会社員から起業し、月間2000万人が利用するレシピメディアを運営。貢献心と熱意で「心は動く」【東京都港区】

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Nadia株式会社 代表取締役社長

Yoshiki Katsuragi
葛城 嘉紀氏

仕事では「貢献」に重きを。東京のNadia(ナディア)株式会社の代表取締役社長である葛城 嘉紀(かつらぎ よしき)さんは、音楽プロモーションやメディア運営を担う会社員時代を経て、月間2000万人が利用する料理メディア「Nadia」を立ち上げました。その過程では、プロの料理家や料理研究家と会うべく全国を飛び回り、自らの思いを伝えた経験も。情熱があれば「人の心は動く」と主張する葛城さんに自身のキャリア、会社設立の背景などを聞きました。

仕事の本質にあったのは「貢献」の精神

社会人のスタートは、レコード会社の音楽プロモーターだったそうですね。

バンド経験もあったので「どうせ働くなら好きな音楽を仕事に」と思い、新卒で就職したのが株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントだったんです。在籍当時は、L’Arc~en~Cielやゴスペラーズ、ASIAN KUNG-FU GENERATION……と、さまざまなアーティストのプロモーションをテレビ局やラジオ局に売り込むため、音源サンプルの「白盤」をいっぱいに詰め込んだ紙袋を抱えて、それこそ夏場は汗だくで都内を駆け回っていましたね。仕事は楽しかったんですが、入社3年目に退職しました。

当時、退職を決めた理由は?

僕は「好きなことを仕事にするのも楽しいけれど、それよりも誰かに貢献できる仕事が好きなんだ」と気が付いたからですね。退職の話をすると「営業が嫌になったんですか?」と聞かれることもありますが、けっしてそうではなかったんです。関わるアーティストの方から「葛城くんのおかげで憧れの番組に出演できた。ありがとう」と言われたのがうれしくて、同時に、いずれは「ソニー・ミュージックの葛城くん」ではなく「自分の名前でビジネスを手がけたい」という思いが芽生えたので、将来の起業を見据えて退職しました。

大企業の一員ではなく「鶏口牛後」で起業決意

レコード会社の退職後は監査法人、株式会社リクルートに転職されました。

起業に備えて、有限責任監査法人トーマツでの勤務を経て、リクルートに転職しました。当時は、リクルートの手がける不動産メディア「SUUMO」の営業からスタートして、新規事業開発や既存事業の戦略立案にも関わり、経営者の現在に近い仕事をいろいろと経験しました。

リクルート時代には、実際に起業もされたそうですね。

副業や起業が許される環境で、在籍中に着々と会社を作っていました。ただ、本腰を入れたのは退職後です。僕がいた当時、リクルートではビジネス企画のコンペがあって、起業をサポートする社内ベンチャーの制度はありました。ただ、今も胸に刻む「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」(※)の精神で、たとえ小さくとも、ゼロから作った自分の企業で勝負する選択肢を取りました。(※「大きな集団で強い者に従うのではなく、小さな集団であっても独立した存在となれ」を意味することわざ)

ただ、現実としては会社経営の厳しさもあったと。

元手がかからない受託でのシステム開発、SNS運用代行などのメディアコンサルティングを手がけていたんですが、うまくはいかなかったですね。当初は社員が僕だけでしたから、営業をかけて仕事ひとつ取るのも苦労して、自分がいかに大手企業の看板によりかかっていたのかと痛感しました。音楽プロモーター時代に培ったガッツでなんとか仕事を取れても、自分だけが食べていくならまだしも、会社としての体をなしていなかったと思います。

料理研究家たちに出会い、料理事業への挑戦を決意。月間2000万人が利用するメディアへ

事業転換を図り、2012年7月には現在の前進となる株式会社OCEAN’Sを新たに創業。料理のプロが集う料理メディア「Nadia」を立ち上げます。

受託業務だけではなく、ユーザーに「使いたい」と思ってもらえる自社発信のサービスを作らないと会社の発展はないと考えたんです。料理に目を向けたのは、さまざまな企業のメディアコンサルティングを通して、料理研究家の方々との出会いがあったからですね。当初、僕自身は料理をそれほどしなかったので、関心が薄かったんです。ただ、話を聞くうちに、料理には起業の原点にもなった「貢献」の精神があると気が付いて、誰かのためにおいしいご飯を作るのは「相手を思いやるホスピタリティ」があってこそですし、事業として挑戦する価値があると思いました。

メディア自体は10年以上の歴史を持ちますが、どのようなサービスを展開しているのでしょうか?

Nadiaは、独自の審査に通過したテレビや出版、SNSなどで実績のあるプロの料理家、料理研究家、フードコーディネーターの方々、通称「Nadia Artist」たちがレシピを投稿する料理メディアです。25年2月時点では月間2000万人のユーザーにレシピを閲覧いただき、950人以上の「Nadia Artist」の方々に支えられています。

今でこそ、レシピサイト文化は定着していますが、立ち上げ当初は認知されるまでの苦労もあったのではないでしょうか?

