ベトナム社会主義共和国の南部にある都市、ホーチミン市。観光の中心地にもなっているこの街では、とにかくバイクがたくさん走っている。国民のバイク保有率は1世帯あたり1.56台(ベトナム統計総局「ベトナム家計生活水準調査」調べ)となっており、世界的にみてもバイク大国だと言われている。
今回、ゴールデンウィークの休暇を利用してホーチミンを訪れ、現地の人々に混じってバイクの後部座席に乗り街を観光してきたので、その模様をお伝えしたい。
バイクの国ベトナムも、少しずつ自動車が増加中
ベトナムの都市部を訪れたことがある方なら、きっとバイクの多さに驚いた経験があるのではないだろうか。それほどバイクはベトナムでは国民のメインの交通手段となっており、学生から老人までほとんどの人が日常的に利用している。
一般的に100cc〜150ccのスクーター型バイクが人気で、HONDAやYAMAHAなどの日本メーカーがシェアの多くを占めており、ベトナム国内の工場で生産している。アッパーミドル層にはイタリアメーカーVespaのバイクも人気だそうだ。
理由としては、あまり鉄道インフラが発展していないことと、まだ自動車が高級品のため、1990年代以降自転車に代わる移動手段として国民に浸透してきたようだ。
日中もひっきりなしにバイクが走っているが、特に朝と夕方から夜にかけてのラッシュ時にはバイクが道いっぱいに長蛇の列を作っている。けたたましくクラクションが鳴らされ、渋滞は終りが見えない。
たとえ横断歩道でも信号が設置されていないことが多いため、歩行者は道路を横切るためにバイクにはねられないように気をつけながら渡る必要がある。向かってくるバイクの運転手と目を合わせながら、一定のペースで道を横断するのがコツで、落ち着いて歩けば勝手にバイクのほうが避けてくれる。急に走ったり、怖くなって止まってしまうとバイクが避けにくいため接触してしまうことがあるようだ。この道路の渡り方は日本の観光ガイドなどでもベトナム旅行の際には必須のテクニックとして紹介されている。
ただ今回5年ぶりにホーチミンを訪れてみると、明らかに自動車の割合が増えたと感じた。ベトナムの発展に合わせて、自動車を所有できる収入を得る人が増えてきたようだ。
日本や韓国の自動車メーカーが大半だが、なかにはヨーロッパメーカーの高級車を街中で見かけることもあった。
ベトナムの交通事情は少しずつ変化している様子だ。
ホーチミン市街地をバイクで駆ける爽快感
今回、そんなベトナムの街を、知人のバイクの後ろに乗って走るという経験をしてきた。
ベトナム在住のその知人はホーチミンで事業をしている日本人起業家なのだが、現地の通勤用にVespaのスクーターを所持している。少し離れたところに「おいしいランチを食べに行こう」ということで、バイクで二人乗りをして出かけることとなった。
ベトナムでも日本と同様に、バイクを運転する人も、後部座席に乗る人もヘルメット着用が義務付けられている。ただし、道を行き交うバイクを見ていると、ヘルメットを着用していない人もチラホラ見かけたのだが…。
後部座席にまたがってみると最初は慣れていないこともあり、どのように乗るべきか困惑してしまった。後部座席に掴むことができるバーがあるのだが、それを掴んでもあまり体勢が安定せず、急発進する時には落ちそうに感じて少し怖い。
いよいよ公道に出て道を走ると、想像以上に風が心地よい。ホーチミンは5月でも40度近い熱帯気温のため、バイクで走ると風を感じることができて非常に涼しく感じるのだ。
基本的にほかのバイクとも距離が近く、並走したり対向車とすれ違ったりするたびにスリルを感じる。また、一方通行を逆走したり、歩道を堂々と走っているバイクがあるのだが、そこはベトナムらしい緩さなのかもしれない。
そんなカオスな状態のなかでも、ベトナムの人たちは器用にバイクを乗りこなし、狭い車間距離でもぶつからずに走っている。まさに阿吽(あうん)の呼吸ともいえるような操作テクニックを見せてくれる。ほとんど車間距離が無くても、前のバイクとぶつかるようなことはない。
時には事故も起こるようだが、混雑でスピードが控えめなため、大きな事故は起きにくいそうだ。それにバイク同士が少しくらいぶつかっても大きなトラブルにならないところは、ベトナムに暮らす人たちの寛容な心のおかげなのかもしれない。
私は知人のバイクに乗せてもらったが、観光客でも手軽にバイク体験をしたい場合は「Grab」というライドシェアアプリを利用すれば、事前に行きたい場所を設定するだけで自分の居場所までバイクタクシーが迎えに来て、目的地まで連れて行ってくれる。
バイク大国ベトナムでのバイク二人乗りは、少しスリルもあるが非常に気持がいいとわかった。またベトナムに行く機会があれば、次は自分でバイクを運転する経験もしてみたいと思う。