デザインの力で「広島を盛り上げたい」。お遍路旅が教えてくれた「善意の循環」【広島県広島市】

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有限会社 久保田商事 代表取締役

Ryoko Kubota
久保田 涼子氏

「ワクワクするモノ・時間・場所を生み出す」をテーマに、クリエイターそして経営者として活動を続けている有限会社久保田商事の代表・久保田 涼子(くぼた りょうこ)さん。失職後のお遍路旅で感じた“善意の循環”を常に心に留め、全国を駆け巡ります。「クリエイティブで世の中の好循環を生み出したい」「大好きな地元広島の街を盛り上げたい」。そんな思いで地域の課題解決に取り組み、クリエイティブ人材の育成にも力を注ぎます。

気づいた“ものづくりが好き”。周囲の人に刺激され、Webデザインの道へ

心理学専攻からWebデザインの道へ進んだきっかけを教えてください。

10代の頃からずっと音楽活動をしていて「いずれはプロになりたい」という夢を抱いていましたが、親から4年大学に行き、視野を広げるように勧められ、東京女子大学の心理学科へ進みました。大学時代、勉強と並行して音楽を続ける中で、「私は音楽に限らず、企画して何かを作る“ものづくり”が好きなのかもしれない」と気づきました。
やがて就職活動が始まる3年生を迎える頃、アルバイト先で出会った社会人のグラフィックデザイナーの影響で、デザインという仕事に興味を持つようになりました。彼女は、平日にも関わらず学生の私と一緒に旅行へ行くこともでき、会社に縛られることなく、とても自由に生き生きと、楽しみながら仕事をしていました。私もあんな風に仕事ができたら良いな、と考えたのも理由の一つです。
デザイナーを目指すにはどうしたらいいかを相談したところ「これからは、Webデザインを学ぶと良いのでは」という助言をいただき、Webデザインの道を目指すことを決意し、デジタルハリウッド渋谷校(現:デジタルハリウッドSTUDIO渋谷)へ入学しました。デジタルハリウッドでの半年間は、月曜日と木曜日に授業があり、その間に課題をこなす、という生活でした。かなりハードなスケジュールでしたが、中学から大学まで女子校だった私にとって初となる共学生活は新鮮でもあり、楽しく、ひたすら懸命に取り組みました。
卒業後は、講師の友人のWebディレクターからお声がけをいただき、派遣社員としてWebデザインの制作会社でフロントエンドエンジニアとして勤務することとなりました。

人の輪広げ「大好きな広島を盛り上げたい」。失職後のお遍路旅が転換点に

Webデザイナー、そして会社経営者までの道のりを教えてください。

目標としていたWebデザインの世界へ飛び込み、仕事はそれなりにきちんとこなしていたのですが、当時の私は比較的会社を休むことも多く、まだまだ社会人としての意識が甘いところがありました。4年半ほど勤務した頃、ちょうどリーマンショックが起こり、契約更新は叶いませんでした。職を失い、スケジュールは真っ白になったのです。
仕事を失ったことは少なからずショックでしたが、こんな機会は滅多にない、と前向きに受け止め、お遍路へ旅立つことを決めました。ネットショッピングで白装束や金剛杖を準備し、1カ月半かけて四国八十八ヵ所の霊場を徒歩で巡りました。雨の日も晴れの日も歩き続け、時には人気のない山道を地図だけを頼りに歩くこともありました。決して快適で楽しいことばかり、と言える旅ではありませんでしたが、シンプルに人対人として向き合える貴重な経験ができた旅でした。ある時は、土砂降りの中を歩いていたところ通りすがりの車が急に停まり、降りて来た元お遍路の男性がジュースを手渡してくれたこともありました。


このお遍路旅を通して、“ペイフォワード”誰かからいただいたご恩を、また別の誰かに送る、善意の循環で世の中が良くなる、そんなことを実感しました。今振り返るとお遍路旅は、私にとって自分探しの旅だったように感じます。地域の人たちに支えられ、お遍路さん同士、年齢や性別、肩書も関係なくただ人と人として向き合う、人の優しさや温かさを実感した旅は、人生の転換点になっているのだと思います。


旅の様子をSNSのmixi(ミクシィ)で発信していたところ、現役で活躍しているデジタルハリウッド時代の同級生から、旅から戻ったら仕事を手伝ってくれない?といった連絡が何件か入るようになりました。旅の後半からは、東京へ帰ったら仕事を頑張りたい、という思いがどんどん湧いて来ていました。やがて最後の霊場を訪ね、お遍路旅を終えた私は、帰京後早速、依頼された仕事を開始しました。個人事業主のWebデザイナーとしてのキャリアのスタートでした。それからは頼まれた仕事はどんどん引き受け、寝る間も惜しむ勢いで働きました。
さまざまな案件に携わり実績を重ねる中、2022年、高齢になった父から会社を引き継ぐことを決意し、代表取締役に就任することとなりました。父が元気なうちに事業を継承して安心させてあげたい、という思いとともに、「地元広島で人のつながりを生み出す新しい場所を作り、大好きな広島を盛り上げたい」という思いもあり、決断しました。

「不動産×Web」で面白い化学反応を起こす。二拠点で活動

事業内容を教えてください。

弊社は1979年創業以来の不動産事業に加え、Web制作事業などを新設しています。そのため、不動産の管理・運用、Webサイトの企画・制作・保守・コンサルティングが中心になりますね。一見するとまったく異なる分野の事業を組み合わせることで、面白い化学反応が起こると信じています。
広島と東京の二拠点を中心として、お声が掛かればどこへでもフットワーク軽く出向き、クライアントの課題解決に企画の段階からじっくりと向き合っています。
そのほか、イベントの企画・運営、広告代理店業務なども行っていますよ。