料理メディアが少なかったですし、プロの方々がレシピを公開するサイトはまれだった印象もあります。かつて、ソニー・ミュージックエンタテインメントでアーティストマネジメントを、リクルートではメディア運営を経験していたのですが、ゼロからのコンテンツ制作は大変で、PV(ページビュー)を獲得して、マネタイズするのは想像以上の難しさでした。ただ、事業としての手応えは初期段階からあったんです。

我々のメディアに欠かせないプロの方々から協力を得られたのが大きくて、ブログや料理教室でレシピを提供していたプロの方々に「こういうメディアを作ったんですが、協力してもらえませんか?」と、メールを送ったんです。すると、好意的な反応を示してくださる方がたくさんいて、全国を飛び回り、実際にお会いしてコンセプトを伝えると「じゃあ、協力するよ」と言ってくださって、出会った「Nadia Artist」の方々のおかげで、自然とメディアも成長を遂げていきました。

熱意と高い志があれば「人の心は動く」。“自らの足で会いに行く”独自の営業スタイル

レコード会社で経験した汗水垂らす営業スタイルは、現在の会社でも生きたんですね。

とにかく熱意を放ち、高い志を抱いてお願いすれば「人の心は動く」と実感しましたね。ネット上で「こんにちは。私たちのメディアに協力してもらえますか?」と、軽くやり取りするだけでは無理だったと思います。実際に新幹線に乗って、東京から地方へ足を運ぶと「わざわざ来てくださって」と言って心を開いてくださった「Nadia Artist」の方もいましたし、じかに顔を合わせる営業スタイルは今も変わりません。

サイトを拝見するとスタイリッシュな印象ですが、イメージとのギャップがあって。葛城さんの人としての熱さも感じられます。

よく言われます(笑)。求職者の面接でも「おしゃれなベンチャー企業」のイメージで入社を検討される方がいるのですが、「うちはそういう会社じゃないですよ」と正直にお伝えするんです。合わずにすぐ辞めてしまったら、その方の経歴に傷が付きますし「やりきる覚悟があるならいいですが、そうでないのならやめておいた方がいいです」とも言います。人と接する上では「この人とはもう一生会えないかもしれない」と常に思っていて、せっかく会えたのなら「プラスになる何か」を持ち帰ってもらいたいですし、メリットもデメリットも素直に伝えていますね。

企業の最大のミッションは「『家族の幸せ』への貢献」

情熱をかける「Nadia」の運営では、何を軸とされているのでしょうか?

営業力、そして、メディアを支える「Nadia Artist」の方々に対する姿勢ですね。我々は、みなさんに「仕事を与えている」とは考えていなくて、社内では「下請け」という言葉もいっさい禁止で「お仕事をお願いする」と逐一、言い換えるように徹底しています。クライアントから「仕事を取ってくる」とも言いませんし、すべてのステークホルダー(企業活動の利害関係者)にリスペクトを持つ精神を社内風土にしています。

今後、企業としては何をめざしますか?

「Nadia」のユーザーをもっと増やして、いずれは世界でも影響を与えられるほどのメディアへと成長させていきたいです。レシピメディアは数多くありますが、いずれのメディアも競合とは捉えていませんし、レシピ業界全体を盛り上げていくのが大事だと思っています。日々、サービスを磨き続ければより多くの方々にリーチできると信じていますし、近い将来、3000万人、4000万人……と、ユーザー数をさらに拡大していきたいです。

葛城さん個人が描く、未来像も伺いたいです。

世界的なレストランからメニュー開発を依頼される機会も増えてきたので、日本食の魅力を伝えていきたいですね。かつて経験した音楽業界のように、その国ならではの料理も、世界的に通用するコンテンツだと思っているんです。そして、いずれは料理から発展した分野にも事業を広げます。僕らにあるテーマはいわば「食」ですが、企業として抱く最大のミッションは「家族の幸せ」への貢献なんです。僕自身、2人の子を持つ親として人生の豊かさを味わっていますし、「Nadia」を中心に家族の温かさを生み出せる。そんな未来を作れるよう、僕自身も貢献していきます。

取材日:2025年2月13日

Nadia株式会社

  • 代表者名:葛城 嘉紀
  • 設立年月:2012年7月
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:料理家マネジメント事業、インターネットメディア事業、広告・企画制作・PR事業
  • 所在地:〒108-0074 東京都港区高輪2-16-4 STOCKビル 2F・3F
  • URL:https://nadia-corp.co.jp/
  • お問い合わせ先:公式サイト「お問い合わせ」より

この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。

カネコシュウヘイ

カネコシュウヘイ

1983年11月8日生まれ。埼玉県出身。成城大学文芸学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、2010年よりフリーライターに。アイドルを中心としたエンターテインメント系、ビジネス系の分野を軸に、インタビュー記事やレポート記事に注力。モットーは、現場第一主義。趣味はゲーム、食べ歩き。水族館の生き物に癒やされる日も。▲この記事を書いた人にお仕事をお願いしたい場合には、直接クリエイターズステーション編集部にご連絡ください。https://www.creators-station.jp/category/interview/legends

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