
パロニム株式会社 代表取締役 CEO
Michio Kobayashi
小林 道生氏
動画内の気になるアイテムなどを直接タップすることで、それに関する情報が簡単に入手できる新技術「Tig(ティグ)」。東京・築地に本社を構えるパロニム株式会社は、この新しい技術を開発し、ECや教育分野など幅広い分野に適用可能な映像ソリューションを提供しています。この会社を立ち上げたのは代表取締役の小林 道生(こばやし みちお)さん。新技術を開発しようと考えた経緯や現在の使われ方などについてお話を伺いました。
カナダ留学中の苦い経験から、動画を直接タップして情報を得ることを発想
パロニム社立ち上げにいたる経緯を教えてください。
私は子供の頃、親の教育方針でまんがやテレビなどをほとんど見ることなく育ちました。でも学校にいくと友だちは皆、まんがやテレビの話題でもちきりです。仲間外れにならないように話を合わせてその場はやり過ごしていましたが、すごく興味はありました。
小学5年になったある日、家にテレビが届いたのです。当時かぎっ子だった私は、家に帰ってから親が帰宅するまでの時間、テレビから次々と出てくる映像を貪るように見たのを覚えています。今までアクセスできなかった「情報」を「映像」を通じて浴びるように吸収しました。それが「情報」や「映像」に対する私の原体験でした。
大人になって日本テレコム株式会社という会社に入社しましたが、その後、ソフトバンクグループに買収されました。ソフトバンクではのちに日本で初めて独占契約でiPhoneの販売が開始されます。それまでは生活の中で映像を見る手段は基本的にテレビだけでしたが、iPhoneを手にしたとき、やがては皆これで映像や動画を見るようになる。そしてテレビのように見るだけでなく、それを使って生活をするようになる、と感じました。そこからいつかはデジタルが苦手な人でも、言葉が分からない外国人でも子供でも誰でも簡単に映像や動画を利用・活用できるサービスを提供したい、そういう思いにいたりました。
ソフトバンク退職後、フランス企業の日本法人の立ち上げなどを経験し、その後パロニム社を創業しました。

どういうところから新技術「Tig」の発想が生まれたのでしょうか?
私は中学二年生のときカナダにある全寮制の学校に単身で留学をしました。寮生活では、共用スペースで友人たちと映画を見る機会がよくあったのですが、留学開始当時はほとんど英語を話せない状態でした。その寮で日本人は私だけで、一緒に見ている友人の中で自分だけがその映画の内容がよく分からない。当時はまだGoogleもない、ネット検索も十分ではなかった時代。そんなとき、動画から言葉を介さずに直接情報が取り出せればいいのに、とそんなことを発想しました。
社名の由来を教えてください。
「PARONYM(パロニム)」の「paro」はラテン語で「同類の」、「nym」は「言葉」という意味で、「同じルーツを持つ言葉」という意味の単語になります。
旧約聖書の「創世記」によれば、すべての地の民は元々同じ言語を話していました。そして彼らは火を使ってレンガを焼き、そこに住居を建てて町を発展させていく。するとやがて人間は傲慢になって天にも届く塔、いわゆる「バベルの塔」を建設しようとしました。これを見ていた神は、これらの人間を懲らしめ、お互いに話が通じないように言葉をばらばらの言語に変えてしまった、という話があります。
しかし映像ならば言語の壁を越えることができる。不完全な言葉を使わずに、映像から直接直感的にそして簡単に情報を集めることができるのです。世界中の人が言葉の壁を越えて映像を通じて共通の理解を深められるようにしたい、そんな思いで社名を「PARONYM」にしました。
ちなみにパロニム社のロゴは上下が切れているように見えると思いますが、あれは言葉の「不完全性」を表現したものです。

独自に開発した新技術「Tig」が、動画マーケティングの在り方を変えている

現在の事業内容について教えてください。
動画や画像をタップするだけで簡単に情報が収集できる「Tig」の技術を開発し、4つの商材を柱とする事業を行っています。
「Tig」の技術を動画作成に適用し、複雑な情報でも効率的かつ効果的に伝えることができるインタラクティブ動画作成ツール「Tig Video」。「Tig」を使ったライブ配信で配信者と視聴者がリアルタイムに双方向のやり取りができるコミュニケーションコマースツール「Tig LIVE」。双方向のインタラクティブショート動画をスマホで簡単に作成できるアプリ「Tig Short」。PDF媒体の読み物にタップポイントを設け、カタログや教科書からの情報入手をさらに充実させるためのツール「Tig Magazine」。
これらに関するツールの提供、またコンテンツ制作・配信に関わる事業を行っています。
現在力を入れている「Tig LIVE」と「Tig Short」では、主にEC事業者様に導入いただいており、通常のECサイトと比べて購入率向上、単価アップなどの効果が実証されており、アパレル業界をはじめ、インテリア業界、百貨店など、多くの企業様にご利用いただいています。

