大工育ちの建築士だから造れる「収まり」のある家。現場に立ち続ける代表が目指す業界の底上げ【新潟県新潟市】

4 min 19 views

株式会社mokusia 代表取締役
Manabu Kitazawa
北澤 学氏

新潟市北区にある建築事務所・mokusia(モクシア)。中学時代は消防士にあこがれていたという同社の代表・北澤 学(きたざわ まなぶ)さんは、あることをきっかけに大工、そして建築家の道へと進みます。図面を引く一方で今でも大工として現場に立つなど、家造りに一意専心な北澤さんに家造りへの思い、大工という仕事、そして展望などを伺いました。

あこがれの対象は消防士から大工へ。きっかけは、餅まき!?

建築にはいつごろから興味を持たれていたのですか?

実はもともと僕がなりたかったのは消防士でした。中学生のときに読んだ「め組の大吾」という漫画に影響を受けて、高校を卒業したら公務員試験を受けようと決めていたんです。それがある日の学校帰り、建前で施主さんと一緒に大工さんが餅まきをしている光景を目にしました。「かっこいいな」。そう思い、大工という仕事に興味を持つようになりました。
そこから自分なりにいろいろと考え、「自分が作った家にお客さんが住んで、そこでお子さんが育って、成長したお子さんがもしかしたら家を継ぎ、また新しい生活を始める」。そういった夢のある仕事って素敵だって思い、大工になろうと考えたんです。

大工さんになるためにどのように動いたのですか?

どうしたら大工になれるのか、そんな知識もなかったので周りの人に相談したら、友達のお父さんの友達で大工をしている方がいて、紹介してもらえることになりました。そこからはトントン拍子に話が進み、高校を卒業後すぐに、その親方のところに弟子入りしました。僕たちの親世代の職人さんでしたから、なんかあるとクギが飛んでくるような、そんな親方でしたね。

ある“ギャップ”で生まれた独立志向。大工仕事をこなしながら猛勉強、「昼休みに車の中で」

独立はいつごろから考え始めたのですか?

弟子入りした当時は仕事を覚えることに必死でまったく余裕がありませんでした。5年ほど立ったときですかね、独立を考えるようになったのは。今もほとんどがそうですが、大工は下請けなんです。僕の親方ももちろんそうで、設計事務所さんから大工工事を下請けする。自分が携わった家の完成を見ることもなければ、施主さんと話すこともない。なりたいと決めたあの当時、想像していた大工像とのギャップを感じ始めたのが、独立を考え始めたきっかけでした。
そこから独立するには何が必要なのかを調べ出しました。家を立てるには建築士にならないといけないし、建設業の許可も取らないといけない。そこでまず大工の仕事をしながら建築士の免許を取りました。そして、親方に独立したい旨を伝え、了承していただきました。弟子入りから10年経ったときのことでしたね。

大工の仕事をしながらの資格取得は大変でしたか?

ハードでしたね。昼休みに車の中で勉強して、学校にも通っていたので、時間的にも大変でした。でも、資格を取ってからも大変で、28歳で親方のところを離れてからもしばらくは個人事業として大工の仕事をし、いろいろな大工さんや業者さんとの関係性を築くのに労力を費やしました。そんなこんなで、建築会社としてやっと法人を設立できたのは、2019年のことでした。

社名にも入る「木」、こだわる理由。今も心に残る“一棟目”

会社名の由来を教えてください。

大工だったからか、木がそもそも好きなんですよね。この事務所もそうですが、木が感じられる空間が好きなんです。だから、木造の「モク」を付けようと。それから家造りをしていくうえでやはり住むほうが幸せに暮らしてくれたらいいなという思いから幸せの「シア」を取り、それを合わせて「モクシア」と名付けました。シンプルすぎて最初は恥ずかしかったんですけど、最近はこの名前でよかったと思うようになりました。

北澤さんの考える木・木造の魅力とは?

経年の変化はありますが、優れた機能性に変化はないし、家の中で見える素材として飽きがこない。それから唯一無二の温かさがあるから、気持ちを落ち着かせてくれる効果もある。匂いの面でもリラックスできるところなどが木造の家の魅力だと思います。

独立して一棟目の家はどのような形で受注までこぎつけたのですか?

大工だったので、営業の仕方も分からない。でも、住宅の仕事を早く受注したい。でも、実績がないし……。そんな中で友達が声をかけてくれたんです、「家を立てたいんだけど、相談に乗ってくれ」って。うれしかったですね。それまでお世話になった方々にいろいろと相談しながら、手探りで、家を建てていって……。完成したときに、施主である友達がとにかく喜んでくれて、「やっぱりいいな。家造りってこういうことなのか」と。
お客さんと話をして、自分が造ったものを喜んでいただくことのうれしさを一棟目から実感できたのは大きな経験だったと思います。

その後は順調に受注を重ねていったのですか?

