訪れた人が嫉妬してしまうような文化や景色を村につくりたい【秋田県東成瀬村】

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▲成瀬川でトラウトフィッシング

東成瀬(ひがしなるせ)村は、秋田県の東南端に位置し、村の面積のほとんどを山林原野が占め、美しい水と緑で潤い、川には清流のシンボルであるイワナやヤマメが泳ぎホタルが飛び交う、豊かな日本の原風景が色濃く残る地域です。

また、県内有数の豪雪地帯としても知られ、村にはスキー場があります。貴重な成分を誇る温泉もあり、釣りの愛好家やスキーヤーなどにとっては絶好の穴場として親しまれています。

▲ジュネス栗駒スキー場

村の人口は2024年現在2400人に満たず減少の一途をたどり、地域の課題が山積しています。そんな東成瀬村に2020年に地域おこし協力隊として移住し、村を拠点に店舗を持たないドーナツ店を開業し各地のイベントに出店、さらに地域団体まで立ち上げ活動している人がいます。

▲おいしくて大人気「うちのドーナッツ」

村がYouTuberを募集?

▲内野翔太さん

内野翔太(うちの・しょうた)さんは鹿児島県生まれ。進学を機に東京で生活をしていました。東京での生活に「どこか合わない」と感じていた内野さんの元に、友人から「秋田の小さい村がYouTuberの地域おこし協力隊を募集している」という知らせが耳に届きました。

「僕の好きなふたつのことが日常的に出来る環境がある」。村に沿うように成瀬川が流れヤマメやイワナがいる環境があり、スキー場がある。村のことを知るたびに内野さんは心が動いていきました。

「それは自分にとって一番大切なことだったんです」トラウトフィッシングやスノーボードを趣味としていた内野さんは、地域おこし協力隊として村への移住の道を決断するのに時間はかからなかったといいます。

「気心が知れている友人からの誘いだったので、お互い助け合いながら映像クリエイターとして活動していた彼の映像技術を利用し、環境の豊かなこの村をおもしろくすることができるんじゃないかと思ったので地域おこし協力隊として移住を決めました」

▲地域おこし協力隊として移住後、チームで作成・公開された動画:KANAME~要~『たった1人のわらじ職人』

村で暮らし、山積する課題から見えてきたこと

「村に移住して感じたのは『人が集まる場所の少なさ』と『自然環境の厳しさ』でした」

内野さんは村外からの移住者や観光客が長く滞在したくなる拠点が足りないことや、昔ながらの行事やイベントが少なくなり、村民同士の交流の場が減り地域の人々のつながりが希薄になっていることがこの村の課題だと感じました。

また現在、完成すれば台形CSGダムとして日本最大級になる「成瀬ダム」の建設が村内で行われていますが、2027年予定の完成とともに工事の関係者の方の出入りも無くなってしまうことも村の衰えにつながるかもしれないと危惧しています。

そして、「あまりの雪の多さに心が折れた」と内野さんが話すとおり、雪が多く降る村での暮らしは慣れない人にとっては想像以上の苦痛だったそうです。

「でも春になると雪がない嬉しさと同時に、なぜだか雪が恋しくなる、クセになる、不思議な村なんです(笑)」。

村での暮らしがクセになると同時に地域の課題がよく見え、「人口が減ってしまう中で、少ない人数でも豊かに暮らしていけるヒントを、村民で考え、村外から来た人たちも拒むことなく受け入れられる器(場所)が欲しい」と思うようになりました。

旗振り役から組長に!人を受け入れる「丸太組」

▲2024年8月「成瀬ダム祭り」のイベントにて、左が内野さん

内野さんが移住してきたタイミングは新型コロナウイルスがまん延しはじめた真っただ中のころ。ただでさえ人同士が横につながることが難しく、そのうえ人口減少が著しい村となればなおのことです。

▲大人気のドーナッツを揚げる内野さん

2022年に店舗を持たないドーナツ屋「うちのドーナッツ」の営業を始めていた内野さんでしたが、活動を重ねるうち村内にも知り合いが増えていきました。「そんなころ、同じく協力隊で活動する方から村でマルシェを企画したいと相談があり、村民の協力があればできるかもしれないと協力を募ったところ、あれよあれよという間に人が集まったんです(笑)」

