須賀川市にある三世代交流館で地域ゆかりのアーティストたちが集って「作家たちの3.11」展が開催された。東日本大震災による藤沼湖の決壊をテーマにしたアート作品を通じて、震災の記憶を次世代に伝えるのが目的である。
熊本や広島、能登など、東日本大震災から13年が経過した今も日本各地で発生する災害は私たちの日常生活を脅かし続けている。藤沼湖決壊で犠牲となった8名の命を忘れず、その記憶を風化させないために、5人の作家たちが手を携えて開催に至った。
灌漑(かんがい)用ダム湖である藤沼湖の堤防が決壊したのは2011年の東日本大震災。貯水していた約150万トンの水が濁流となり、下流の集落を押し流し、死者・行方不明者8名を出した、もうひとつの『津波』の現場である。
それから2年後、水の無い湖底からアジサイの種が見つかった。
生育状況から、60年以上湖底で眠っていた種の可能性が高いと言われ、「奇跡のあじさい」として全国の”里親”に株分けされ大切に育てられてきた。
今回、銅版画家・安部直人さんがこのアジサイをモチーフにした版画を出品し、地元の陶芸家・伊藤文夫さんも自らの作品を通して震災の記憶を伝えている。さらに、斎藤隆さん、松田肖子(しょうこ)さん、長谷川雄一さんの3名も賛同し、彼らの作品も加わることで、多彩なアートがそろった展示会となった。
藤沼湖決壊を語る上で重要な要素として、作品を通じた「記憶の共有」がある。作家たちは、震災という痛ましい出来事を一人ひとりの心に刻み、それを後世に残すことが使命であると感じている。特に、頻発する自然災害に対しては、記憶を風化させないための継続的な取り組みが不可欠だ。今回の展示会は、その一環として開かれ、2回目の開催となった。震災の記憶が次世代につながるよう、地元の人々と訪れる観覧者に強いメッセージを発信している。
「作家たちの3.11」展は、ただのアート展示ではない。地元を襲った災害への鎮魂と未来への希望が込められた作品が、須賀川という地に集まっている。会期中には作家自身が交代で訪れ、作品を通して直接的なメッセージを届ける機会もあった。藤沼湖やアジサイ、そして震災による犠牲者の記憶が、この展示会を通じて未来へと語り継がれていくことだろう。