価値で選ばれる会社へ。残存唯一のワックス専業会社がこだわる人と技術【東京都中央区】

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国内シェア約8割を占めるワックス専業メーカーの日本精蝋(にっぽんせいろう)株式会社は1929年創業の老舗企業です。東京・京橋に本社を置き、タイヤやプリンタートナーや接着剤、食品、化粧品、ろうそくなど暮らしの必需品の素材を作り続けてきました。価格ではなく“価値で勝つものづくり”をテーマに日々奮闘している、代表取締役社長・瀧本丈平さんに取材しました。

代表取締役社長の瀧本丈平さん

長年の業界経験を生かし、日本精蝋へ

瀧本さんは、三菱化成(現在の三菱ケミカルグループ株式会社)で39年を過ごし、役員まで務めました。その後、役員退任後に新しい挑戦の場を求めて日本精蝋株式会社へ。

移って驚いたのは、仕事の考え方が前職と驚くほど近かったこと。「素材という川上から幅広い業界のBtoBに向き合う点も共通していて、積み上げた経験がそのまま生きる実感があった」と瀧本さんは話します。

体感の差で選ばれる製品を

入社した瀧本さんは、“日本の多くの製造業がグローバルで価格競争に向かない現実”に直面。日本の製造業は原材料の多くを輸入に頼り、人件費などのコストも高いことから、安く大量生産する海外企業とは対抗できないのです。

そこで値段以外で勝負することに注力。品質や仕上がりや使い心地といった体感の差を積み上げることを会社として重視しています。

“価格”より“価値”で選ばれるものづくりに向き合っています。

ワックスは少量でも仕上がりを変える

ワックス専業メーカーとして国内約8割のシェアを誇る同社。ワックスは、少量で製品の仕上がりを左右する影の立役者です。タイヤの表面にひび割れを起こしにくくする、プリンタートナーのにじみを抑える、紙に撥水性を与える、化粧品の滑らかさを整えるなど、暮らしの多くの場面で同社の製品が使われています。

汎用品から高付加価値品へ。製品から逆算された提案で双方の理想を追求

同社は営業する際、“ワックスをどう売るか”ではなく、“どんな仕上がりにしたいのか”を最初に顧客とすり合わせます。顧客である企業と一緒になって検討し、そこで見えた課題を踏まえ、顧客のニーズに合ったワックスを開発していくのだとか。

「提案型は正直、手間もコストもかかります。ただ、それでも“本当に価値のあるもの”を提供するには、“新しいものを作り続ける覚悟”が必要だ」

「潜在的なニーズを聞き出して形にする。それがこれから求められる営業スタイルなんです」と瀧本さんは語ります。

単品ではなく、素材の扱い方で価値を示す

新たなワックスを開発する際に意識しているのは、ベースとなるワックスにこだわるだけでなく、素材の混ぜ方と選び方でも工夫し、唯一無二のワックスを生み出すことです。

まず、原料から温度や圧力などの条件で成分をやさしく選び分ける蒸留などの方法で、必要な性質だけを取り出します。その後、異なる種類のワックスや、添加剤などを混ぜ合わせる割合を調整する配合設計で、製品ごとに求められる滑り、ツヤ、溶け方、耐水性などを意識し、用途に合ったワックスを作ります。

「日本製品の品質は世界で戦えるレベルにあるんです。だからこそさらに用途特化の工夫を重ねていくことで、他社では真似できない質の高いものづくりができると考えます」

唯一の専業事業者として向き合う環境負荷

「これからはさらに原料を変えて、工夫していかないといけない」 と強調する瀧本さんは、石油だけに依存しない、天然ガス由来の合成や植物由来も含めた三本柱の事業体制を見据えています。

狙いは二つあります。一つ目は、環境負荷と、原油の価格変動や地政による調達リスクを同時に下げること。二つ目は、異なる原料から生まれる多種のワックスを駆使して、用途特化の開発を行うこと。“価値”に重きを置いたワックス専業企業だからこそ貫ける意思と判断です。

人が力を出し切れる場をつくる

従業員の働きやすい環境づくりにも力を入れている同社は、業績が厳しかった時期に離職が増えた反省から、従業員のやる気や仕事への誇りを定点で測り、現場の改善に生かす取り組みも進めています。「待遇の改善だけでは足りない。自分の貢献が見えること、挑戦が正しく評価されること、怖れのない対話があること。この3つを重ねることが大切」と瀧本さん。「違う専門を持つ人がそれぞれの力をちゃんと出せる場をどうつくるか。それこそが今の私の仕事です」

良い製品は良い現場から。素材は人がつくるーー。確固たる意思を継続しています。

専業の矜持(きょうじ)を未来の標準に

「私たちの使命はお客様の製品の仕上がりを一歩良くすることだ」と瀧本さん。日本精蝋の価値は、見えにくい場所で確かな違いを出し続け、その価値を信じ続ける力にあります。用途から逆算する提案、混ぜ方と選び方の技術、安定調達と人づくり。その積み重ねが、価格では測れない使い心地の差を生み、暮らし全体の質を上げていきます。

聞き手、執筆:木場晏門

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木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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