
NANOBRAND合同会社 COO
Hideyuki Tahakashi
高橋 秀行氏
新潟の燕三条エリアで、社会課題に寄り添うクリエイティブな仕事を展開する「NANOBRAND」。COO(最高統括責任者)の高橋 秀行(たかはし ひでゆき)さんは、大学で航空宇宙工学を学んだ後、自らの問いに導かれ、地元にUターン。兄とともに立ち上げた会社で、ものづくりと地域をつなぐ新たな価値を育てています。仕事への視点、プロジェクトの舞台裏、そしてこの地で働く意味を語っていただきました。
宙から地元へ!?“見えない価値”を追いかけた若者の原点
会社立ち上げまでの経緯を教えてください。
高校卒業後1年間予備校に通って、航空宇宙学が学べる大学へ進学し、神奈川県に住み始めました。人工衛星の打ち上げ前後の試験や、試験打ち上げ用の軌道解析などをもとに研究をしていたのですが、あるときふと「これは誰にとっていいことなのだろう?」という疑問が浮かんできたんです。
そこから「目に見えるもの」「人が感じられるもの」へと興味が移り、ソフトウェア会社に就職しました。
その会社が燕三条とつながりがあって今にいたるというわけですか。
いえ、違います。その会社で上司に「燕三条ってものづくりで有名な地域だよね」と言われたんですよね。そこで初めて、自分の地元を意識し、2011年に地元に戻ることになりました。
前職を退社して、地元にUターン。まず何を始めましたか?
ものづくり関係の支援です。設計のお手伝いや図面、データの作成、ソフトウェアの立ち上げ支援など、当時の僕ができることでさまざまな会社さんをサポートしました。
なかでも多かったのは、ソフトウェアの活用支援でしたね。職人さんが多いこのエリアでは、せっかくソフトを導入しても使いこなせず、“置物”になってしまっている会社さんも数多くありました。
そこからどのようにしてNANOBRANDを立ち上げたのでしょうか。
兄が僕より一足先に個人事業主としてこのエリアで活動していて、製造業をはじめとした事業立ち上げのサポートをしていました。ちょうどこのタイミングで「自分たちのブランド価値を高め、きちんとした商品開発をしよう」という機運がこのエリアに流れ始めたんです。コンサルティング的なアドバイスを求める企業さんも増えてきたなかで、2019年に兄とともに「NANOBRAND」を立ち上げました。
「小さな価値を、大きく育てる」。NANOBRANDの哲学
会社名の由来を教えてください。
「微小」という意味を持つ「nano」。“小さな会社の価値を高めるお手伝いをする。ちゃんと発掘して、広げて、つなげる”。そんなことをイメージしました。
当時感じていた、このエリアならではの特徴は?
とにかく面白いことをしている地域です。一方で、面白いことをしたくても実現できていない会社もある。二極化が進んでいるな、という印象を持っていました。そういった会社さんに伴走型で寄り添い、同じ目線でお手伝いをしたい、と思っていましたね。
現在の事業内容を教えてください。
社会課題解決をテーマにしたソーシャルビジネスで、「デザイン」「商品開発」「ものづくり」の三つを柱としています。
デザイン事業では、Web、チラシ、POPの制作を展開。「商品開発」では、新商品の企画から製造、発信までを一貫してサポートしています。
また、老若男女が憩えるよう、駄菓子屋やフリースペースを備えた「三条ベース」、ものづくり文化を後押ししようと「ファブラボ」などの店舗運営も行っています。

さまざまな職種、クリエイターのいるこのエリアだからこそ、さまざまなクリエイティブなものが生まれていると思います。ご自分が携わったもので、強い手応えを感じたお仕事はありますか。
常に面白いことをやらせていただいていると思っています。基本的に僕らの発想の根底には「もったいない精神」があるんです。現在、受けている案件のなかに「未利用魚」があります。大きさや量などの理由で利用されないこれらの魚に役割を持たせようと、割烹に調理をお願いし、福祉作業施設で加工して商品化するというプロジェクトです。
こういった一連の流れを構築できるのは、やはり楽しいですね。メディアに取り上げられ、行政も一緒に動き始めてくれています。

