株式会社torinoko 代表取締役
Yusuke Koyama
小山 裕介氏
プロダクトデザインを中心に企業の商品開発やディレクションを行う京都のデザイン会社・株式会社torinoko(トリノコ)。「無印良品」で出会った2人のデザイナーが立ち上げた同社は、出会った地域の人、技術、資源をつなげ、自社オリジナル商品なども手がけています。例年のごとくグッドデザイン賞を受賞している株式会社torinokoの代表取締役・小山 裕介(こやま ゆうすけ)さんに、ブランド立ち上げの経緯や展望を聞きます。
点図をデザインしたポチ袋がヒット!元無印2人によるデザインユニット「torinoko」結成
torinoko立ち上げまでのご経緯についてお聞かせください。
武蔵野美術大学(工芸工業デザイン学科インテリアデザインコース)卒業後、玩具メーカーにて商品の企画・デザイン業務を経て、株式会社良品計画の生活雑貨部企画デザイン室で、主に家具や子ども用品のデザイン、ディレクションを担当していました。
その当時、職場の後輩で近所に住んでいた白鳥 裕之(しらとり ひろゆき)さんと仲良くなり、飲みに行ったり、休日に勉強のために工場見学に行ったりしていました。たまたま2人で点字の教科書を作る会社を見学していたときに、会社の方から「教科書を作らない時期は暇でお仕事がない」という話を聞き、白鳥と共同で点図をデザインしたポチ袋や封筒を作りました。ちょうど都内ではマルシェが多く開催されていたので、販売しぼちぼち売れて、工場の方も喜んでくれました。それからデザインユニット「torinoko」として活動し始め、会社設立にいたりました。
白鳥さんと小山さんをあわせて、トリノコ?
はい、そうです。お互いにないものを持っているので、「一緒にやったら楽だね」ってなって。白鳥は僕にはない感性を持っているのと、仕事が早くてプレゼンがうまい!あとマメさがあります。現在でも京都と東京で日々の活動やストア情報などを弊社のホームぺージやInstagramで発信してくれています。
「地方は地方でできることがある」。京都へUターンして会社を設立
京都・東京二拠点体制なのですね。どうして、本社は京都なのですか?
わたしは家族と生まれ故郷の京都へUターンしました。京都へ戻った理由は、東京の生活は大きすぎるので小規模な暮らしをしたいと思ったことです。あと満員電車が苦手なことも理由の一つです。その後会社を立ち上げ、後から白鳥にも役員として関わってもらい二拠点体制としました。
これまでの活動拠点である東京から京都へ移る葛藤はありませんでしたか?
もちろん取引先、知り合いなどが多い東京は、キャリアを生かしやすいのですが、最終的には「東京でなくても仕事はできる」という考えにいたりました。日本全国や世界を周るなかで、「地方は地方でできることがある」と気が付きました。京都でイチからやってみたいって思ったんです。
暮らしや人、土地を見つめ「みんなが使いたくなるようなモノを作る」
事業内容の「プロダクトデザイン」とは何ですか?
「みんなが使いたくなるような今はないモノを作る」ことです。ただモノを意匠的にデザインするのではなく、暮らしや行動の中でのモノの使われ方、作り手の持っている技術、ものづくりの歴史を見つめることで、デザインするべきテーマを見つけてモノづくりを行っています。
「プロダクトデザイン」の事業を大きく分けると、一つはクライアントへのデザイン提供。二つ目は自社での商品開発と販売です。
torinokoの強みを教えてください。
これまでのキャリアで「生活用品全般のデザインを経験している」というのが大きな特徴ですね。デザイナーのなかでも、文房具から家具、家電といったさまざまなジャンルを経験しているというのはわりと珍しいのではないかと思います。おかげ様で大体の製品の作り方がわかりますし、それにともなう工場とのつながりもあります。
完売必須!震災復興支援を機に続く、ある“缶詰”とは
独立してからも無印良品の商品開発に携わっていらっしゃるんですね。
所属していたときから、かれこれ10年以上、無印良品でのデザインや商品企画を行っています。家具、家電、キッチンツール、文房具、子ども用品など幅広く関わっています。
毎年完売必須の縁起物を缶に詰めた「福缶」もデザインされているんですか?
