
立秋を過ぎたものの、日中の厳しい暑さはまだまだ顕在。こんな日は、ツルっとのどにやさしい麺を食べたいと思う読者も多いのではないだろうか。全国を見渡すとそうめん、そば、冷やしうどんなど、冷たい麺料理はたくさんあるが、日本海に面した山形県庄内地方に他地域にはないご当地麺がある。その名も「麦切り」。県外ではもちろんのこと、県内でも他地域で見かけることがあまりない、知る人ぞ知る麺だ。

「うどん」でも「そうめん」でもない麺
麦切りは、小麦粉を塩水でこねて作られる麺。見た目はうどんのようだが、それより細く、そうめんより太いのが特徴。また、麺の断面が平たいのもポイントだ。庄内地方では、スーパーの麺コーナーで販売されていたり、地域のそば屋で提供されていたりと、夏の食卓には欠かせない存在だ。
「麦切り」の発祥や名前の由来は諸説あり、実ははっきりしていない。小麦粉の生地を包丁で切るから「麦切り」と呼ぶ説や乾麺と生麺を呼び分ける説、また、そば粉で作った麺を「そば切り」と呼ぶのに対し、小麦粉で作った麺だから「麦切り」と呼ぶようになった、という説までさまざまだ。
のどごしの良さとコシの強さがたまらない!
麦切りの魅力は、透き通るようなツルツルののどごし。冷水でキュッと締めてからつゆにつけて食べるのが一般的で、冷水で締めることによりモチモチとした弾力、そして力強いコシが生まれる。薬味にはネギやワサビだけでなく、和がらしを添えるのもこの地域ならではの楽しみ方。ピリッとした辛さがアクセントとなり食欲をそそる。ちなみに、筆者が食べた年越しそばは麦切り・そば・中華麺の合盛りだ。
もちろん庄内地方のそば屋や食堂でゆでたての麦切りを味わうのも美味だが、家庭では旬の食材と合わせてアレンジするのも面白い。最近では、庄内の秋の味覚「庄内柿」の果汁を練り込んだ麺も登場し、見た目も味わいも華やかになってきている。

庄内地方の夏の定番料理「麦切り」。全国的な知名度は高くないローカルフードだが、そののど越しと食感は、一度食べれば忘れられないはずだ。夏の庄内を訪れる機会があれば、ぜひこの地域の風土が育んだ涼味あふれる特別な一杯を味わってみるのも良い。日本海のさわやかな潮風と庄内浜から見える真っ青な空をイメージしながら。