「親戚よりも緩く、友達よりも強いつながり」。ゲストハウス「ORIYAMAKE」を拠点とした、お客様との関係人口【秋田県北秋田市】

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あきたの物語」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。

(ORIYAMAKEオーナーの織山英行さん 2020年8月撮影 事業者提供)

秋田県北秋田市の森吉山(標高1,454m)は、ゴンドラを利用して夏は高山植物、秋は紅葉、冬は樹氷と四季折々の自然が楽しめます。

その森吉山の麓にある根森田(ねもりだ)地域にゲストハウス「ORIYAMAKE」(オリヤマケ)がオープンして5年目になりました。

オーナーは、東京から移住し「定住人口」となった織山英行(おりやま・ひでゆき)さん(40)。

織山さんは地元での要職を務めながら、宿のオーナーという立場で、時には宿のお客様として訪れる県外の方と地元の方を引き合わせる役割も果たしています。

人口減や空家問題に悩む過疎地と海外・大都市圏からの秋田や根森田に思いを持つファンとをつなぎ合わせる「ORIYAMAKE」を拠点とした「関係人口」の物語について、織山さんにうかがいました。

ロングステイの宿泊スタイルが、「深く狭い」関係性を築く

(ゲストハウス「ORIYAMAKE」外観 2020年8月撮影 事業者提供)

2018年1月にオープンした「ORIYAMAKE」は、周辺の宿泊施設と共存するという意味合いで、当初は外国人を主なターゲットとしました。

2泊3日以上、1組貸切というスタイルで、予約は民泊のwebサービスAirbnb(エアビーアンドビー)、支払いはクレジットカードのみ。ロングステイが前提のためオーナーの織山さんと宿泊したお客様が仲良くなり真夜中まで話し込むことも多いとのことです。その濃い時間が訪れたお客様との関係を深くして、例えばカップルで宿泊した外国人客が、その後結婚し、子供が産まれたという報告をSNSで受けることもあるといいます。

外国人中心の宿泊スタイルではありましたが、コロナ禍となりオンラインツアーや、マイクロツーリズムを実施して、日帰り体験プログラム「森吉山こども自然塾」なども企画していくうちに、次第に日本人客も増えていったといいます。

「首都圏や大阪などの大都市圏から20〜30代の若いお客様が多く、長くて5泊6日も宿泊される場合もあるので、お互いに気心が知れて自然と仲良くなります。年賀状のやり取りや、大雨などの時は大丈夫?と連絡が来たりなど、どちらかといえばお客様が覚えていてくれて、関係を深めてくれているような感じです」。

囲炉裏でお酒を傾け、深夜まで話し込む濃密な時間

(囲炉裏で乾杯風景 2020年8月撮影 事業者提供)

お客様と、より「深く狭い」関係になる大きな理由のひとつが囲炉裏の存在とのことで、お酒を傾けながらパチパチと火を囲んで話し込む宿の雰囲気が、関係人口にひと役買っている様子です。「秋田県人の特性として普段はあまり話せないんですけど、お酒が入ると余計なことも話しちゃうんです(笑)」と織山さん。

今まで、4回ほど宿泊したお客様もいて「最初は独身で、次は奥さんを連れて来て、子供を見せに来てくれるなど、人生の節目に立ち会っている感覚です。まるで『親戚よりも緩く、友達よりも強いつながり 』ですね」と親戚まで濃密ではないけれど、柔らかく見守る存在だと織山さんは語ります。

しかし「深く狭く」だけでは、広がりがないため、お客様に宿や地域のことをSNSで拡散してくださいと織山さんがお願いしても、困ったことに?「自分だけのとっておきの場所にしたい」と、断られてしまうのだとか。

また、宿泊をきっかけに根森田地域に魅力を感じ移住を希望するお客様もいて、織山さんが空家の提供などを地元の人に掛け合ったりすることもあるとのことです。

「来るものは拒まず」と言う織山さんのスタイルが、交流人口の輪を広げ、関係人口へと繋がっています。

移住して地元のマタギ文化を継承

(ゲストと山歩きする織山さん(写真左) 2021年10月撮影 事業者提供)

織山さんはもともと秋田県鹿角市出身で、進学のために上京しました。

映像制作会社に勤務していましたが、結婚して子供が産まれた頃、東日本大震災がきっかけで移住を考えるようになり、祖父母の土地と家があったという理由で、現在の地に一家で移住を決めました。

生計を立てるため、森吉山ダムや地元の宿で働きましたが、その経験が現在に生かされているといいます。「忙しすぎてお客様の顔が全然覚えられなかったこともあり、自分の宿はお客様の顔がしっかりとわかるスタイルにしたいと思いました」。

