
日本最大級の採掘量を誇る御影石(みかげいし)の産地、茨城県笠間市稲田地区。そこから染み出る地下水は鉄分が極めて少なく酒造りに適した水といわれています。この地区で地元の水と地元の米を使い伝統的な手法で酒造りをしている「磯蔵酒造」。現在は日本酒の醸造だけでなく、米蔵を改造した長屋に、カフェ、工芸ギャラリー、日本酒バー、イベントスペースなどを設け、地元笠間市の魅力を存分に楽しめる複合施設を運営しています。
今回はこちらの蔵元(酒造会社の経営者のこと)である磯貴太(いそ たかひろ)さんに、酒造会社が始めたこの新たな取り組みについてお話を伺いました。また、7/21(月)海の日には、この施設内で地元農家さんが自慢の農産物を販売するファーマーズマーケット「にわには」が開催されましたので、その様子も併せてご紹介したいと思います。
目次
茨城県笠間市は、陶芸「笠間焼」で知られるだけでなく、日本最大級の石材産地
茨城県笠間市稲田地区。ここは「稲田石(いなだいし)」と呼ばれる御影石(花崗岩の一種)の一大産地。「稲田石」はその際立った「白さ」が特徴の一つで、別名「白い貴婦人」とも言われる石材です。優れた耐久性まで兼ね備えたこの「稲田石」は、明治以降、近代化が進むとともに本格的な採石が成され、国会議事堂、最高裁判所、東京駅、日本銀行本店など、日本を代表する建築物に使用されたという歴史があります。
この石灰分を多く含む御影石からなる大地をとおって染み出た地下水は「石透水(せきとうすい)」と呼ばれ、鉄分が少なく酒造りに適していると言われています。
この地下水と地元農家と一緒に育てた米を使い、この地で酒造りをしているのが「磯蔵酒造」。創業から150年以上経った今でもその原点を大切にしています。
磯蔵酒造が掲げる酒造りの三大要素は、「水」(石透水)、「米」(自産米)、そして「情熱」(人)。目指す味やうまさを実現するためには、これらは全て不可欠なものとなっているのです。
この磯蔵酒造の蔵元をされているのは「酒は人ありき」と考える磯貴太さん。江戸末期に酒造りを始めた酒蔵の初代から数えて5代目にあたる方です。「磯」という苗字の由来は、「石」が「幾らでもある」場所だからとのこと。20代で酒造会社経営という重責を担うことになりましたが、始めは苦労の連続だったといいます。
「わがままに」やり通して始めた新たな取り組み「日本酒文化長屋 磯蔵」

大正時代の建築物をリノベーションして作ったという2023年4月にオープンしたこの施設。入口からすでに高級感漂う雰囲気です。この門の向こうには、蔵を改修して作ったさまざまな施設が並んでいます。

門をくぐるとそこには細長い中庭がありました。日差しがとても強い日でしたが、大きな葉とつぼみをつけた蓮(はす)が、暑さにめげずたくましく元気な姿を見せてくれました。

こちらはカフェのスペース。毎週木曜日にはカレーが楽しめます。人気メニューですので、ぜひ食べてみたい方は売り切れる前に早めの入店をおすすめします。

ここは日本酒の直売処です。磯蔵酒造の代表銘柄は「稲里(いなさと)」。純米吟醸や大吟醸の他、鑑評会出品酒などいろいろな種類のお酒が購入できます。オンラインショップでも購入が可能です。

この他、笠間焼の酒器が置かれているギャラリー、日本酒バー、イベントスペースなどが併設されています。
画像にあるとおり、いずれのスペースも統一感と高級感のあるインテリア。この施設は2023年度「いばらきデザインセレクション」の大賞を受賞しています。
お話をうかがって驚いたのは、こちらの改修、エアコンや冷蔵庫、一部照明以外は、基本的に全て地元で出た廃材などを用い、家族や友人の職人さんと協力して「ハンドメイド」で作り上げたとのこと。これぞまさに「ローカリティ」。この土地のものを使用して、飲む、食べる、見る、触れる、感じるを全て体験できる施設が創り上げられているのです。
磯さん:これらのリノベーションでは既製品を使うのをやめました。なぜなら既製品は人工的な設計がなされていて、「まっすぐ」や「つるつる」などの自然界にはない形に作られているからです。故にどこか緊張感(ストレス)を感じるものになっている。木製の机の板一つとっても、それが心地良いものであるならば、節や穴が少しくらいあっても大きな問題にはなりません。ですから自分がこうしたいと思ったとおりに「わがままに」つくりました。
それ故これらは全ての人に受け入れられるものではないかもしれません。でも「それがいい」と共感してくれる人がいればそれでいいと思うのです。
他人が決めたり、評価していることを追いかけたいのならば、世間に合わせてそれをすればいい。でも自分が目指すものがそれらと違うのならば、他人の評価に無理に合わせる必要はないのではないでしょうか。
お酒の原料となる米を、一般的に評価が高い県外産のものから笠間産のものへと切り替えていったのも、酒造りを追求した結果、自分が出したい味を作るためにはそうすべきだと考えたからです。
今世間では、「世の中がこうだからこうすべきだ」あるいは「こういうものだ」と、マーケティングによってつくられた流行に流されて自分の基準を見失い、常にその対応に追われて、ブームが過ぎるとまた次のブームへと振り回される。その結果全く魅力を感じないものが散見されるようになった気がします。
本当にやりたいことがあるのなら、自分の好みで「わがままに」やればいい。法律で禁じられているようなことをするわけではないのだから。この施設もそういう思いで作りました。
地域の個性は大切にしたいと考えています。その中には、必ずしも都合のいいことばかりがあるわけではありません。不便なことや、面倒臭いこともあるかもしれない。しかしそれら全てがその地域に暮らし、現実のその地域を楽しむということ。
酒造りも同様です。磯蔵酒造では麹菌の都合が最優先。人間の都合のために麹に無理な負担をかけるようなことはしません。だから職人さんはいつもそばにいて酒造りの工程を見守る必要があります。毎日定時に出社して定時に帰り、昼休みも決まって12時から13時までというような現代的な融通の利かない働き方では我々が目指すうまさのお酒は造れないのです。
海の日に開催されたファーマーズマーケット「にわには」

海の日のイベントとして、ファーマーズマーケット「にわには」はこのような蔵の通路にあたるスペースを利用して開催されました。この名前がついてからの開催は今回で2回目。上の画像の左手前には「石透水」の井戸が見えます。

地元農家さん(協力:Mountain Rhythm Farm)の野菜もとてもおいしそうです。

こちらは放し飼いの養鶏もしている農家さん(協力:はだし有機農園)。農薬と化学肥料を使わず、不耕起栽培で野菜を育てています。

通路の天井部分には燕の巣があちらこちらにありました。この燕の家族も今回の「にわには」の参加者ですね。
このように地元で造ったお酒だけでなく、地元の食材、地元の陶芸、地元の空気(風情)を楽しめるここ「日本酒文化長屋 磯蔵」。地元を愛する人たちの心が、今日も多くの人々を引きつけています。
情報
磯蔵酒造
公式HP:https://isokura.jp
公式オンラインショップ:https://isokura.ocnk.net
住所:茨城県笠間市稲田2281-1
日本酒文化長屋 磯蔵
公式HP:https://isokura.jp/nagaya/
住所:茨城県笠間市稲田2281-1
TEL:0296-71-5221
営業時間:11:00~18:00/休業日:火・水(祝日は営業)
駐車スペース:入口前にあり