沖縄県宮古島市上野(みやこじましうえの)地域には「博愛」の文字を取り入れた企業の看板やイベント・石碑がよく見られます。「宮国(方言名・ミャーグン)」集落では「博愛」を冠したイベントもあったり、人の優しさを強く感じることが多く、今回は宮国集落で、なぜ「博愛」が親しまれているのか気になり、歴史を紐解きながら掘り下げると同時に、地域で「愛を込めたお惣菜」を作っている人に取材を試みました。
目次
博愛の看板集
キッカケは151年前の出来事
1873(明治6)年「ドイツ商船ロベルトソン号」が福州からオーストラリアに向け出航したが、台風にあい宮国集落の沖合の大干瀬に座礁し難破した。宮国の人々は荒れ狂う激浪の中に危険をおかして救助し、34日間親切ていねいに手厚くもてなし、帰国させた。ドイツ政府は宮国の人々の救助に感激し「皇帝ウイルヘルムⅠ世」は、1876(明治9)年軍艦を派遣して平良市親腰に謝恩碑を建立させた。この事は、1937(昭和12)年発行の文部省「尋常小学修身書巻4」に「博愛」という題でのせられ、全国の小学校で教材となった。1936(昭和11)年は1876(明治9)年から満60年に当るので、宮古郡教育部会では、外務省の協力で大阪市在住の下地玄信氏を委員長に、あらたに遭難現場に遭難記念碑を建て盛大な式典が挙行された。この碑は、近衛文麿公の筆による“独逸商船遭難之地”という辞を刻んだもので、大阪市の石材店でつくられたものである。
宮古島市教育委員会公認アプリ「綾道」より引用
詳細は「うえのドイツ文化村ホームページ」にて確認できます
「なぜ宮古島にドイツ?」うえのドイツ文化村ホームページ
https://www.hakuaiueno.com/guidance.html
宮国集落は伝統行事に加え、ドイツを取り入れたイベントも多く見られ、調べてみると集落内の神事以外に、主に以下の祭りがありました。
・宮国の大綱引き(旧盆)
・博愛の日 (7/12日・旧上野村が制定)
・鯉のぼり祭り(ゴールデンウィーク)
・ダンケフェスト(ダンケはドイツ語で「感謝」の意)
・上野博愛まつり
また、宮古島市立上野小学校では、「博愛の日」活動に取り組むことで、普段過ごしている地域に感謝することや地域をきれいにする気持ちを育てることをめざし、美化活動や「上野博愛まつり」図画・作文コンクールへの参加が行われています。
資料を紐解くと見えてくる「人々の歴史・地域をあげての博愛精神の伝承」に感動を覚えつつ、「リゾート開発で様変わりした『宮国集落』において、現在も『博愛の心』を見つける事はできるのであろうか?」と新たな興味が浮上してきました。
そこで、最近個人的なご縁から、宮国集落で地域に寄り添い「地元の人」たちから愛される「お惣菜屋さん」を取材したので紹介します。
現在も残る博愛の心。「美味しい!!」の一言が事業を続ける原動力
宮国集落で地域に寄り添い、地元の人たちから愛されるお惣菜屋さん「JUNちゃん亭」は青い海が展望できる場所でお店を開いています。保存料や香料などの添加物が使用されていない、無添加にこだわった「アレルギー対応お惣菜」を作っています。島ではなかなか見られないお惣菜です。
取材に対応してくれたのは「JUNちゃん亭」店主の渡真利(とまり)ともえさん。
我々の訪問にお茶とお茶菓子という「メニューにない品」での対応してくださり、ありがたく頂きつつお話を伺いました。
開口一番「ご飯を作るのが大好きで、美味しい!の一言がとても嬉しいです」と渡真利さん。
アレルギー持ちであるご自身の経験から、誰でも安心して食べられることを考えてお惣菜を作っています。アレルギーがあると食べられないものが多くありますが、限られた食材で、調味料にこだわることでおいしく食べられる工夫をしています。
アレルギーを持つ人やアレルギーがあるお子さんを持つ親御さんからも信頼されています。
「家賃がないから値段を抑えることができている。しかし、材料も高騰していて値上げも検討中」との事で、無添加にこだわるとなると工夫も多くなるなど大変な苦労がうかがえます。
開業のキッカケ
幼い頃、おばあちゃんの見よう見まねで「んぎゃな」※を包丁で刻む楽しさをおぼえ、そこから調理に目覚め、「現在も楽しみながら続けています」と笑顔で語ります。
「皆でワイワイガヤガヤと楽しむ空間が好き」とフレンドリーな雰囲気を持つ渡真利さん。
そのため普段から来客が多く、料理を振る舞いとても喜ばれ「この延長でお店やったら?」と多くの人々から提案された事がキッカケで開業に至ります。
※ ニガナの方言名
キッチンカーは一目惚れで購入。店名になっている夫の「純(じゅん)」さんに運転してもらい移動販売することも。また、出前も可能とのこと。
かわいいキッチンカーで届くのを想像するだけでワクワク・プレミア感が増して、まさに地域に寄り添った新たな「ラグジュアリービジネス」だと感じました!!
座右の銘『何事も一生懸命』
リフレッシュは「映画鑑賞」、そして座右の銘は「何事も一生懸命」と渡真利さんは話します。
渡真利さんのように楽しそうに一生懸命仕事をする姿は地域の財産の一つであり、「楽しみを仕事にしながら地域に寄り添う」姿に憧れる子供達も大人も必ずいるはずです。
未来の世代へ職業の選択肢を示す事で、宮古島の昔からの問題「若者が島を離れてほとんど戻ってこない」の解決にも繋がると渡真利さんは信じてお店を営業しています
151年経っても生き続けている「博愛の心」
筆者が知る宮国出身の友人たちに共通している「人なつっこい笑顔・心優しさ・ユーモア」は、渡真利さんも含め、地域が紡ぎ続ける「宮国の宝物」だと感じました。
151年経っても生き続けている、大きな愛・地域の優しさ・集落で助け合う「博愛の心」を十分に感じた取材でした。
開発で様変わりした現在においても、昔から変わらない地域の財産である「博愛の心」そして151年前から現在も「宮国」集落を賞賛し続けるドイツ人の心をおぼろげに感じました。
取材撮影協力:波名城夏妃
【企業情報】
JUNちゃん亭 インスタグラム
https://www.instagram.com/jun_chan_tei/?hl=ja