未来は一人でつくるものではない。クライアントと見据えた先に、社会の“公器”として果たすべき使命【京都府京都市】

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株式会社ユキサキ 取締役社長

Taishi Jinno
神野 太志氏

プロダクト開発、グラフィックデザイン、システム開発と幅広い事業を展開する京都の株式会社ユキサキ。同社の取締役・神野 太志(じんの たいし)さんは、「現場や制作に特化したチーム体制であること」を理由に、代表の役割は親会社であるthomas株式会社に託しているといいます。京都府南丹市での映画祭の開催や、発達障害の子どもが楽しめる“文字のないキーボード&専用ソフト”の開発など、さまざまな事業を展開する神野さんに、ユキサキの過去や現在、目指す未来についてうかがいました。

音楽活動で培ったデザイン&プロデュース力。転機となった本能寺跡プロジェクトから起業へ

会社立ち上げまでのキャリアを教えてください。

デザインにはもともと興味があり、京都教育大学の作家養成コースで「現代アート」を専攻していました。実はずっとバンドをやっていまして、大学卒業後もすぐには就職せず、音楽活動を続けていたんです。ただ、音楽は一握りの成功者しか生みませんので、次第に行き詰まりを感じるように。そんな中、自主制作でCDをつくったり、ライブのチラシを自分でデザインしたりするうちに、「自分にはこちらの方が向いているかもしれない」と思うようになりました。
その後、デザイン制作会社や広告代理店に所属し、印刷物を中心に幅広いデザイン業務に携わるようになりました。

株式会社ユキサキを設立したきっかけを教えてください。

印刷ブローカーに勤めていた頃から、いつかはキャリアアップしたいという思いを持っていました。東京の中堅広告代理店にいた当時は、ブライダル系の案件を数多く担当。デザインスキルをさらに磨きたいと業務に取り組んでいました。
ところが、金融危機の影響で会社が倒産し、出向していた会社もクビに。スキルには自信があったので「自分でやってみよう」と、独立を決意しました。それほど、ドラマチックな話ではないんです(笑)。

フリーランス時代の印象的な仕事があれば教えてください。

3年目に「会社にしよう」と決めて、丸2年間はフリーランスとして活動していました。その中でも、織田信長を描いた漫画「いくさの子」を連載中だった原哲夫先生のプロジェクトが印象に残っています。
本能寺は「本能寺の変」で焼失する前は、現在の四条西洞院にありました。しかし、そこにはかつての記憶を留めるモニュメントが何もなかったんです。そこで本能寺跡に新たな施設を設け、漫画と連動した飲食などのコンテンツを展開するプロジェクトが立ち上がりました。私はWebでのPRやメディア対応といった広報全般を担当。寝る間も惜しんで働き、忙しい日々が続きました。「このまま一人では無理だ」と感じ、スタッフを雇い始めたのもこの頃です。

短期的な結果を追い求めず、価値あるアウトプットを未来につなぐ事業を

「ユキサキ」という社名にこめられた思いをお聞かせください。

「ユキサキ」という名前には、“未来”への願いが込められています。会社は私的なものではなく、公(おおやけ)の存在です。だからこそ、自分のためだけではなく、誰かのために力を尽くすべき場所。その「誰か」を考えたとき、まず思い浮かんだのが、自分の子どもでした。まだ見ぬ未来に希望を託す。「ユキサキ」という社名には、そんな私たちの出発点と思いが込められています。

どんな事業に取り組まれているのか、教えていただけますか?

アウトプットの領域は多岐に渡りますが、中心にあるのはグラフィックデザインです。そこを軸に、コピーライティング、イラスト、動画制作、アプリケーション開発、プロダクトデザイン、AIの活用、インタビュー、ユーザビリティ調査など、さまざまな手法を有機的につなぎ合わせながら取り組んでいます。こうした多様なアウトプットを連動させることで、ブランドやプロジェクトの“軸”をより強固に、より高い次元へと引き上げていくイメージです。
すべての活動に共通するのは「目的意識」。単なる制作にとどまらず、ブランディングや商品企画、事業計画など、企業や組織の根幹にアプローチすることを重視しています。

株式会社ユキサキの強みは何でしょうか。

短期的な結果を追い求める仕事はほとんどありません。私自身も、それを推奨していませんし、会社は社会に対する公器であるべきだと考えています。重視しているのは、どのような価値を提供できるかということ。売上や数字といった短期的な成果だけでは計れないものこそが大切だと思っています。クライアントとは「どんな未来を見据えるのか」を話し合うようにしてきました。その姿勢が結果的に、長く続く信頼関係につながっていると感じています。

