国内外で評価されるサスペンションの技術。車への飽くなきこだわりで見えた事業と夢【福井県坂井市】

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株式会社ティーディメンド 代表取締役社長

Takashi Tanaka
田中 崇志氏

自動車向けパーツを開発・販売している福井県の株式会社ティーディメンド。代表である田中 崇志(たなか たかし)さんは、個人事業として始めたカーショップからパーツメーカーへと業態を変え、独自のサスペンション技術で国内外から高い評価を得ています。現在の事業や会社の強みについてお伺いしました。

マイナス700万→プラス3,000万!挑戦が生んだチャンスの兆し

まずは立ち上げまでのキャリアを教えてください。

高校生の時にバイクのレースをしていたことをきっかけに、各地のサーキットに行くようになりました。そこで知り合いになった社長さんに誘われて、レーサーをしながら18歳の時にカーショップに入社。21歳の時には店長を任されました。
そんななか静岡県のサーキット「富士スピードウェイ」で開催された140台ほどが参加する全日本プロドリフト選手権(D1GP)で予選通過を果たし、プロになったばかりの若手として注目されました。その日に30社くらいのスポンサーが付いたのですが、実はここにたどり着くまでにはお金の面でかなり苦労しました。それまでは自腹でレースへエントリーしていましたし、会社からツケで部品を買っていて、700万円くらいの借金がありました。しかしスポンサーのおかげで、1年間で借金を全部返済。さらには口座に貯まったお金で、今の会社の最初のガレージを建てました。

受けた仕事は最後まで!会社を辞めてまで仕上げた車からつながった事業のスタート

会社を立ち上げたきっかけを教えてください。

最初から会社を立ち上げようと思っていたわけではありません。レーサーとしての仕事もあり、実は、当時、会社で私が担当していた車高を変えるカスタムの仕事でお客さまを2年近くお待たせする状況が続いてしまい、社長からは仕事を断って返金するよう言われていました。しかし私は「受けた仕事は最後までやるべき」と思い、会社を辞めて、無職の状態で残りの仕事を全部終わらせることにしました。
この時仕上げた6台の車すべてがイベントで注目を集め全国紙から取材を受けたことにより、思いもよらずほかのお客さまを呼び込むことに。当時の私のガレージの床はコンクリートも入っていない砂利で、リフトもない状態だったので、砂利の上にお客さまと座りながら話しただけで見積もりをするような状態で個人事業をスタートしたのです。
そんななか、汎用性の高い調整式のサスペンションアーム(車体の底部とタイヤをつなげる部品)を開発しました。当時のお客さまに協力してもらい、開発した商品を雑誌に掲載してもらったところ、注文が入るようになりました。カーショップからメーカーとしての立場が確立されていくと、スタッフも増え、法人化することにしました。

事業の特徴は何ですか?

サスペンションの中にもスプリングやダンパー、アーム、メンバー、ブレーキなどさまざまな部品がありますが、それらをトータルで手掛けていることです。一口にサスペンションと言っても、スプリングだけのメーカーもあれば、車高調やエアサスだけを扱うメーカーもありますが、私たちはトータルで提供しています。
元々はサスペンションの調整式アーム(アライメントを調整する部品)からのスタートでした。車高を変えると乗り心地が悪くなったり、音がしたりするほか、タイヤの減りが早い、タイヤがハの字になるといった問題が出てきます。それを調整するのが調整式アームの役割です。当時はワゴンやセダンなどの一般車向けのものがなく、レース用のものしかなかったので、お客さまからの需要があり開発を始めたのです。

スタイル、乗り心地、耐久性。全てを成立させる稀有な技術

お客さまの要望に応えて車の足周りをカスタムするというビジネスモデルなのでしょうか?

はい。厳密に言えば、これまでショップで得てきたデータやノウハウを生かし、お客さまがよくお求めになるパターンは量産しながら、それをベースにカスタマイズするという方法です。ラーメン屋さんで例えると、ベースのラーメンがあって、ネギなどのトッピングを選べるのと同じ感覚なので「トッピング方式」です。これにより、コストを抑えることができます。
昔は「特注」でしたが、メーカーになってからは「カスタムメイド」にすることで、安くオリジナリティが作れるようになりました。

そこが御社の強みになっているんですね。

はい。さらに、お客さまの理想の見た目を実現しつつ、乗り心地や耐久性までも確保できるのが強みです。
例えば、車高を低くしたいと考えていてもほかのメーカーでは理想の低さまで下げられないことが多いです。車を低くすればするほど乗り心地は悪化し、タイヤの減りも早くなるためです。しかし当社であれば、低くすることで生まれる問題も技術を駆使して解決できるため、お客さまが求める低さを実現できます。

世界最大規模のイベント「SEMAショー」に初出展!得られた信頼

これまで手がけた中で印象に残っている仕事や大きな成果はありますか?

ラスベガスで開催される世界最大規模の自動車パーツの見本市「SEMAショー」に2016年~18年まで、3年連続で出展したことです。これは、アメリカのお客さまが製品を買ってくれたことがきっかけでした。その方のおかげでハワイに製品が広まり、本土のカーショップからも注文が来るようになりました。
初めての出展は本当に大変でした。日本のメーカーがSEMAショーにブースを出展するのは、私たちが初めてだったようで、言葉の壁もあり、現場での対応に苦労しました。しかしその分、つながりも生まれ、思い出深いです。

ショーへの出展後、何か変化はありましたか?

帰国後、さまざまな業者から連絡がありました。カーディーラーだけでなく、フェデックスやDHLなどの運送会社、銀行などです。ある銀行は「こんな田舎にこんな会社があるとは思わなかった。メインバンクとしてこの会社の成長を見ていきたい」と申し出てくれました。
さらに、DHLは商品をアメリカに発送する際の送料に、日本の最大割引率である70%の割引を適用してくれました。「アメリカに御社の製品を安く提供できるように」と協力してくれたんです。SEMAショーに出展したことで、さまざまな面で良い変化がありました。

夢はF1採用!試作品工場の運営も目指し

今後の展望や将来のビジョンを教えてください。

直近では、外注先の工場を自社で運営し、車のピットと開発施設を備えた試作品工場にしようとしています。開発のレスポンスを早くし、1年間に開発できる部品の種類を増やすことが目標です。
並行して量産化も進めています。将来的には自動車メーカーの純正オプションに採用されることを目指しています。日本の自動車メーカーに認めてもらうことが当面の目標です。
その先にはトヨタやホンダなどの大手自動車メーカーとの取引も視野に入れています。最終的には、自動車のF1シリーズで採用されるサスペンションを手がけることが夢です。

成長するためには飽くなき挑戦を

どのような方と一緒に仕事をしたいですか?

全力でチャレンジする方です。失敗を恐れず、不得意なことにも挑んで成長してほしいです。そのようにして自分のスペックを上げることが、自分の可能性を広げることにも繋がりますしね。

取材日:2025年7月16日 

株式会社ティーディメンド

  • 代表者名:田中 崇志
  • 設立年月:2011年1月
  • 資本金:600万円
  • 事業内容:オリジナルパーツの開発・作成・販売
  • 所在地:〒919-0442 福井県坂井市春江町寄安10-40-3
  • URL:https://t-demand-japan.com/
  • お問い合わせ先:0776-60-2010

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

川村忠寛

川村忠寛

1983年生まれ、秋田県八峰町出身・在住です。一時故郷を離れましたが、2011年に帰郷して町役場職員として公務に従事しています。2022年に非営利法人を立ち上げ、本業の傍ら、まちおこし・まちづくりにも取り組んでおり、その活動の一環としてハツレポーターに参加しています。

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