
茨城県笠間市で農園を営む三澤ゆかしさん。生産しているのは主に不耕起栽培(畑を耕さずに野菜を育てる栽培方法)で育てた無農薬・無化学肥料の野菜です。アメリカ人のパートナー、ケイシーさんと一緒に野菜を育てるだけでなく、週末土曜日には収穫したばかりの農産物を東京にあるご実家で屋外販売しています。そのロールモデル(理想の姿)となっているのは昔懐かしい「下町の八百屋さん」。農園と直売所の両方に訪問し、お話をうかがいましたので、画像を交えてその様子をご紹介します。
目次
生物多様性に重点を置いた無農薬の不耕起有機栽培とCSA(地域支援型農業)への取り組み
茨城県笠間市で「はだし有機農園」を営む三澤ゆかしさん。アメリカはニューヨーク州出身のパートナー、ケイシーさんと露地栽培で無農薬の野菜を生産しています。その栽培方法は畑を耕さずに野菜を育てる不耕起栽培。土の中にいる虫やみみず、バクテリアなど、小動物や微生物が織りなす生態系に極力負荷をかけず、自然に近い状態で野菜を育てる方法です。
畑を耕さずに土を良くする工夫の一つは、土壌改良のために育てた植物(緑肥・りょくひ)を表層に残し、土が裸にならない状態をつくること。有機物が分解され肥料となるだけでなく、保水性が改善されたり、虫や微生物の住み家になるなどの効果があります。

また、マメ科の植物は、空気中の窒素をアンモニアに変える根粒菌(こんりゅうきん)と共生することが知られており、土壌の窒素分が増えるため、相性のよい野菜を近くに植えると野菜の成長が促進されます。
「はだし有機農園」では、このような工夫を凝らして、年間50品目以上を栽培しています。

このような活動を継続するためにも、この農園ではCSA(地域支援型農業)といわれる契約システムに取り組んでいます。このシステムは、消費者が農家と直接契約をし、前払いで料金を納めることで、購入者は一定期間定期的に農産物を受け取ることができるというもの。CSAメンバーは収穫された作物だけでなく、栽培方法に関する情報や農場からの最新ニュースを受け取ることができます。このようなCSAは近年、農家と消費者が相互に支え合うモデルとして、アメリカやヨーロッパを中心に世界の都市に広がっています。

オーストラリアで知り合った「ゆかし&ケイシー」。共通の趣味は「ロッククライミング」
オーストラリアはシドニー滞在中に知り合ったゆかしさんとケイシーさん。日本では長野県に住み始め、英語の教師をしながら自宅横の畑で家庭菜園を始めました。オーストラリアではファーマーズマーケットで野菜を買うのが楽しみだった思い出もあり、実際に家庭菜園をやってみて「野菜作り」の魅力にすっかりはまることに。
農業を仕事にすることを決めてからは長野県や岡山県の農家で働き、その後就農支援制度があり農業研修もできる茨城県笠間市に移り、2020年から農園をスタートすることになりました。

これまで二人三脚で活動を進めてきた二人の共通の趣味は「ロッククライミング」。日本に引っ越す前には、なんと半年間もキャラバンで暮らしていたというほどの本格派です。

収穫した野菜を自ら販売。理想としたのは、会話も楽しい「下町の八百屋さん」
CSAでの農産物販売以外にも、毎週土曜日には東京都荒川区にあるゆかしさんのご実家で農産物の屋外販売をしています。その名は「町屋マルシェ」。日よけの下にたくさんの種類の野菜がきれいに並べられ、手書きの商品説明が付けられていました。元気な野菜が並ぶ姿はPhotogenic!

取材日は雨だったにもかかわらず、開店直後からたくさんのお客様が「はだし有機農園」の野菜を買いに集まってきました。顔見知りになったお得意様が多く、今日も新鮮な野菜を前にして興味津々な様子です。

あまりなじみがない野菜については、レシピなども教えてくれます。

上の画像にある「ルバーブ」は、とくにイギリスを始めとする英語圏で古くから親しまれてきた夏野菜。酸味に特徴があることから、「ジャム」にしたり、アップルパイのように「パイ」にして食べるのが定番の食材です。一般に、もし葉がついているものが売られている場合には、ルバーブの葉には「シュウ酸」が多く含まれているので葉の部分は食べないようにしましょう。
筆者はルッコラを食べてみましたが、栽培法のせいか一般のものより野菜が元気で味が濃いです!この日は浅草から来られた方がいましたが、遠くはなんと立川!から買いに来るお客様もいるそうです。
そしてなんといってもここに集まる人たちは、売る人も買う人も、みんななんだか楽しそう!お客様同士でも、おいしい食べ方や調理法を教え合うなど、ひとつのコミュニティが出来ていました。
考えてみると、筆者自身は最近、日常品などの普段の買い物を店員と話をしながらした記憶があまりないのです。そのことにすっかり慣れてしまっていて、この「町屋マルシェ」に来るまで、とくに不自然にも感じませんでした。
でもこうして、ここには野菜を買うのを楽しみにしている人たちが集まってくる。年齢も性別も肩書も関係なく、採れたての野菜を目の前にして共通の話ができ、ちょっとした疑問にも答えてくれる人たちがいる。そして、ときには最近の趣味の話にもなる。
かつては特別気にもかけなかったそんな当たり前の光景が、今はなんだか生き生きと輝いてみえるのでした。
日々の買い物での何気ないやりとり。日常の中からすっかり失われてしまった現代の生活においては、心癒される時間のようにも感じます。
今となっては昔懐かしい「下町の八百屋さん」。ゆかしさんは会話も楽しかったその思い出が今も忘れられないといいます。
無農薬の不耕起栽培と地域支援型農業をベースに育てられた農産物を、いつものなじみの「八百屋さん」で買ってくる。
これ、もしかしたら「次の時代のロールモデル」なのかもしれないなと、何だか新たな可能性を感じました。
ゆかしさんが理想とする「下町の八百屋さん」。その姿は、今もここにきちんと受け継がれていました。


情報
はだし有機農園(茨城県笠間市)
ホームページ:https://hadashifarm.weebly.com
Instagram:@hadashifarm
E-mail(CSAに関する問い合わせ先):hadashifarm@gmail.com
町屋マルシェ(はだし有機農園販売所)
住所:東京都荒川区東尾久3-1-12
販売日:毎週土曜日10-13時
(時期によって時間が変わることがあります。詳細は上記「はだし有機農園」のインスタグラムをご覧ください)