デジタルハリウッドSTUDIO広島のオーナーに就任。「広島にデザインで貢献したい」

デジタルハリウッド広島校のオーナー就任への思いを教えてください。

経営者として二つの事業部を展開させる形で走り出したのですが、デジタルハリウッドSTUDIO広島のオーナー就任のお話をいただいた当初は、父からの反対がありました。利益追求が難しい教育の分野に参入することは、経営者として賛成できなかったようです。ですが、私には、大好きな広島にデザインを通じて貢献したい、という思いもあったので、オーナー就任がまさにそのチャンスではないかとお引き受けを決意しました。同時に、経営者として長年培ってきたノウハウを、父が元気な間に引き継ぎたい、という思いもあり、より一層前向きに経営者としての学びを深めるため、現在は苦手な数字とも格闘しています。

さまざまな活動をする中で、特に印象に残る出来事を教えてください。

デジタルハリウッドSTUDIO広島のオーナーには2025年から就任するのですが、講師としては、東京のデジタルハリウッドSTUDIOでも多くの受講生に向き合ってきました。いろいろな講座がある中で“地域の未来講座”というものがあります。地域が抱えるさまざまな課題にデザインを通して向き合い、解決策を見出す講座で、受講を終えた卒業生がエントリーしてコンペ形式で競います。
STUDIO横浜の卒業生たちが取り組んだ課題が、江田島にある病院の採用サイト制作でした。コンペの結果、卒業生たちが提案した全作品を病院側が気に入ってくださり、全員の案が採用となったのですが、講座が終了して有志の皆で病院を訪ねた際、病院長から掛けられた言葉がとても印象に残っています。「自分たちには見えていなかった新しい価値を皆さんに見出してもらったことで、院内の士気が上がり、働いている人たちのモチベーションアップにつながりました」という言葉です。とても心に沁みる言葉でした。
ただWebサイトを作るだけではなく、広い意味で地域の課題解決の一助となれたことはとても良い経験でしたし、もっと多くの受講生さんたちにも体験してほしいと思いました。これからもこういった活動を通して、地域の皆さんとデザインを学ぶ生徒たち、双方にとって貴重な体験の機会を設けていきたいと思っています。

デザインを通じて「ワクワクする未来」へ。主婦層にもデザインの力を身につけ可能性を広げてほしい。

デジタルハリウッドSTUDIO広島も含め、これから特に注力したいことは何ですか。

私がこの度デジタルハリウッドSTUDIO広島のオーナー就任にあたって、新たに開設する“Webデザイナー専攻 主婦・ママクラス キャリアデザインプログラム”というのがあります。ほかのデジタルハリウッドSTUDIOでは開設して10年以上の歴史もあり、卒業生は全国に1000人以上。実績のあるクラスをSTUDIO広島でも開設したいと思っていました。
主婦や子育て中でお仕事に就くことを諦めている女性は、本当に大勢いらっしゃいます。また、以前の経験やスキルなど、実は高いポテンシャルを持っている方も大勢いらっしゃるのです。そういった主婦・ママたちがWebデザインを学ぶことで、家庭や育児とのバランスを図りながら仕事ができるようになる、自分らしく楽しみながら働くことができる、そのための道筋作りのお手伝いができれば、と思っています。
主婦・ママクラスだけでなく、“地域の未来講座”のように卒業生たちが地域の課題解決に挑戦するなど、実践的な活動も含めて就職活動・転職活動へつながるようなサポートも行い、学んだ先にワクワクする未来が見えるような場所にしていきたいと考えています。
事業者、行政、地域…さまざまな分野とつながりを持ち、それぞれの課題解決に向き合うことによって、デジタルハリウッドSTUDIO広島とそこで学ぶ人たちを育てていきたいのです。

これからクリエイターを目指す人にメッセージをお願いします。

「デザインは難しいものだ」と思っている人や、「デザインをやってみたかったけど、ずっとその一歩が踏み出せていない」という人に、デザインは、スキルを身に付けることで、誰かに何かを容易に伝える手段である、ということを知ってもらいたいと思っています。デザインは誰にでも開かれた手段です。少しでも興味がある方は、ぜひ気軽にお話しましょう。デザインへの扉を一緒に開くことができるかもしれません。

取材日:2025年2月17日 

有限会社 久保田商事

  • 代表者名:久保田 涼子
  • 設立年月:1980年10月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:不動産の管理及び運用/ウェブサイトの企画・制作・保守及びコンサルティング/イベント、セミナー、講習会の企画及び運営/広告代理店業務
  • 所在地:〒733-0811 広島県広島市西区己斐東2-30-6
  • URL:https://kubota-s.com/about/
  • お問い合わせ先:082-299-4450

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

村上雅水

村上雅水

広島市在住のコピーライター。東京の大学を卒業後、映像制作会社を経て広告代理店でコピーライター・プランナーとして勤務。その後、フリーランスとして広告物の企画やコピーライティング、ライターとして活動中。電波媒体から紙媒体、WEBまで幅広く企画・ライティングを手掛ける。得意分野は食、子育て、介護など。▲この記事を書いた人にお仕事をお願いしたい場合には、直接クリエイターズステーション編集部にご連絡ください。https://www.creators-station.jp/category/interview/legends

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