さらに織山さんは、狩猟免許を取得してマタギにもなりました。

「阿仁マタギの鈴木英雄(すずき・ひでお)さんに山に連れていってもらったのがきっかけです。地元根森田にも80歳のマタギの方がひとりいらしたのですが、跡を継ぐ方がなかなかいなかったんです。この文化がなくなってしまうのはもったいないと思い、誰かがやるまでつなぎでやりますと手を挙げました」と、織山さん。

その後、最近では移住者がマタギに弟子入りしてメディアで取り上げられています。

阿仁マタギの鈴木さんも、以前はマタギがなくなると諦めていたのが、今は後世に残していかなければいけないと意識が変わってきたとのことです。

地域と外部をつなげて「関係人口」を増やすことで変わった地元の意識。関わる人みんなで地域を一緒に作り上げていく

(地元のお祭り風景 2015年11月撮影 事業者提供)

現在、織山さんは地域と外部をつなげるために、地元小学校のPTA会長、四季美湖ネットの事務局、観光協会の理事などの要職を務めています。

「自分自身の輪が広がることで、外部の人からの依頼で山歩きの得意な地域の人の紹介など、人つなぎの役割ができるようになりました」と語ります。

外部の人たちが関わることで、地域にも変化が出てきました。

「一番良いことは、地元の人が気が付かないもの、当たり前になってしまっているものを外部の人が気付いて宝物のように感じてくれていることです。ここに残された宝物を、本当に嬉しそうな目でみて、喜んでくれます。そして、外部の人が地域の当たり前を見て感動している姿を見た人(地域のお年寄りなど)が自信を取り戻し、少し恥ずかしそうにしながらも背筋が伸びていくのです。そんな相互作用がありますので、もっと外部との交流を伸ばしていきたいと思っています。また、外部の人がよく訪れるようになることで、どんどん意識が変わってきていると思います」と、織山さん。

同時に、「地域の住民が外部の人が楽しんでいる姿を見て、ここに住んでいる人の子どもたちや孫が帰ってきたいと思えるような場所にすることも大事なのではないか、と地域活性化への姿勢が前向きになったように感じています。まだまだ解決すべき問題は多いですが、風通しをよくすることで、新しい視点を獲得し続けていきたいと思っています」と、続けます。

織山さんが地元と関わることで、さまざまなことが動き出しているような気がします。

しかしながら織山さんが、これほどまでに尽力し魅せられている北秋田市根森田地域の魅力とは一体何なのでしょうか。

「自然が素晴らしいのは当然ですが、独特の文化があるというのが一番です。例えば、鶏を食べるために「切る」ことを忌み言葉として、縁起が良い別の言葉を使い「生(は)やす」といったり、自然や動物の命に対して向き合って、いちいち真面目なんです。森吉山ダムの下には1万3千年前の遺跡があり、その昔から自然と人との生死の関わり、独特の文化、人々の思いなどが粘土のように練り込まれて現在に至っているのではないでしょうか。そういう重厚さはほかの地域で見ることがなく、ほかの地域では物足りなくなってしまいます」。

そんな根森田「ORIYAMAKE」を舞台にした今後の事業展開について「今までやっている宿のフィールドを広げて、森吉山、三階滝などを含めたエリア全体で、宿を飛び越えて、外に来たお客さんを巻き込んでいきたいです」と、織山さん。

そのため「WAFA」という山のガイド資格を取得して、準備も万端です。

「この地域の魅力をSNSなどを中心に広げて、地域の人と外の人をつないで、みんなで地域をいっしょに作っていきたいです」と、その思いを語ってくれました。

森吉山はこれからのシーズン、秋にはゴンドラで楽しむ紅葉のパノラマ、冬にはスノーモンスターと呼ばれる圧巻の樹氷などを見ることができます。

ゲストハウスに宿泊して、大自然の素晴らしさはもとより、オーナーである織山家との「深く狭い」つながりを体験してみてください。

また、10歳から15歳までを対象(保護者同伴)、山歩きなどを体験し動物の習性や山の恵み、命の温もりなどを学ぶ「日帰り体験プログラム 森吉山こども自然塾」も実施中です。

ふだんの生活では学ぶことができない大自然での学習は、子どもたちにとって素晴らしい体験になること請け合いです。

「ORIYAMAKE」を拠点とした「関係人口」の物語に、ぜひあなたも参加してみませんか。

【森吉山麓ゲストハウス ORIYAMAKE】

住所:秋田県北秋田市根森田仲ノ又131

チェックイン時刻:15:00以降

チェックアウト時刻:10:00前

ゲスト定員4人

予約URL:https://oriyamake.com/

【日帰り体験プログラム 森吉山こども自然塾】

森川淳元

森川淳元

秋田県秋田市

編集部編集記者

第1期ハツレポーター
秋田県北秋田市出身です。少しばかり出版や取材などに関わったことがあり参加させていただきました。レポーターになり、改めて秋田ならではの面白いところを深掘りできたらと思います。

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