
株式会社アイ・クルール
Tomohiro Ishigaki
石垣 智浩氏
図書館と情報拠点を合体させた新しいカタチの地域メディア「8BOOKs SENDAI」を立ち上げた株式会社アイ・クルール代表の石垣 智浩(いしがき ともひろ)さん。地元仙台を愛する石垣さんは、仙台に恩返しをしたい気持ちと、大好きだからこそ仙台の問題も感じています。それは、仙台が持つポテンシャルを地域の強さへうまく変換できていないこと。地域の強さは、地域メディアが左右するという思いから、8BOOKsは誕生しました。
「昨日と違う今日がいい!」。変化に強い人材育成のために、会社にぐちゃぐちゃした要素を取り入れる
株式会社アイ・クルール立ち上げまでのキャリアをお聞かせください。
私は洋服が好きで、社会人になって最初にスタイリストのアシスタントの仕事に就きました。しかし収入面の問題などから洋服の仕事を辞めて、不動産業の会社に就職しそこで6年間勤めました。
その後、共同経営という形で同じ不動産業の会社を開業しました。2年半ほどで共同経営を解消し、2009年に株式会社アイ・クルールを開業しました。

アイ・クルールは不動産業を軸としながら、「衣食住」のすべてをコーディネートする企業とのことですが、広く事業展開をしようと考えた理由をお聞かせください。
最初の仕事がスタイリストだったほど、私は洋服が好きです。そんな私が不動産業に携わる中で感じていたことがあります。例えば、10万円の冬物の赤いコートを気に入って購入したとします。
お気に入りのコートを着ると、気分が「ルンルン」しますよね。女性は特にわかりやすいと思います。ところが、不動産業の世界だと、たとえ何千万という高価な物件のやり取りでも、手に入れた時の喜びは、赤いコートの「ルンルン」にはそう勝てない。不動産は、手に入れた時の喜びを感じにくいです。
特に新築不動産はそうですが、手元の予算ありきで、予算にあわせて物件を購入するので、そこに妥協の感情が生まれがちです。しかし、不動産業の中でも、中古物件のデザインリフォームは違います。もともとある比較的手頃な中古物件を、家族構成や住む人の色の好み、ライフスタイルや住み心地を一緒に考えてリフォームをすると、新築不動産を購入した時よりも、喜びがぐっと大きくなると感じていました。お気に入りの赤いコートを着る時に感じるような「ルンルン」とした顔で喜ぶお客さんが見られる。そんなお客さんの喜びを感じられるデザインリフォームの仕事はとても楽しいですね。
アイ・クルールを開業する時、社名を「〜ホーム」や「〜ハウス」にしなかったのは、「衣食住」を通して、、不動産業のあり方を見直したり、不動産業だけではできない何かを実現していきたいという思いからです。「もの」である建物中心というより、「ひと」にフォーカスできる仕事がしたいと考えました。

実際に広く事業を展開する中で、どのような気づきがありましたか?
経営者になってはじめて気づいたことですが、人間は変化を怖がる人がほとんどだということです。しかし、ビジネス現場では、物事に一喜一憂しすぎず、常にクリエイティブの要素を備えた、「変化に強い人材」を育てる必要性を感じます。そんな人材を育てるには、会社の中で変化について話し合うというより、会社にあえてぐちゃぐちゃした要素をつくるのがいいと考えつきました。
具体的には、アイ・クルールという一つの会社の中のあるパートでは何千万という不動産の仕事をして、隣のパートでは一杯数百円のカフェの売り上げについて話しあっている、という風に、規模や内容に変化がある会社にしておいた方が、さまざまな状況に慣れ、変化に強い人材になる。8BOOKsも変化の一つと言えます。
必要なのは、地域メディア。仙台のポテンシャルを「地域の強さ」に変換したい!
メディア事業をはじめたきっかけを教えてください。
私は、地元仙台が大好きです。仙台でアイ・クルールを設立して以降、利益一本でやってきましたが、大好きな仙台に何か恩返しをしたいと思うようになりました。しかし同時に、好きだからこそ考えてしまう仙台の問題点がありました。それは仙台が人口や経済規模、学校の数など恵まれた都市構造を持ちながら、そのポテンシャルを地域の強さへと変換できていないことです。私が考える地域の強さを示すバロメーターの一つに、地域メディアの強さというものがありますが、仙台はその強さが十分とは言えない。それならば、私が地域に根ざしたメディアを設立しよう、と考えました。
本を通じて、人生が変わった経験を伝えたい!若い世代が本を手にするきっかけを