内野さんが旗振り役になり、観光客の拠点を作り地域経済を潤す目標と、村の特産品を活用したマルシェを定期的に開催することで、村民同士が交流する機会を増やし地域の絆を深める二つの目標を掲げた地域団体が結成されました。2023年10月に内野さんが組長に就任したその団体の名前は「丸太組」。

「丸太組」はさきの目標を遂行するために、東成瀬村産の杉の丸太を使ったログハウスの観光施設を建設しよう!と名付けられた名前です。

「これまで村から出たことがないメンバーも在籍していて、どう動けばいいかなど解像度が違い温度差があるなか、妥協ではなく、みんなが同じ方向でちょうどいい落としどころを意識しています。正直、ここが難しいところだなと感じていますが、それを克服することで誰もが調和でき、気軽に訪れてくれる施設を作ることにつながると思っています」

この場所で1000年続く文化を

内野さんが立ち上げた「丸太組」は、月一回村内でマルシェ「丸太市」を開催するほか、最終目標のログハウスの観光施設建設に先駆けて2024年9月4日にプレハブの「丸太ロッジ」をオープンさせました。

村でとれたイワナやいぶりがっこを使ったホットドッグや、コーヒーなどの軽食が楽しめるほか、地域おこし協力隊のブックコーナーなども設置した施設です。

仕事の帰りにふらっと立ち寄れる飲み屋があったら。食卓におかずが欲しいと思った時寄れる場所があったら。みんなでお疲れさまとお茶が飲める場所があったら。村民と村外の方が交流できる場所があったら。そんな思いを集約し「ただいま〜」と帰ってきたくなるような場所を目指しています。

▲丸太ロッジの裏にはヤマメのすむ川がある

「丸太ロッジ」はあくまでも一つのステップで、皆が後世につないでいきたくなる文化をいかに作っていくか、というのが内野さんの目的です。「まずはこの村にこんなのがあったらいいなと思うものをひとつずつ丁寧に拾っている段階です。オリジナリティーあふれるコンテンツを作っていけたらと思っています」。

「豊かさがあふれ、東成瀬村を訪れた方が嫉妬してしまうような、文化や景色を丸太組で作れたら嬉しい。さらにそれが今後1000年続くような文化になったら」と内野さんは笑顔で話します。

出ていく理由がない魅力のある村。厳しさを逆手に取ったコンテンツをつくりたい

「僕にとって東成瀬村は、村から出ていく理由がない場所だと思っています。縄文時代から人が住んでいて、明治まで続いた物流の街道もあったハイテクな土地。岩手、宮城、近隣の市内へのアクセスも良く、それでいて厳しさのある圧倒的な自然が残ってる。できないことはむしろない。見捨てられない場所です」

内野さん自身が体感した厳しい自然の中でこそ生まれるチームワークや絆がそこにあるそうです。

「あえて、厳しい自然の中での人との関わり方を体験してもらう。自然の厳しさなどを逆手にとった雪かき協力や集落の草刈りや力仕事、大雪キャンプとか。そういったコンテンツに県内外から多くの人に関わってもらいたいです。将来的に日本の地域課題のモデルとなるような、人口だけに依存しない地域社会が作れたらと思っています」

訪れた人が嫉妬してしまうような文化や景色が、内野さんたちの手によって芽吹いています。

関わりしろ

(丸太組組員募集)
丸太組の運営の手伝い
イベント運営の手伝い
丸太組の広報活動
雪かきや草刈りなどの公園内整備
大雪キャンプなど企画に参加したい方

情報

丸太組・丸太ロッジ
Instagram:https://www.instagram.com/maruta_gumi/

うちのドーナッツ
Instagram:https://www.instagram.com/uchino_doughnuts/

営業情報は各Instagramをご確認ください

天野崇子

天野崇子

秋田県大仙市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター/1968年秋田県生まれ。東京の人と東京で結婚したけれど、秋田が恋しくて夫に泣いて頼んで一緒に秋田に戻って祖父祖母の暮らす家に入って30余年。

ローカリティ!編集部のメンバーとして、みなさんの心のなかのきらりと光る原石をみつけて掘り出し、文章にしていくお手伝いをしています。

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