と、宮古島では長い歴史を持つ事業所の一つです。

主力商品である「博愛せんべい」は、1873年に宮古島沖で起きた「ドイツ商船遭難救助」で、島民の「博愛精神」が世に広まり、それを後世に伝えるべく1960年に開発され生まれた銘菓です。

60年以上も多くの人々に愛され続け、現在は与座政信(よざ・まさのぶ)さん(76歳・1946年生まれ)が2代目として受け継ぎ、2024年現在、3人で製造・販売をしています。

「与座製菓所」外観。 香ばしい甘い香りに誘われます

長年多くの人から愛され続ける「博愛せんべい」。

宮古島銘菓・久松五勇士とならんで、地元産お土産菓子の歴史・知名度において共に時代を歩み、現在も宮古島のお土産の代表的な存在です。

新興住宅地の筋道を入ったところにある「与座製菓所」。

どこか懐かしい街並みを進んでいくと、工場へ近づくにつれ感じる焼き菓子の香ばしい香りが!昔から変わらず地元製造にこだわり続ける「与座製菓所」に伺い、詳しいお話を聞いてみました。

宮古島のオリジナル商品、無ければ創る!の精神は島の「アララガマ魂」

現在も残る「宮古島銘菓お土産」元祖の博愛せんべいと久松五勇士はともに同級生

開発当時の出来事を回想する、2代目当主の与座さん。父親から聞いた話も交えてしみじみ語ります。

「与座製菓所」の創業は1947年、父親の与座金蔵(よざ・きんぞう)さん。当初はパン・生菓子・まんじゅうなどを販売していました。

1960年当時飛行機も1日2便、滑走路も人や馬車が横切る時代。離陸時は消防車で通行止めにしていた頃であり、観光客はほとんどいないためお土産の需要もほぼ無く、また土産菓子自体存在しなかったそうです。

その後、当時の平良市(現・宮古島市)市長である真栄城徳松(まえしろ・とくまつ)氏が、「島の観光誘致による経済復興計画」の一翼として観光のお土産が存在しない現状を改善すべく、島内の菓子製造業組合へ開発依頼。

「地元をテーマにしたお菓子を作る」ことにこだわりを持った金蔵さんは、無ければ創る!という、宮古島方言で不屈の精神をあらわすアララガマ魂で、試行錯誤の末「博愛せんべい」を開発しました。

以来「博愛せんべい一本」に絞り現在も製造しています。デザインは時代とともに細かく変わりつつも、昔からのコンセプトはそのままに昔から変わらない「素朴な味わい・懐かしいパッケージ」に多くの年代から幅広い支持を受けています。

オリジナリティあふれる包装紙を制作したのは先代の友人とのこと。個性あふれるデザインは、店頭で並ぶ商品の中でも、一際目立つ存在感!また、旧表記の市町村名など郷愁を覚える人も多く。イラストも観光誘致の思いが伝わるデザインです。

せんべいの焼印については、2015年に更新しており、島に開通した橋(池間大橋・来間大橋・伊良部大橋)を加え現行化されています。

発売開始から変わらないパッケージ。旧表記の市町村名など郷愁を覚える人も多い。

二代目として継業

地元を離れ本土で就職、タクシー運転手などをしつつ暮らしていた与座政信さん。
1988年に帰郷、家業を継ぎ「2代目当主」となる。この頃40歳。

これまでの思い出や出来事を聞いてみると「幼い頃から家業を手伝い、盆や正月などのイベントも休みはなく、かき入れ時の盆・正月・墓参りなどの行事の際は普段より倍の注文が入る。ほぼ休日なく働き、日々の製造作業、配送業務でまとまった休みも取れず家族旅行もできない。他人が遊んでいる時に自分たちは仕事なのが寂しかった」と一言。おいしいせんべいの裏側に存在する、お菓子作りの苦労をしみじみと感じました。

さらにお話を伺ううち、沖縄と本土の文化の違いによる思わぬトラブルがあったことも判明しました。

「博愛せんべい」発売当初は「ドイツ皇帝博愛記念碑」※が焼印のデザインで、徐々に知れ渡るようになり、売上も増えて来ていたのですが、沖縄と本土との文化の相違で思わぬ苦情があったといいます。

