たった一人の想いが、春の絶景に。天童・芝桜の丘、今が見頃【山形県天童市】

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春風に誘われて、天童市の丘に広がるピンクの絨毯(じゅうたん)が見頃を迎えている。

山形県天童市。将棋のまちとして知られるこの地の一角に、まるで春の夢のような風景がある。丘一面を覆い尽くす芝桜のグラデーション。青空の下、ピンク、白、紫の小さな花々が咲きそろい、訪れる人々を静かに包み込んでいる。

この光景が広がるのは、天童市立谷川(たちやがわ)の河川敷。見頃を迎えるのは4月下旬から5月上旬。いまがまさに、最も美しい季節の真っただ中だ。

◆ ゴミだらけだった河川敷に、夢を見た人がいた

この芝桜の丘には、ひとつの物語がある。かつてこの場所は、不法投棄が繰り返される荒れた河川敷だった。誰にも見向きされず、忘れられたような場所だった。

そんな地に、たった一人で足を踏み入れ、スコップを手にした男性がいた。田所三男さん。後に「花さかじいさん」と呼ばれるようになるその人は、「ここを、花の丘にしたい」と心に誓い、ゴミを拾い、草を刈り、苗を植え始めた。最初は誰も信じなかったが、やがてその姿に共鳴した地域の人々が、少しずつ、手を貸すようになった。

◆ ひと株ずつの春、「一人一草運動」

田所さんの取り組みはやがて「一人一草(いちにんいっそう)運動」と呼ばれるようになる。来訪者や住民が、自ら芝桜の苗を持ち寄り、ひと株ずつ植えていくという草の根の活動だ。

そのひと株に込められた思いは、「また見に来よう」「この風景を誰かと見たい」。芝桜はただの花ではなく、人と人の約束や願いが咲いたものである。

◆ 夢半ばで――想いを託された丘

田所三男さんは、この活動を始めた翌年、志半ばでこの世を去った。しかし彼の行動は、確かに地域の人々に受け継がれていった。

「花を咲かせるのに、早いも遅いもない。できる人が、できる時に、できることを」。

これは生前の田所さんの言葉である。

その精神は今もこの丘に生きている。花を育てることが、人とまちを育てる。天童の芝桜は、その証である。

◆ 山寺とめぐる春旅にもぴったり

芝桜は現在、ちょうど見頃のピークを迎えている。5月中旬までは絶好のタイミングであり、天候が良ければ青空と花のコントラストが映え、カメラ片手の来訪者が多く訪れている。

また、ここは観光名所「山寺(立石寺)」から車で約10分の距離にあり、山寺で歴史に触れた後に芝桜の癒しを味わう“春の二重奏”が人気だ。

丘を散策した後は、天童温泉でひと息つくのもおすすめ。日帰り入浴が可能な施設も多く、地元の名物「天童牛」や「肉そば」、山形フルーツを使ったジェラートなど、グルメも充実している。

派手な観光地でも、大きなテーマパークでもない。でも、ここには静かな感動と、人の想いが重なる風景がある。

田所さんのまいた種は、芝桜として咲き、そして人の心に届いていく。花が咲くまでには時間がかかる。けれどその時間が、景色に深みとやさしさを与えてくれる。

立谷川河川敷 アクセス情報

所在地:天童市荒谷
緯度・経度情報:38.311033, 140.406899
アクセス:山形自動車道山形北ICより車で約10分 / JR高瀬駅から1.5km
駐車場:30台
公式サイト:https://hanasaka-flower-eden.jp/
※写真は全て筆者が撮影(2025.05.06)

■関連リンク

やまがた景観物語:https://keikan.pref.yamagata.jp/vp_070/

阿部宣行

阿部宣行

山形にある探究教室の講師。子どもたちが熱中できることを見つけ、大人顔負けで実践できるように日々活動しています。ローカリティに参加してからの趣味は写真撮影。子どもたちの視野を広げるために記事を書き、写真を撮っていきます。

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