斜陽化が進むパチンコ業界で「依頼増」。“熱くなる映像演出”でプレイヤーを魅了【東京都千代田区】

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ピックアップ株式会社 代表取締役/チーフディレクター

Toshiaki Yamakita / Yasutaka Hironiwa
山北 敏昭氏/廣庭 康貴氏

パチンコやパチスロの遊技機に興じる人たちを楽しませる映像の数々を手がける、東京のピックアップ株式会社。代表取締役の山北 敏昭(やまきた としあき)さん、制作現場を担うチーフディレクターの廣庭 康貴(ひろにわ やすたか)さんが、遊技機を打つプレイヤーが目にする映像の「演出」についてのこだわりを語り合います。ホール数の減少をはじめとする課題も多い遊技機業界でなぜ生き残れるのか。会社のなりたちなどとともに伺いました。

知人の紹介で出会い遊技機の知見を生かして創業へ

まずは、御社の成り立ちを伺います。

山北さん:会社は私と廣庭の2人で立ち上げました。私はもともと、電子機器メーカーでパチンコの周辺機器を開発・販売する会社の経営企画室にいたんです。ホールで使う補給装置や、ホールコンピューターと呼ばれる設備制御用のコンピューター、さらにそのデータを使った経営管理システムなどを取り扱っていました。

もともと、遊技機業界の知見を持っていらっしゃったんですね。

山北さん:はい。ただ、キャリアとしては金融業界がスタートだったんです。証券会社系列の会社に入社して、その後先の電子機器メーカーが設立した研究所への転職が業界に入ったきっかけでした。
その後は独立起業して営業代行の仕事をはじめたんです。その中でかつての遊技機業界の知人から「開発の人手が足りないので手伝ってくれないか」と声をかけられて、再び本格的に関わるようになりました。
会社自体は、2003年に設立したブレーントラスト株式会社が遊技機関連事業の前身です。知人の紹介で出会った廣庭とともに、2013年に現在のピックアップ株式会社を立ち上げたという流れです。

廣庭さんの現職までの歩みも教えてください。

廣庭さん:もともとはゲームメーカーのプランナーで、遊技機の映像制作にも関わっていました。その会社がパチンコの周辺機器メーカーに買収されたことをきっかけに、ホールで実際に台を打って、少しずつパチンコやパチスロの知識を蓄えていきました。自分なりに研究するうちに遊技機業界ならではの映像制作に面白さを感じるようになって、勤めていたゲームメーカーを退職。そのタイミングで、山北と知り合いました。

映像業界でも特殊。「ガラパゴス」な遊技機分野

現在、御社ではどのような事業を展開されていますか?

山北さん:主に遊技機向けの映像制作です。工程は大きく3段階あります。最初は「企画段階での映像化」です。絵コンテを作り、企画のイメージをざっくりと映像化します。
次に、本制作です。テーマとなる作品の映像を遊技機用に作り替えて、必要であれば、新規の映像も作ります。
最後は、完成した映像を調整して、遊技機用の演出として違和感がないように最適化します。遊技機用の映像は、ホールに足を運ぶお客さんに、当たるかハズれるかを期待させるような演出を盛り込む必要があるんです。
例えば、バトルものであればただ敵を倒すのではなく、敵を倒せるか倒せないか、展開によってはギリギリで倒せない演出も必要になります。いわゆる「大当たり」の盛り上がりを作るのは弊社の得意領域です。全体の方向性を決めて、クライアントの対応をするのは私で、廣庭が制作現場でのディレクションを担当しています。

一般的な映像制作とは、異なる環境なんですね。

廣庭さん:そうですね。現場では、IP(知的財産)のホルダーから提供していただいたCGやアニメーションの素材を使って映像を作っていますが、追加の演出が必要であれば、コンテを起こして新たな映像を作るときもあります。

遊技機向けの映像ならではのこだわりもあるのでしょうか?

廣庭さん:あります。例えば、キャラクターの戦闘シーンでは、画面の揺れや光のエフェクトによって、当たるかハズレるかのドキドキ感を演出します。遊技機を打つプレイヤーが、常にワクワク感とスリルを味わうことで「気持ちいい」と感じる映像に仕上げるのが肝です。

山北さん:よくも悪くも、遊技機業界は「ガラパゴス」であるとも言われるんです。2Dと3Dの映像をいずれも扱う環境は、映像制作としてみると特殊です。現場で求められる知見も幅広くなっています。
また、クライアントからのオーダーでは「熱くなる映像にしてほしい」「お客さんがグッと来る演出を盛り込んでほしい」といった抽象的な指示もあるため、当事者意識を持って要望をくみ取り、いかに可視化させるかはクリエイターの腕の見せどころです。