「墓石に見える」

現在はその限りではありませんが、沖縄のお墓は本土とは違い、屋根のある「破風墓(はふばか)」や亀の甲羅のような「亀甲墓(きっこうばか)」が主流であったことから、せんべいの焼印にしたデザインがお墓に見えるなど、夢にも思わなかったという想定外のトラブルに困惑したそうです。

その後、試行錯誤の末宮古島の地図の焼印を基本デザインに設定。現在に至ります。

沖縄と本土の文化の違いを深く知りえなかった時代だからこそあったトラブルにも、お客様の意見をひろく聞き取りし改善してきた歴史こそが与座さんの博愛の心かもしれません。

ドイツ皇帝博愛記念碑 宮古島市教育委員会公認アプリ「綾道」より

長年続く早朝からの作業。あたり一面は焼きたてせんべいの香ばしい香りが。

1日約2000枚!与座さんの1日の流れ

与座製菓のスケジュールを並べてみました。大まかな流れは以下の通りです。

5:00 起床~機械の点検

6:00 せんべい製造・袋詰め・包装紙にて梱包作業・卸先への配送

14:30 清掃・後片付け

せんべいを焼く作業は1回の焼き枚数は80枚。一日約2000枚、65箱を4時間かけて焼き上げます。午前5:00から午後2:30まで立ちっぱなしの作業を長年続けている与座さん一家。

体力作業に加え、数値管理の徹底・正確さに恐れ入りました。

創業当時の市長・真栄城徳松氏。池間大橋構想など功績は計り知れない。池間島にて。

 

「離島」というハンデ

せんべいの製造機械は専門のものなので地元では修理できず、故障の際は本土から技術者をよび、とても高額な費用がかかるそうです。保守点検も然り。

「雷が一番怖い」と与座さん。

落雷で故障や、ラインが止まり、焼き作業中のせんべいが廃棄になることも。

修理できるまでの間は製造もストップ。それに伴い収入も止まるなど大変な思いも経験しています。

販売に関しては、現在宮古島の空港やお土産屋に陳列される品はほとんど島外で作られており、島内産の品は3割未満とも言われています。

それというのも、離島という不利な立地条件のなかで製造・流通にかかるコスト面は大きなハンデなのです。与座さんのように個人経営の立場で、大規模な島外企業などの競合がいる中で製造販売をするのは常に困難を極めます。同様な悩みを抱える経営者も大勢いると考えられます。

しかし、与座さんはあきらめません。

「博愛の心」は今でも脈々と受け継がれています。市内小学校。

「せんべいに感謝」現在の想い

「せんべいには感謝しています」と笑顔で語る与座さん。

「先代の苦労の賜物である『せんべい』の看板のおかげで、協力者も出てきたり、色々スムーズに進んだことも多いよ。何より生活できていることが何よりも感謝だね。せんべいに食わしてもらっているさ〜笑」と与座さん。また、事業のやりがいを尋ねると

「先代の生み出した『博愛せんべい』が地元の文化の一つとなり、多くの人々に親しまれていることかな。みなさま、今後とも博愛せんべいをご贔屓(ひいき)によろしくお願いします」

はにかんだ笑顔から、丁寧に言葉を選び紡ぎ出すその姿に「博愛の心」を感じた瞬間でした。

博愛せんべいレシピ集 

neeさん考案の博愛せんべいマンゴーパフェ。間違いなく美味い、、、。Xより。

さて、博愛せんべいは単品そのものでも美味しく食べれますが、お茶やコーヒーとも相性が良く、一工夫することでより一層楽しめます。

今回は友人・X(旧Twitter)で筆者が募った味わい方をいくつかご紹介します。

皆様ご協力ありがとうございます。

① ・ 博愛せんべいマンゴーパフェ                neeさん

② ・ アイスを挟む                   波名城夏妃さん

③ ・ 舌の上にしばらく置いて唾液でふやかして食べる     みつわかさん

④ ・ チョコにまぶしたり、シリアルに置き換えてパフェに   渡真利さん

⑤ ・ 牛乳・ヨーグルトに漬ける                  息子

⑥ ・ 宮古島産リコッタチーズを挟む                筆者

検討の結果、⑥を作ってみることにしました。

 ⑥の宮古島産リコッタチーズを挟む

早速「宮古島産リコッタチーズ×博愛せんべい」の組み合わせで食べてみました。せんべいの香り・サクサクとした食感で始まり、リコッタチーズのまろやかな風味が口の中に広がります。

