
東京都港区といえば白金や六本木、赤坂、青山といった高級住宅地が並び、洗練された店や施設が集まる街として知られる。そんな華やかな港区に、江戸時代から名前が残る坂道がある。麻布台ヒルズに近い「狸穴坂(まみあなざか)」だ。実際に歩いてみると、そこには東京の最先端と江戸の記憶が同居する不思議な景色が広がっていた。

私が狸穴坂を訪れたのは、5月の雨が降った午後だった。区立麻布図書館から首都高の高架をくぐり、濡れた遊具がたたずむ狸穴公園の脇を抜けると、緩やかに続く坂道が現れた。坂の長さはおよそ250メートル、高低差は約12メートル。北に向かって上るやや急な坂で、外苑東通り(都道319号線)との交差点には港区が設置した「狸穴坂」と書かれた標識が立っている。

歩き始めてまず驚いたのは、その立地だ。坂の東側にはロシア大使館があり、周辺には警備車両が停まっている。さらに坂の途中には高級マンションや、著名人も利用するといわれる会員制社交クラブ「東京アメリカンクラブ」がある。港区らしい華やかな環境だ。
しかし、そのすぐ隣には昔ながらの民家も残っている。近代的な建物の間に古い家が静かに佇んでいる光景は、どこか時間が折り重なっているようだった。

狸穴坂という名前の由来は、坂の下に狸の巣穴があったことからと伝えられている。標識によれば「まみ」とは雌ダヌキやムササビ、アナグマなどを指す言葉で、かつてこのあたりに穴があったという説がある。また採鉱の穴だったという説も残っている。江戸時代にはこの狸の穴が有名で、1644年に徳川家光が視察を命じたという話や、大奥を騒がせた古狸が住んでいたという伝説も語り継がれている。この地名の狸にちなんで、Jリーグ・FC東京のマスコット「東京ドロンパ」は麻布狸穴町生まれの狸という設定になっているという。さらに江戸時代には坂下に「狸蕎麦(作兵衛蕎麦)」という名物店もあったと伝わる。

今では東京タワーや六本木のすぐ近くにありながら、観光地のような派手さはない。それでも坂を歩いていると、江戸の地名や伝説が静かに残り続けていることに気づく。
港区のきらびやかな街並みの中で、狸穴坂はどこか控えめだ。だが、その坂を上りながらふと振り返ると、東京という街がいくつもの時代を重ねてできていることを、そっと教えてくれるような気がした。
参考資料
FC東京 東京ドロンパ(Jリーグマスコット総選挙2019)https://www.jleague.jp/mascot/2019/profile/ftokyo.html
「東京23区の坂」リスト | 全国の坂リスト:http://www.sakagakkai.org/profile/minato/mamianazaka.html
狸穴坂(港区)(東京土木施工管理技士会):https://www.to-gisi.com/magazine/50/doc05.pdf
外苑東通り(道路web):https://www.douroweb.jp/region13021/c046gaienhigashi.html
狸穴坂(みなとく小学生ページ):https://www.city.minato.tokyo.jp/kyouikucenter/kodomo/kids/machinami/saka/30.html#:~:text=%E3%81%BE%E3%81%BF%E3%81%A8%E3%81%AF%E9%9B%8C%E3%83%80%E3%83%8C%E3%82%AD,%E5%9D%82%E3%81%AE%E4%B8%8B%E3%81%AB%E3%81%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82