ライブコマースという双方向でやり取りができる新しい販売方法について教えていただけますか?
ライブコマースは元々中国で誕生しました。広大な国土で生活をしているため、一度にたくさんの店舗に行くのは大変です。そんな土地柄のため、動画配信で販売活動をする業者がたくさんいて、何百という数のオンライン販売店をまとめるプラットフォームが存在しています。そんな状況の中、コロナウイルスによるパンデミックの影響もありライブ動画の配信数が大幅に増加し、視聴者がその場で商品に関する質問や交渉ができる、双方向の仕組みが広がりました。
しかし、中国では商品やそれを提供する会社に対する信頼が低いという事情がありました。この点を改善するために、KOL(日本ではライブコマーサーに近い)という個人で活動する人たちに「信用」を担保する役割を担ってもらうスタイルが定着しました。
一方日本におけるライブコマースは中国のそれとはかなり状況が違っています。日本では商品に関する詳しい情報、正しい情報、さらには信頼できるというだけでなく、専門性の高い情報を入手したいという要求があるようです。
中国では安く商品を購入したいユーザーが何億人という人数でライブコマースのプラットフォームを利用しているのに対し、日本や欧米の国などでは、比較的高価である場合、購入するときにどの商品を選ぶのが良いのか、比較検討するための質の高い情報を入手するために利用されるケースが多くあります。
ライブコマースではインタラクティブに情報のやり取りができるので、質問をしたい人がしたいときに配信者に対し質問をします。元々商品に関心のある人が集まるため、質問の内容やそれに対する配信者側の回答もレベルが高くなる。そうすると、そのやり取りを見ているあまり詳しくない人たちも、段々商品選びのコツ・ポイントが分かってくる。それを繰り返しているうちに利用者にも自然と判断力が養われていく。日本や欧米諸国では、そのような使われ方が多々あるため、単価の高い成約につながるケースが多いという特徴があります。
パロニム株式会社の強みを教えてください。
やはり独自に開発した「Tig」による使いやすさです。動画内の気になる箇所をタップすると、それに関する情報がストックされていく仕組みになっているため、動画を止めることなく、あとからいつでも好きなときにその情報にアクセスできます。また知りたいところを指で直接タップするだけなので直感的にとても使いやすいものになっています。配信者目線からしても準備や配信後の対応などが極力自動化され、効果が最大化される仕組みにこだわっています。
「リアル」あっての「デジタル」。それらを統合し、より良いコマースにするためにこだわるのは「気持ちよさ」

今後の展望などあればお聞かせください。
短期的な目標としては、「Tig LIVE」と「Tig Short」によるEC事業者様向けの映像ソリューション事業をさらに成長させていくことを考えています。
長期的な話としては、「リアル vs デジタル」という誤った対立構造から抜け出し、実店舗に足を運ぶ「リアル」な体験と、情報収集が効率的な「デジタル」のいい部分を統合したより良いコマースの在り方を探求し、提示していきたいと考えています。

一緒に働くメンバーに対して求めることは何ですか?
全般的に言えるのは「自発的に動くこと」。持論を展開しそれを具体化して試してみる。その結果を振り返り、さらに良くするための方法を考えてまたそれを実践する。そういうサイクルを自ら回してほしいと思います。
さらに技術を開発するメンバーには、使っていて「気持ちがいい」というものを開発してほしい。圧倒的な「気持ちよさ」をとにかく追求したいと考えています。
取材日:2025年5月13日
パロニム株式会社
- 代表者名:小林 道生
- 設立年月:2016年11月
- 資本金:368,312,558円
- 事業内容:動画市場における新技術開発・提供、動画配信事業、映像等の企画・制作 等
- 所在地:〒104-0045 東京都中央区築地7-2-1 THE TERRACE TSUKIJI 6階 WEST
- URL:https://paronym.jp
- お問い合わせ先:03-6264-3017
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