神戸港のほど近く、新港町にある「国道174号線」。この道は、全長わずか187.1メートルという日本一短い国道として知られている。多くの人が「そんなに短い道に意味があるの?」と疑問に思うかもしれない。しかし、この短さこそが、神戸という港町の歴史と機能を象徴する存在なのである。

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国道174号線が生まれた理由
国道といえば、都道府県をつなぐ長大な幹線道路を想像しがちだが、国道174号線はその例外である。この道が国道になったのは、神戸港から陸側へ荷物を運ぶための重要な通路だったから。1953年に「二級国道の路線を指定する政令」(昭和28年政令第96号)によって、二級国道174号神戸港線として国道に指定。その後、1965年の道路法改正に伴う国道の再編で、現在の「一般国道174号」となり、港湾と都市機能を結ぶ動脈としての役割を果たしてきた。
現在では、かつてのような物資輸送の中心地ではなくなったが、「最も短い国道」として観光的な注目を集めている。道の両端には「起点」「終点」の標識が設置されており、記念撮影をする人の姿も少なくない。
このわずかな距離を歩くだけで、ちょっとした非日常を感じることができるのが国道174号線の面白さである。静かに車が行き交い、港の風が通り抜ける中を歩くと、目の前に開けるのは神戸税関の重厚な建物や、再開発が進むウォーターフロントの風景。歩いてすぐのエリアに、洗練された空間を持つ2つのカフェがあるのもうれしい。

カフェで一息。「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)」の1階へ
国道174号線の終点から徒歩1分ほどにあるのが、旧・神戸生糸検査所をリノベーションした「デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO/キイト)」だ。ここは、デザインと創造性を育む複合施設であり、ワークショップや展示など多彩なイベントが行われている。
その1階にあるのが「KIITO CAFE」。天井が高く、開放的な空間には、歴史を感じさせる建物の意匠と、現代的なインテリアが融合している。メニューにはサンドイッチや日替わりスープのほか、焼き菓子やコーヒーなども並び、ゆっくりとした時間を過ごすにはうってつけの場所である。展示を見学した帰りのひと休みに、あるいは待ち合わせにもぴったりだ。




ロースターの香りに誘われて。「Little Tree Cafe」でもう一杯
もう一軒、紹介したいのが同じく新港町エリアにある「Little Tree Cafe」。こちらはインテリア会社が運営する焙煎機を備えた本格派の自家焙煎カフェで、落ち着いた店内にはコーヒー豆の香りがふんわりと漂っている。店主自ら選び抜いた豆を丁寧にハンドドリップしてくれる一杯は、香り高く、雑味のない深い味わいだ。
また、スイーツや軽食も充実しており、コーヒーとのペアリングが楽しい。店内の空気感はどこかヨーロッパの路地裏にあるカフェを思わせ、日常から少しだけ離れた時間を味わいたい人におすすめである。



Instagram:https://www.instagram.com/p/CwJM6yPSxWj/
歩くことが目的になる道と、そこから始まるカフェ時間
日本一短い国道というと、一見ネタのようにも思えるかもしれない。しかしこのエリアには、歴史的な背景、再開発された都市空間、そして静かで丁寧な時間が流れるカフェという魅力が詰まっている。歩いて1分の道が、想像以上の体験を連れてくるのだ。
休日の午後、海の風を感じながら国道174号線を歩き、そのままカフェで本を開いたり、スイーツを頬張ったりする。そんな「大げさではない小さな旅」が、今の気分にちょうどいい。
忙しい毎日を過ごす中で、ちょっとした散歩とおいしいコーヒーに癒されたいと思う瞬間はないだろうか。神戸・新港町には、それを満たしてくれる静かな魅力がある。日本一短い国道というユニークなスタート地点から、ゆったりとした時間が流れはじめる。カフェ好きなあなたにこそ訪れてほしい、小さな港の物語である。
※写真は全て、筆者撮影(2025,09.05)
情報
KIITO CAFE:https://kiito.jp/floor/1f/cafe/
Little Tree Cafe:https://nobu-s.com/cafe/