文化に触れる旅へ。宜蘭で出会った泰雅族レストランと踊りの一夜【台湾 宜蘭市】

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宜蘭県が旅人をひきつける理由

台湾北東部の宜蘭(ぎらん)県は、山と海が近く、自然のエネルギーを身近に感じられる土地である。台北からのアクセスも良く、都会の喧騒(けんそう)から少し離れたい旅に向いている。温泉、海岸線、ローカル市場など多様な楽しみ方ができるうえ、近年は地域文化の発信地として注目を集めている。

特に、台湾の少数民族文化を大切にし、その魅力を再発信する動きが強まっており、宜蘭はその代表的な地域の一つである。その象徴として語られるのが、タイヤル族(泰雅族)をはじめとする原住民族の伝統文化だ。

上の写真は、タイヤル族の女性に伝わっていた「紋面(フェイシャルタトゥー)」文化を、イベント用に再現している場面である。かつて女性は、成人や婚姻、そして社会的な技術(織布など)を身につけた証しとして、頬や額に紋面を施していた。現在は一般化していないものの、この地域では文化継承の一環として、イベントや舞台でその図案が描かれることがある。

伝統そのものではなく“現代的な表現”でありながら、文化の記憶を次世代につなぐ尊い取り組みであると感じた。

文化発信地としてのレストラン「喜浪鐵沐原住民料理」

羅東の中心からほど近い場所にある「喜浪鐵沐原住民料理」は、タイヤル族のオーナーが営むレストランである。店名は、オーナーの族名をそのままブランド化したもの。
店の外観から内装まで、トーテム模様や漂流木の装飾が施され、足を踏み入れた瞬間から“部落(集落)文化”に包まれる。

台湾では近年、少数民族文化の復興と発信が国家的にも推進されており、この店は「食」を入り口に文化を伝える拠点となっている。旅行者にとっては、ただ食事をする以上の体験が得られる場所である。

伝統とモダンを組み合わせた料理の魅力

この店の料理は、原住民の伝統食材をベースにしながらも、現代的な感性が盛り込まれている。

  • Yabaの鹹豬肉(塩豚)
    馬告(マガオ)や刺蔥(サイツォン)で漬け込んだ豚肉。泰雅語で“父”を意味する「Yaba」を冠し、家庭の味を昇華させた一品である。
  • 小米豬肉吉拿夫
    酸漿(スァンジアン)の葉で豚肉と小米(ヒエ)を包んだちまき風料理。葉の香りがふわりと広がり、素朴で温かい味わいが魅力である。
  • 泰雅緑咖哩雞肉飯
    刺蔥をベースにした特製グリーンカレー。異国風でありながら、しっかりと“宜蘭の香り”をまとった一皿である。

デザートやドリンクにも馬告を使うなど、味わうほどに文化の奥行きを感じられる。冷凍食品や調味料の販売もあり、旅の記憶を持ち帰ることもできる

店主に誘われ「蘭陽原創館」へ

食事のあと、筆者は店主の誘いを受け、近隣の文化施設「蘭陽原創館」で行われた少数民族のダンス発表会に参加した。どうやら毎年恒例のイベントらしい。

若者たちが民族衣装をまとい、伝統の歌や踊りを披露する姿は圧巻である。表情には誇りと情熱が宿り、文化を未来へつなぐ強い意志が伝わってきた。観客席との距離が近く、手拍子や声援も自然と発生し、参加型のステージとなっていた。

ステージが始まると、泰雅族の若者たちが円を描くように並び、独特のリズムで足を踏みしめた。その動きは華やかなショーというよりも、土地の記憶や暮らしを語る “祈り” のようである。とくに印象的だったのは、腰を低く落として大地を踏む力強いステップだ。農耕文化を背景に持つ民族らしく、大地とのつながりを象徴するような動きが随所に感じられた。

リーダーの掛け声に合わせて輪が広がっていくと、まるで田畑に生命が宿っていく瞬間を目の前で見ているようで、胸の奥にじんわりと温かさが広がった。手を取り合って歌う場面では、声と声が重なり合い、観客席まで振動するような一体感が生まれ、文化の根源に触れたような深い感動を覚えた。

激しさや技巧よりも、「仲間と働き、祈り、生きてきた日々」を静かに、しかし力強く表現する踊り。その素朴さと誇りに満ちた姿に、思わず目を離せなくなった。舞台を見終えたあとも、軽やかな足音と歌声が耳に残り、旅の余韻として心に刻まれたひとときであった。

※写真と動画は筆者が許可をいただいて撮影したもの(2025.08.14)

阿部宣行

阿部宣行

山形にある探究教室の講師。子どもたちが熱中できることを見つけ、大人顔負けで実践できるように日々活動しています。ローカリティに参加してからの趣味は写真撮影。子どもたちの視野を広げるために記事を書き、写真を撮っていきます。

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