メディアとして、なぜ「図書館×情報拠点」を思いついたのですか?
メディアと本は完全なイコールでつながりませんが、私自身が本によって人生を変えられた経験があり、地域の若い世代を中心に本の持つポテンシャルを知ってほしいという思いから「図書館×情報拠点」のかけ合わせを思いつきました。
私が本を読むようになったのは、仕事に打ち込み始めた20代前半からです。最初は手当たり次第いろいろなジャンルの本を手にとり読んでいましたね。読んだ本の数が増えていくと、「自転車に乗れた!」という感覚に似ていますが、次第に理解できることが増えて仕事が楽しくなってきました。今も読んでいますし、本は楽しいですね。8BOOKsの空間デザインの力で地域の特に若い世代の方々に自然な形で本に触れてもらうきっかけがつくれたらと思っています。

8BOOKsの現在の事業内容、特に力を入れていることを教えてください。
8BOOKsの建物は、閉鎖した旧七十七銀行八本松支店の建物を買い取って、図書館と情報拠点になるように改装したものです。1階は図書と閲覧スペースで、中高生から20代くらいまでの若い世代の利用が中心です。もちろん図書館にある本を読む場ですが、ここで自習をしている子もいます。2階は巨大なキッズルームになっていて、絵本をたくさん置いています。赤ちゃんからおばあちゃん、おじいちゃんなど世代の幅は広いです。また8BOOKsをスタジオとして利用し、YouTube発信をしています。それから、施設内イベントや外部出店もしています。最近は仙台パルコさんや一番町商店街のお祭りに出店しました。
立ち上げ当初から特に力を入れていることは情報収集です。10年後、地域の強さを引き出すことのできるメディアになるためです。仙台の経済や文化、人、街のさまざまな情報を、10年かけて8BOOKsが吸収をして、10年後にどんな形のメディアであれば、仙台の持つポテンシャルを引き出せるのか答え合わせをする計画をしています。
8BOOKsを通して、うれしいと感じた経験、逆に難しいと感じた経験はありますか?
私がうれしいと感じるのは、社員やアルバイトスタッフが8BOOKsに入ってきた時と比べて、発言や顔つきに成長が見られた時。
難しいと感じていることは、スタッフの成長が止まってしまった時ですね。人によって、成長の満足ラインに違いがある。ゼロからスタートして本当は10点まで成長できるのに、5点のところで満足してしまって、そこで止まってしまう。そうなった時、スタッフが満足をする基準をあげていくためにどうすればいいかという解答はまだ見つかりませんが、スタッフに期待し続けるようにはしています。
地域を閉じ、情報鎖国をすることで、もっと取り上げられていいヒーローが見つかる!

8BOOKsの将来のビジョンを教えてください。
かつてはメディアというとテレビが王道でしたが、最近は情報の発信や入手の手段がさまざまになってきました。これから5年後、10年後はマスメディアというより、地域性があるメディアがより強くなると思っています。どこに住んでいるかわからない人に手当たり次第に発信するより、どこに住んでいるのか、ある程度わかる人にフォーカスをして、情報収集や発信をする方が、メディアとしての効果が高い。
8BOOKsは、仙台や宮城県のポテンシャルを地域の強さに変換するために、これから必要とされる地域メディアを作り上げることが目標です。「地域を閉じる」とか「情報鎖国」いう言葉を私は使いますが、世界や日本という広い範囲で見るよりも宮城県や仙台市という閉じられた範囲で見ると、本当は取り上げられていいはずのいい店や人、仙台のヒーローが実はもっとたくさんいることに気づくと思います。地域の人が地域のヒーローを知ることで、地元への愛着が増し、その熱量の総和があがることで仙台という街全体のパワーアップにつながるはずです。
繰り返しになりますが、仙台や宮城県が持つポテンシャルをもっと発揮できる強い地域にしたいという思いから8BOOKsをやっています。
取材日:2024年12月26日
株式会社アイ・クルール
- 代表者名:石垣 智浩
- 設立年月:2009年9月
- 資本金:700万円
- 事業内容:不動産事業、飲食・サービス事業、メディア事業(民間図書館・ 情報拠点)、ファブリック事業
- 所在地:〒982-0001 宮城県仙台市太白区八本松一丁目13-10 S2
- URL:https://i-couleur.co.jp/
- URL:https://8books.jp/
- お問い合わせ先:https://i-couleur.co.jp/contact/
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