私のパートナー、シロクマセンセイが難病 家族性アミロイドポリニューロパチー(以下FAPと略す)に罹患したのを知ったのは2016年のこと。FAPは、変形したタンパク質が体じゅうの神経にたまって、あちこちをまひさせる病気だ。今のところ完治する手立てはなく、毎月熊本大学病院に通い、進行を遅らせる治療をしている。北海道で小学校教員をしていたシロクマセンセイは182センチメートル、120キログラムの体格から子どもたちに「シロクマセンセイ」と呼ばれていたが、現在は60キログラムまで痩せ、1日の3分の2はベッドの中で生活している。それでも、「八女に移住してたくさんの贈り物をもらい、今が一番幸せ」と話すシロクマセンセイ。八女で得た贈り物とは、いったい何なのだろう。
目次
文化の豊かさと美しさに引かれ八女を療養地に
シロクマセンセイが一番苦労しているのは、起立性低血圧だ。立ち上がるとともに、測定器が測定不可になるほど血圧が下がる。「それは生命の危機を感じるほど」とシロクマセンセイは話す。体じゅうの麻痺による不自由さ、痛み、そして不安。それを支えてくれているのが、八女の人々の温かさだ。
北海道にはこの希少難病を治療できる病院がなく、九州移住を決めた時にはあちこちの地域を見て回った。九州には素敵な場所がたくさんあったが、その中で移住先を八女に決めたのは、白壁の町並みの美しさと、伝統工芸をはじめとする文化の豊かさに引かれたからだ。
「よそ者」を温かく迎え入れてくれた八女
知り合いが一人もいない土地への移住に、「よそ者を受け入れてもらえるだろうか」と、はじめは不安もあった。しかし実際に移住をしてみると、こんなに住みやすい場所があるのかと感激することが多い。「どこへ行っても順番を譲るなどの配慮をしてもらえます。動けなくなった時には周りの人が助けてくれます。そして近所の方々は、採れたての野菜を分けてくれたり、庭の草刈りをしてくれたりします。川が氾濫しそうな時には、複数の方が手伝いが必要ないかと電話をくれるんです」と話すシロクマセンセイの表情は幸せそのものだ。
移住してから、特産の八女茶が自分の身体に良い影響を及ぼすことを知った。目にたまったアミロイドを除去する手術をして、久しぶりに視力が戻った時には、八女の美しい風景に感動の涙を流した。
八女で取り戻した生きる力。希望のメッセージの発信と世界への挑戦
静岡講演会の後
自分の病気を知った時には落ち込んだシロクマセンセイだが、八女で生きる力を取り戻し、クラウドファンディングに挑戦して九州一周講演旅行を実現させた。「講演を聴いて力をもらった、感動したとたくさんのメッセージをいただけることが、何よりの宝」とのこと。それからも、全国を対象とした講演活動をし、2024年8月には静岡県で開催された難病看護学会で講演をした。SNSを活用した難病の認知活動も毎日続けている。『福岡県難病ピアサポート支援』での難病患者支援活動では、同じ病を抱える患者の話を聴いて励ましている。
シロクマセンセイは講演で、「難病患者の1日は苦しみだけではありません。私は病気を得ることで、諦めないことの尊さや周りへの感謝を知り、幸せな気持ちで生きられるようになりました」「やりたいと思ったこと全てにチャレンジしようと思っています」と話している。現在の目標は、体調不良などで延びに延びている本の出版を実現し、出版記念講演会をして回ることだ。また、米国拠点の非営利団体が企画運営する、様々な分野の著名人による講演会「TED(Technology Entertainment Design)」に出場して、あまり知られていないこの病気のことや、難病を得ても幸せに生きられることなどを世界に発信することも目指している。
情報
YouTube:シロクマセンセイ www.youtube.com/@4690bear