作って終わりではない、未来につながる事業で印象的なものを教えてください。

発達障害を持つ就学児童向けに、放課後等デイサービスを運営するOFFICE COLOfUL株式会社さんと一緒に開発した文字の無いキーボード&専用ソフト「KIBOT」が印象に残っています。これは、2023年に第17回キッズデザイン賞を受賞しました。「文字を読みたくない」という子どもたちにとってパソコン操作は苦痛でしかありません。色や形が分かれば使えるキーボードは彼らがITやパソコンに触れるきっかけとなっています。

クラウドファンディングで資金を集めたり、テレビ番組で実際に使っている様子を生中継したり、さらには「その後につなげていくこと」も重要だと思い、研究者の方と連携して、発達障害とタイピングに関する知見を深めていきました。ゆくゆくは、文字が読めなくても仕事ができる、キーボードやパソコンが使える世界になればいいなと思っています。

18年から京都府南丹市で開催されている映画祭のプロデュースにも携わっているそうですね。

南丹市から「廃校になった小学校を活用して映画祭を開きたい」という依頼をいただいたことがきっかけで、18年から映画祭のプロデュースに携わっています。昨年はアワードを企画。全国から約100作品の応募があり、ノミネート作品を選定し上映しました。
また、JRや南丹市観光協会と連携し、駅前の活性化にも取り組んでいます。駅前にはミニシアターを設け、ショートフィルムの上映など、地域とのつながりを意識した展開も行ってきました。そして現在は、来年に向けて、京都市内での映画祭を企画中です。

生きると同じレベルで「ものづくりは楽しい」を追い続ける

神野さんが目指しているもの、ユキサキとして今後取り組んでいきたいことを教えてください。

私が大切にしているのは、「バリアフリーデザイン」という考え方です。さまざまなマイノリティの方々にとって、デザイン上の障壁を取り除いていくこと。それがバリアフリーデザインの本質だと考えています。そうした視点を持ちながら、やさしさと配慮のあるデザインを提供していきたいですね。
もう一つは、「評価の仕組み」を作っていきたいと思っています。映画監督や舞台俳優、そしてバンドなど、表現の世界で成功するのは簡単なことではありません。私自身、音楽活動を通じて挫折を経験したこともあり、「表現を軸に社会で生きていくことの難しさ」を痛感しています。アワードを開催した時に、集まった作品を見て、映像作家さんや監督さんの“認められたい”という悶々とした熱量を感じました。だからこそ、表現に関わる人たちがもっとのびのびと生きていけるように、クリエイティブが持続的に生み出されていく評価の仕組みを作っていきたいです。
個人的には、社会へのアプローチを考えず、デザインを隠れ蓑(みの)にしたアート作品を作っていきたいですね。2年に1回程度、自分だけが関心のある“無駄で無意味”なテーマで作品展を開催しています。たまに興味を持って見に来てくれる方がいますね(笑)。

一緒に働くクリエイターに対して、会社としてどのようなことを求めますか。

自分が本当にやりたいことを大切にするのが一番。さまざまな制約の中でどう折り合いをつけるかが重要です。私自身の経験から、「ここはクライアントの意向をくんで抑えるべき」「ここはもっと攻めた方がいい」といったバランス感覚を持ってアドバイスするようにしています。やりたいことをやっている人は、それが成し遂げられていればリスペクトされるはずです。

取材日:2025年6月5日 

株式会社ユキサキ

  • 代表者名:神野 太志
  • 設立年月:2014年3月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:グラフィックデザイン・WEBサービスの企画運営・プロダクトデザイン・ブランドコンセプトデザイン・WEBデザイン・アプリケーション開発・広告・商品の企画開発・イベント企画運営
  • 所在地:〒604-8801 京都市中京区三条通神泉苑西入今新在家西町29番地3 三条未来Factory room1
  • URL:https://yukisaki.co.jp/
  • お問い合わせ先:https://yukisaki.co.jp/contact/

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

上野典子

上野典子

2人の息子を育てながら、ライター業務を続けてかれこれ29年。紙媒体やWEBページのライティング、Googleアナリティクスの分析、リスティング広告の運営管理なども手掛けている。グルメ、住宅、教育、子育て、スポーツ、歴史、人物の取材インタビューなどの執筆経験は豊富。特に口数の少ない人から話を引き出すインタビュー術に自信あり!

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