「それ、本当に誰のため?」から始まったソーシャルビジネスの美学
現在のお仕事を通して、このエリアにより愛着を持つようになってきているように感じますが。
そうですね。昔から愛着はありました。いくつかの要因があると思います。通学路の途中にある工場のゴミ箱から、かっこいいと感じた部品を拝借して遊んだこと。ものづくりが常に身近にあったこと。僕が14歳のころ、建設関係の仕事をしていた父が他界し、葬式に想像以上の方々が参列してくださったこと。神奈川から戻ってこのエリアの青年会議所に入り、「地域がよくなれば自社もよくなる」という考え方に触れたこと。小さな工場が集まるこのエリアならではの人とのつながりを知るにつれ、愛着はより深まってきていると思います。

お仕事をするうえで大切にしていることはなんですか?
ソーシャルビジネスの仕事をするうえで、「相手のやりたいことに合わせすぎない」ことを大切にしています。相手のやりたいことに寄せすぎると、だんだん本来の目的から逸れてしまうことがあるんです。相談される方は、現状で困っているから相談しているわけです。だから最終的なゴールを共有したうえで、段階を経て到達する方法を伝えていきます。そうすることで、本来の目的を見失わないようにしています。
とはいえ、相手のビジョンを引き出すことも大切なので、そのバランスは常に意識しています。
アイデアが化ける瞬間。現場で光ったプロデュース力の真骨頂
たとえば、どんな事例がありますか?
金属加工の会社さんのお話です。靴の形をしたプルタブオープナーを作られていたんですね。すごく磨きをかけてツヤツヤな仕上がりの製品を手にしながら、「これ、きれいだし、売れると思うんだよね」と僕に話してくれたんです。そこで「誰に売るの?」と聞いたら、「爪が長い女性。たとえばネイルサロンで働く人」と答えました。僕は「むしろ、ネイルサロンさんにデコレーションを依頼して、協業という形で売り出すほうがいいのでは?」と提案しました。他愛のない会話から始まって、ブランド展開にまでつながった例です。


ソーシャルビジネスというお仕事には、プロデュース的な要素もあるんですね?
ありますね。特に商品開発となると、100%がディレクションであり、プロデュース的な仕事になると思います。
この街と、もっと深く。産業の“点”を“面”に変える未来構想
これから先、どういった形でこのエリアと寄り添っていきたいとお考えですか?
各社それぞれに強みがあり、実現できることや作り出せるものを持っています。これまでこのエリアで仕事をしてきて、ことあるごとにそれを痛感してきました。ただ、それぞれの仕事はそれぞれで完結していて、まとめるということをしてきませんでした。僕たちがこれまでやってきたことを今一度まとめて、いろいろな方々に伝えることで、このエリアに「社会課題解決」という考え方を根づかせ、ビジネスと両輪で回せるようにしていきたいと考えています。
どのようなクリエイターとお仕事をしてみたいですか。
利益と地域を両輪で見られる人がいいですね。具体的な業種にはこだわりませんが、地域のことを考えながら、きちんと利益も追求できる人でなければいけないと思います。
「お前はそれがやりたいんだろ?」。過去の自分に誇れる今

ズバリ、現在のお仕事は楽しいですか。
面白いし、楽しいですよ。学生時代の自分に「航空宇宙学ではなくて、こういったことがやりたいんだろ、お前は?」って言ってやりたいくらい(笑)。人に焦点を当てて、技術、こだわりに日々触れられていることが幸せです。
地域で磨かれてきたものを守って、次の世代に伝えていくお手伝いができていることがうれしいですし、そういったことができる会社としてもっと成長していきたいという気持ちを強く持っています。
取材日:2025年6月4日
NANOBRAND合同会社
- 代表者名:高橋 憲示
- 設立年月:2019年2月
- 資本金:30万円
- 事業内容:地域活性化・まちづくりブランディング
- 所在地:本社:〒955-0044 新潟県三条市田島1丁目17-9 三条ベース CREATIVE OFFICE:〒955-0844 新潟県三条市桜木町12-38 三条ものづくり学校304号室
- URL:https://nanobrand.co.jp/
- お問い合わせ先:TEL:0256-64-8279 FAX:050-3588-4296
- MAIL:info@nanobrand.co.jp
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。