廣庭さん:よくあるのは「見たことのない映像にしてほしい」というオーダーですね。演出にも時代ごとのトレンドがあるんです。炎の演出が流行った時期もあれば、ピカッと光る演出が定着した時期もあって、時代の流れをつかみながら、斬新な演出を考える難しさはあります。
ただ、それは面白さでもあるんです。プレイヤーもさまざまですし、何をもって「気持ちいい」と考えるのかは人それぞれですが、盛り上がる演出をうまく作れたと思ったときには達成感を味わえます。手がけた映像を使った台がホールで稼働しているのを見に行くんです。お客さんに使ってもらえているとうれしくなります。

詳しくなくても遊技機への「理解」を深めてほしい

遊技機業界では、ホールの減少をはじめとしたさまざまな課題もあります。変化のある業界で生き残るため、どのようなアプローチを考えているのでしょうか?

山北さん:最大の変化はホールの減少で、この先は横ばいか、さらなる減少しかないとは思っています。事実、我々のような遊技機の映像制作でも開発本数が減り、関わる企業や人材も比例して減ってはいるんです。当然ながら、残った者同士の競争も激化します。求められるクオリティーも高度化していきますが、演出へのこだわりを売りとして、業界での地位を底上げしていきたいです。

廣庭さん:ホールの減少はありながら、弊社としては依頼が増えているんです。ホールで自分たちが関わった映像が繰り返し流れ、プレイヤーの反応がじかに返ってくるのがこの仕事の醍醐味ですし、この先も強みをはっきりと打ち出して、私たちにしか作れない価値を提供し続けていきたいです。

現在、御社ではどのような制作体制をとっているのでしょうか?

廣庭さん:案件の規模にもよりますが、だいたい30人前後のスタッフが半年から1年ほどかけて動くイメージです。映像を作るといっても、台のテーマとなった作品の全体に関わるケースもあれば、一部だけ関わるケースもあるので、シチュエーションはさまざまです。

パチンコとパチスロで、制作で求められるものは違うのでしょうか?

廣庭さん:はい。パチンコでは「スタートチャッカー」と呼ばれる箇所に玉が入り、抽選がスタートしてから大当たりまでの時間にラグがあるので、その尺に合わせた映像を作る必要があります。
一方のパチスロは、メダルを入れた方が自分でボタンを操作して大当たりまでのタイミングを決めるので尺が短く、おおむね1〜2秒で演出を挟む必要があります。

山北さん:ルールとしても、パチンコの方が制約が多いんです。演出の分岐やタイミングも、限られた尺の中でぴったり収める必要があります。

どのようなクリエイターと一緒にお仕事をしたいですか?

廣庭さん:クライアントからの修正対応もあるので、細かい指示に粘り強く応えられる方を求めています。さきほど申し上げたように、パチンコとパチスロでは制作のアプローチがまったく異なるので、弊社では両方に対応できる体制を整えています。社内のスタッフはもちろんいますが、6〜7割は外部パートナーの方々に頼っています。

山北さん:遊技機に詳しくなくてもかまいませんが、仕事として関わる以上は、業界を理解してほしいとは思います。ホールで設置される台で何百回、何千回と映像が再生されることを意識して、1フレーム単位で映像を調整していく作業にも、やりがいを感じてくださる方と一緒に仕事をしたいです。

廣庭さん:正直、ほかの映像制作現場よりも修正対応は多いと思います。クライアントからの修正内容も抽象的な指示が少なくありません。その分、スキルアップの機会も、それだけ多いはずです。自分なりに工夫して、柔軟に対応できる人であれば、必ず活躍できます。

取材日:2025年7月29日

ピックアップ株式会社

  • 代表者名:山北 敏昭
  • 設立年月:2013年3月
  • 資本金:50万円
  • 事業内容:パチンコ、パチスロ遊技機の企画、開発。コンピューターグラフィックス映像の企画、制作。モバイル向けデジタルコンテンツの企画、開発、運営。コンピュータソフトウェアの開発・設計
  • 所在地:〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-5-11 岩本町TIビル5階
  • URL:http://www.pickup-ent.com/
  • お問い合わせ先:03-6206-0723

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

カネコシュウヘイ

カネコシュウヘイ

1983年11月8日生まれ。埼玉県出身。成城大学文芸学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2010年よりフリーライターに。アイドルを中心としたエンターテインメント系、ビジネス系の分野を軸に、インタビュー記事やレポート記事に注力。モットーは、現場第一主義。趣味はゲーム、食べ歩き。水族館の生き物に癒やされる日も。▲この記事を書いた人にお仕事をお願いしたい場合には、直接クリエイターズステーション編集部にご連絡ください。https://www.creators-station.jp/category/interview/legends

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