地域をつなぐ、心のアンテナ。アマチュア無線でつなぐ地域とその先にある世界とは【福島県いわき市】

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福島県いわき市を拠点に活動するアマチュア無線クラブ「いわきオーロラグループ」。30余年の歴史を持つ県内最大規模のこのグループの代表:太田 智(おおた・さとし)JI7XXH*さんに、このグループが歩んできた道のりやアマチュア無線の魅力、また、今後の夢について伺いました。

写真:塩屋埼灯台点灯125周年記念移動運用会場となった薄磯集会所、撮影:昆 愛

―最初に、いわきオーロラグループの結成の経緯についてお聞かせください。

当会は1992年に誕生したグループで、現在のメンバー数は約100名です。それぞれが自分の時間と費用をかけて開局し、自由なスタイルで楽しむのが私たちのグループの特徴のひとつです。知人の紹介やおすすめをきっかけに活動の場を広げたり、あえて人口密度の低い地域で電波を利用してネットワークを築いたりする取り組みも行っています。

車で1時間ほど北にある葛尾村などでも活動、写真提供:太田智さん、撮影日:2024年3月11日

―グループ名の「オーロラ」というのはいわきで見えるからなのでしょうか?

いえ、実は第30次南極観測隊の越冬隊長を務めた方がいわきの出身で、その縁から南極で撮影したオーロラの写真を活かしたQSL*カードとアワード*を発行したのが発端です。この「オーロラ」の名前には、壮大な自然現象の象徴という意味だけでなく、「いわき」を広くアピールしながら、メンバーがアクティブに電波を発信していくことも意味しています。

移動運用会場となった薄磯集会所からは太平洋と灯台も良く見える、撮影:昆 愛

―では、太田さんは、どのようなきっかけでアマチュア無線に興味を持ったのですか?

実は学生時代にも無線関連の部活動はあったのですが、まったく興味がわきませんでした。 社会人になり、福島県内のイベントで事務局員としてまだ携帯電話がなかったので無線でやり取りすることがあったのですが、無線免許がなかった私は隣で指示を出すだけ。 それが、実際に無線の資格を取って自分で交信してみたらこれがすごく楽しくて。無線を通じて人とつながることの魅力に一気にハマりました。

写真:無線交信中の太田さん、撮影:昆 愛

―グループの活動のまとめ役として、最もやりがいを感じるのはどんな時ですか?

今の自分があるのは、多くのアマチュア無線局の皆さんと関わることができたおかげです。自分自身も楽しみつつ他の無線ファンにも同じような関係を築いてほしいという思いで、メンバー同士がより深くつながれるような環境づくりに努めてきました。最近も、10年以上音沙汰がなかった方から突然、「もう一度無線をやりたい」と連絡が来て驚きました。活動を始めてから30年以上が経ち、メンバーの入れ替わりはありましたが、続けていくことが何より大事だと思っています。

栃木県那須で仲間との無線交信のひとコマ、写真提供:太田智さん、撮影日:1992年

―今までの経験の中で、印象に残ったエピソードはありますか?

以前、視覚障がいがありながらサウンドテーブルテニス*やマラソンなど、さまざまな活動に積極的に取り組んでいる女性がいました。無線の魅力は、彼女のように外出が難しい場合でも、多様なバックグラウンドを持つ人々とつながれることにあると思います。生活環境や年齢、国籍を問わず、無線を通じて広がっていく人間関係こそが、アマチュア無線の楽しさのひとつですね。

市内で開催された年忘れ会にて仲間たちと。写真提供:太田智さん、撮影日:2024年12月07日

―最後に今後の展望や目標について教えてください

来年2026年9月には、いわき市が市政施行60周年を迎えるので、それに先立ち今年の夏から記念カードの配布を予定しています。このカードは、無線交信を通じていわき市の魅力を全国に、さらには世界に発信するツールとして活用したいと考えています。

また、防災士養成研修への参加をメンバーに呼びかけ、アマチュア無線を活用して地域の防災力を高める取り組みも進めています。これからも行政や地域団体と連携を図りながらいわき市を拠点に人々のつながりと安全な社会を築いていけたら良いですね。

―ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。

来年にはいわきオーロラグループも参加して『いわき市アマチュア無線ネットワーク(仮称)』の立ち上げを検討中とのこと。これからももっと活動の幅が広がりそうです。

補足情報

JI7XXH・・・太田さん個人を特定するためのコールサイン。コールサインとはアマチュア無線局を開局した個人を識別するための番号。電波法上、名前やニックネームで通信するのは違反となるため、指定されたコールサインを言うことがルールとなる。
QSLカード・・・無線交信の証明書
アワード・・・交信した地域や局数などの成果を証明したたえるもの。証明書や認定証に近い。
サウンドテーブルテニス・・・視覚障がいのある選手が行う卓球競技。使用するボールに金属球が入っており、転がると音がする

昆愛

昆愛

埼玉県川越市出身。前住地は山形県鶴岡市。会社員のかたわら、地域資源の掘り起こしとその魅力発信活動に取り組む。2023年、「誰もいなくなった町。でも、ここはふるさと~原子力発電所と共存するコミュニティで“記憶”と“記録”について考える【福島県双葉郡富岡町】」で本サイトのベスト・ジャーナリズム賞を2年連続受賞、また2024年、天文活動の報告・交流等を目的としたシンポジウムでの発表「天文文化史で地元の魅力発信?九曜紋が導く新たな誘客構想とは【福島県南相馬市】」で渡部潤一奨励賞を2年連続受賞。

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