良品計画にいたころから毎年関わらせていただいています。震災復興の東北を応援したいという想いで青森・岩手・宮城・福島の14種類の縁起物を缶に詰めて販売し始めた企画です。東北を応援しながらも徐々に地域を広げて、現在は日本各地の縁起物を缶に詰めてお正月に販売しています。
日本の木に関する環境問題や可能性を伝えるモノづくり。コロナで“木の温もり”に需要
木と人の関わりをデザインすることで持続可能な社会を目指している京都市の「木と暮らすデザインKYOTO」に参加しているそうですが、どのようなことをされていますか?
元々、日本の針葉樹を使った製材所で作れる家具というテーマでデザイン活動をしていて、京都産木材バージョンも新しくバリエーションを作り販売しています。昔は木造住宅が多く、適度に森林伐採と植林を繰り返し持続可能な森林環境が日本にはありました。現在では木造住宅が減り、日本の木を使わないことで、山が荒廃して土砂崩れや川の汚染などの問題が起きています。この問題を解決する一歩として、森林問題を伝えながら日本の木を使う活動を行っています。
日本の木が再注目されているとニュースで見ましたが、torinokoとしてはどのようなアプローチを考えていますか?
民間では、コロナ禍以降オフィスの居心地の良さが見直されるなかで、木がある空間という需要が高まってきていると感じています。ただ効率的だけではなく、働く場の豊かさや調和が求められています。
また公共では、建築物や駅などで木造を用いた建物が増えてきています。自治体ごとに国産・地域産木材利用による補助を出して利用しやすくする取り組みも増えています。
自分たちは、日本の木を使った建築未満のモノを作って売ることで、建築では使えなかった小さな木や端材などを有効利用して、木材の無駄をなくし価値を高めたいと考えています。
高めた資本を山(森林)に還元することで、植林や山の整備等に回す費用ができ循環した社会へ一歩近づくと思います。
デザイナー増員で、新torinokoの幕開け。「自分が好きだと思う世界を楽しんで」
小山さんと白鳥さんのほかに新しくデザイナーが入社されたそうですね。
東京オフィスに期待のホープ、坂上 立朗(さかがみ たつあき) が合流しました。業務が増えて、手が足りなくなりそうだったので、昨年インスタグラムで募集したところ、たくさん応募があり、坂上さんを採用しました。坂上さんはデザイン事務所でアシスタントとしての勤務経験があったので、即戦力として活躍しています。また、3Dソフトが使えることもポイントでしたね。
今後、デザイナーが増える予定はありますか?また、展望を教えてください。
実は4月から京都に1人増えます。どんどん仕事を増やして、地域や社会に役立てる幅広い仕事をしていきたいと思っています。
そして、現在、販売店舗は東京オフィスだけですが、ゆくゆくは京都でも販売ができたらと考えています。
新しいモノを生み出し続ける小山さん。クリエイターとして続けられるコツはありますか?
僕は好奇心の赴くままにやってきたら、少しずつつながって今があるという感じかと。 好きなことができている自分がラッキーだと思う反面、僕は好きなことじゃないと続けられなかった。自分が面白いな、好きだな、って思うことを大事にすることが、クリエイターとしての仕事につながるんじゃないかなって思います。
クリエイターを目指す人にエールをお願いします。
若いときは食べるのも苦しい時期があると思いますが、20年くらい続けていると不思議と存在感がでてきます。最近では、大学時代の同級生や知り合いが何かしらの媒体で名前が出てきて、「続けていたんだ、頑張っているな〜」と感じることが多くなってきています。
継続は力なりの言葉通り、続けた先には何かしらの成果がついてきます。
ただ、好きや信念がないとなかなか続けられない。まずは自分が好きだと思う世界を楽しんでほしいですね。
取材日:2024年3月1日
株式会社torinoko torinoko Inc.
- 代表者名:小山 裕介
- 設立年月:2019年7月
- 資本金:100万円
- 事業内容:プロダクトデザイン、企業との商品開発、自社オリジナル商品開発・販売、 イベント企画
- 所在地:
京都本社 〒606-0015 京都府京都市左京区岩倉幡枝町665-33
東京オフィス 〒167-0042 東京都杉並区西荻北3-31-13 勝三ビル201
torinoko store Nishiogikubo 東京オフィス内 - URL:https://www.torinoko.net/
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。