ポーランドには、年に一度だけ全国民がドーナツを食べまくる日がある。それが「Tłusty Czwartek」(脂の木曜日)だ。この日はカロリーを度外視し、こぞって伝統の揚げ菓子pączki(ポンチキ)を食べる。国全体で消費されるポンチキは1日でなんと約1億個。甘さと幸福に満ちたこの特別な日に込められた文化や歴史を紹介する。

ポンチキとは、中にジャムやクリームが詰まったポーランドの丸い揚げ菓子だ。卵や砂糖で作った生地でバラのジャムやラズベリージャム、チョコレートクリームなどのフィリングを包み、ラードでカリッと揚げる。
また、キリスト教の「四旬節」に入る直前の木曜日が「脂の木曜日」と呼ばれ、今年2025年は2/27にあたる。四旬節とは、イースター(復活祭)前の40日間、贅沢(ぜいたく)を控える期間のこと。この期間に入る前に、思う存分甘いものを楽しもうというのが「脂の木曜日」の由来だ。

ポーランドには「Kto w tłusty czwartek nie zje pączków kopy, temu myszy zniszczą pole i będzie miał pustki w stodole.」(脂の木曜日にポンチキを食べない者は、ネズミに畑を荒らされ、納屋は空っぽになる)ということわざがあり、ポンチキを食べることが幸運をもたらすと信じられている。また、「żyć jak pączek w maśle」(バターの中のポンチキのように生きる)という表現は「裕福で恵まれた生活を送る」という意味で使われる。それほどまでに、ポンチキはポーランド文化に根付いた存在といえよう。

現代では、ポンチキも進化を遂げている。ヴィーガン対応やグルテンフリーのポンチキも登場し、フィリングも伝統的なジャムだけでなく、バニラカスタードや生チョコレートなどバリエーション豊かだ。どんなポンチキであれ、重要なのは「ふんわり軽やかであること」。これはイースト生地にしっかり空気を含ませることで生まれる食感だ。
また、ポンチキには音楽までもが存在する。カール・モンテルが作った「Pączki Polka」(ポンチュキ・ポルカ)という楽曲があり、脂の木曜日の雰囲気を盛り上げている。
砂糖や卵、バターの価格が変動する中でも、ポンチキは変わらず人々を魅了し続ける。ポーランドの脂の木曜日は、単なる「甘いものの日」ではない。そこには文化と伝統、そして人々の幸福が詰まっているのだ。
取材/写真 協力:Przemysław Andrzejewski(Otwock, Rzeczpospolita Polska)
参考資料:Dziś królują pączki(Radia Elka)、Droższe pączki na tłusty czwartek 2025 nawet w domu. Za hit zapłacimy 30 zł(Strefa Biznesu)、Culture.pl(Instytut Adama Mickiewicza)