はい。しかし、創業1年目は自分の会社の方向性にずいぶん悩んでいました。大工育ちの建築士が打ち合わせから現場、引き渡しまですべてに携わる一貫性が弊社のウリなのですが、そのよさがなかなか伝わらない。ほかの会社とどこが違うのか、お客さまは理解しにくい。これを常に考えながら、過ごしていました。
しかし、現場を重ね、お客さまとご一緒する機会が増えるごとに、どう伝えればいいのかが分かってきました。同時に弊社で家を建ててくださった方々からの口コミを聞いた別のお客さまが「北澤さんが最後まで面倒を見てくれるんですよね」と問い合わせをいただくケースも増えてきたのでとてもうれしく思っています。

自身も大工として現場入りし、新たな知識をインプット。大工だからこそ作れる「収まり」

北澤さんは今も現場に入り、大工として仕事をするのでしょうか。

もちろんです。それに、大工として設計事務所さんから依頼を受けて別の会社の現場に立つこともあります。これが実は勉強になるんです。僕が知らないやり方をする方とご一緒することもあるので、常に新しい情報・手法をインプットできる大事な時間ですね。

大工であり、建築士であることの強みとは?

収まりをきちんと分かった設計ができることですね。「収まり」とは、現場に立つことで分かるもの。例えば、隣の家との感覚だったり、窓のある場所だったり。日照時間や雨の振り方、近隣に住む子どもたちなど、家の中だけではなく、現場に行くからこそ分かるさまざまな事柄のことをいいます。どうしても図面だけだと3Dになっていて実際に現場にそのままを落とし込めるかというと、難しいことが出てきます。
例えば、雨はどこに抜けていくのか、というのは隣の家の状況などを見ていないと考えられません。現場に出ている大工だからこそ分かることが多くあるのは強みだと考えています。

減りつつある職人を増やし、大工業界の底上げを。弟子入り時代の大工が右腕に

現在の御社のメンバー構成を教えてください。

僕以外に社員大工が3人いて、さらに常時来てくださる外注大工さんが1人、女性スタッフが1人います。社員大工さんの中には僕が親方に弟子入りしていた時代から知っている僕より年上の大工さんがいます。会社を立ち上げようと考えた当初、打ち合わせや設計に割く時間が生まれると、僕がずっと現場にいることは徐々に減っていくことは安易に予測していました。だから、知り合った当時から腕のよかった先輩大工の方に社員になっていただき、現場を任せられる右腕になっていただいたんです。

やはり腕のいい職人気質の大工さんというのは少なりつつあるのですか?

実際、減ってきていると思います。昔ながらの「ノミ」「カンナ」を使える大工さんがどのくらいいるかというと、どんどん減ってきています。だからこそ、僕には夢があるんです。大工の育成・底上げです。昨今では、家の機密、断熱、耐震等級というところへの意識が非常に高まってきています。それらを高めるためには建材などのほか、きちんとした技術を持つ大工の仕事が不可欠だと思います。そういった意味で、大工としての知識を伝え、技術力のある大工を輩出できたらと思っています。
そうそう、今年の春から専門学生が大工として入ってきたんです。とてもうれしかったですね。

今後どのようなクリエイターと一緒に仕事をしたいですか?

先程のとおり、大工の底上げをしたいと考えているので大工になりたい人も一緒にやりたいし、仕事の違いを見て吸収したいので現在すでに大工さんとしてお仕事をされている人ともご一緒したいです。
あとはもっと僕が現場に出られるように(笑)事務的なこと内勤で管理をしてくれる方。とにかくいろいろな方とご一緒してみたいですね。

取材日:2024年4月18日 

株式会社mokusia

  • 代表者名:北澤 学
  • 設立年月:2019年6月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:住宅の新築・リフォーム工事の設計・施工
  • 所在地:〒950-3134 新潟県新潟市北区新崎5046-2
  • URL:https://www.mokusia.net/
  • お問い合わせ先:025-384-4313

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

コジマタケヒロ

コジマタケヒロ

新潟県

クリエイターズステーション

大学時代からライターとして文筆。大学卒業後は、新潟県内でエリア情報誌を発行する出版社に就職。編集に従事し、エリア情報誌の編集長や各種ムック本制作を担当する。2019年よりフリーランスに。出版社時代から得意ジャンルとしている日本酒や地域のグルメ情報を中心に新聞やウェブ媒体に執筆している。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です