せんべいのどこか懐かしい甘さ、チーズの繊細な素朴さが手を組んだ「染み入るような味わい深さ・波打ち際の砂浜のように現れては去っていく繊細な甘味・バランスの絶妙な組み合わせ。感動!美味い!」

「シンプルイズベスト!」

さすがの「博愛せんべい」。懐の深さを知りえた瞬間であると同時に新たなデザートの一つとして思い出深い結果になりました。

皆様からいただいた案は、全部紹介できなかったのですが、今後企画する方向で進めて行きたいと考えています。(ご応募、ありがとうございました)

宮古島銘菓「博愛せんべい」

「素朴な味わいは島人の心」そのもの。

「物事の本質や真理は、外に求めるのではなく自己自身の内にある」そんな意味がある、「深く掘れ・己の胸中の泉・余所(よそ)たよて・水や汲まぬ如(ぐとぅ)に」という、筆者自身の座右の銘である、沖縄学の父「伊波普猷・いはふゆう(1876-1947)」がニーチェの言葉を基に詠んだ琉歌があります。

そんな歌を朧(おぼろ)げに感じながら、博愛せんべいの素朴な味を味わいました。島人の心の中にまだ眠っている地元の宝物を見つけ続けたい、そんな思いを持ちました。

そして「時代は変われど変わらない大事な何か」があるという実感と、先人がつないできた希望、重ねた苦労のおかげで現在があることを改めて実感した取材でした。

【ご案内】

博愛せんべいは、与座製菓のこだわりとして「出来立て」に近いうちに味わって欲しい思いから、消費期限を2ヶ月に設定してあります。(実際は4ヶ月日持ちします)

また、購入先は以下に限られているのでご注意ください。

島の駅みやこ
スーパーなかそね 
宮古空港
亀浜お土産品店
ドンキホーテ宮古島
※与座製菓所にて店舗販売も可能です。(14:00~)

【企業情報】

与座製菓所
代表 与座政信

〒906-0013
沖縄県宮古島市平良下里1509-4
電話 09807-3-7797

波名城優

波名城優

沖縄県宮古島市

第7期ハツレポーター

1982年宮古島市出身、在住です。
一時期島を離れ、帰郷後地元の魅力を伝えるため、宮古島をテーマにしたコンテンツ制作事業を小さく展開しています。
自然、文化も多彩な宮古島の魅力をローカル目線で紹介致します。
特技 撮影 サーフィン ギター演奏

2 件のコメント

  1. 素晴らしい内容と、解りやすい解説。商品の経緯と、それに関わる方々の苦労。最後は、食べ方のアレンジ方まで。幅広い内容で、最後まで、一気に読んでしまいました‼️とても、素敵な情報を、教えて頂き、感謝申し上げます‼️これからも、伝統の伝承を、たくさんの方に、伝え続けてくださいね‼️😆

    • 名城さま

      丁寧なコメント、ありがとうございます🙇とても嬉しいです。
      私は「地域だけの宝物」や、「時代が変わっても変わらない大事な何か」をテーマに執筆をしています。

      今回は、地域のみんなが知っているけど詳しくはよく知らなく、作り手の情報がほとんどない「博愛せんべい」を多くの人に知って欲しい気持ちと「博愛せんべいが愛されている」事を作り手の与座さんに知ってもらいたい思いも強かったためどうしても記事にしたく、取材を重ねました。

      今回もですが、与座さん夫妻からの情報提供、博愛せんべいの愛好家から「情報・レシピ提供」など協力を戴き、多くの人で力を合わせ完成しました。感謝です🙇

      与座さんや、作業風景の写真はNGだったのが少し心残りですが、すごく「独特で魅力ある風景」なので来島の際の楽しみにとっておいてください✨

      今後もまだまだ眠る「地域の宝」を日々探し、光を当てゆく次第です😊

      ありがとうございました🙇

                        「ローカリティ」記者レポーター
                                  波名城 優

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