
筆者の地元は神奈川県川崎市。鎌倉までは電車でおよそ1時間かかる。決して近いわけではないが、小学生の頃から遠足や友人との遊びで何度も訪れ、感覚としては“地元の遊び場”のように思っている。そんな鎌倉へ、紅葉の季節に久しぶりに足を運んだ。
鎌倉の紅葉は全国的に知られている。観光地としてあまりに有名で、わざわざ取り上げる必要はないのでは——そう思っていた。しかしカメラを趣味にし、大人になった今、久しぶりに歩く鎌倉は、かつて見ていた風景とはまるで違って見えた。
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円覚寺

最初に訪れたのは円覚寺だった。JR北鎌倉駅を出て踏切を渡ると、境内へ続く石段がすぐ眼前に現れる。11月中旬の訪問では、階段の両側が紅葉に染まり、赤や黄色の葉が頭上を覆い、鮮やかなアーチの中を進むような感覚だった。
円覚寺は、臨済宗円覚寺派の大本山で、1282年に執権・北条時宗が創建した寺院である。各寺の格を定める鎌倉五山とよばれる制度の第二位に位置づけられ、禅の学びの中心として発展してきた歴史がある。境内には山門や仏殿をはじめ、多くの建造物が国の重要文化財に指定され、鎌倉時代の面影を今に伝えている。
拝観料を納めて境内に入ると、山門をはじめ国や県に指定された文化財の建物が点在する。鎌倉時代の原風景をそのまま残すような静けさが広がり、建物と紅葉の色が交差して生み出す景色に思わず足を止めた。

帰り際、階段を降りる前に振り返ると、日に照らされた紅葉が門の内側いっぱいに広がっていた。温かな光に包まれたその光景は、まるで天界に続く入り口のようで、記憶に深く刻まれた。すぐ下を電車が走り、日常との距離の近さが、千年の時間と現代をつなぐ“時代の交差点”のように感じられた。

拝観料:高校生以上500円/小・中学生200円
明月院
次に訪れた明月院は、北条時頼ゆかりの寺院で、“あじさい寺”としても広く知られている。境内の奥にある本堂には、満月のように丸く開いた円窓があり、その向こうに広がる庭園の景色は、この寺を象徴する光景だ。通常非公開の庭園だが、ハナショウブの季節と紅葉の時期だけ特別に開放される。
その円窓は、ひとつの“額縁”のように風景を切り取る。季節、天気、時間によって庭の色も光も変わり、同じ場所でもまったく異なる表情を見せる。紅葉の時期の円窓の景色は、とりわけ印象深い。赤や黄に染まった葉が、柔らかな光に照らされ、まるで計算された日本画の一枚がそこに置かれているかのようだった。

子どもの頃、ただ通り過ぎていたこの場所が、大人になってカメラを向けると、侘び寂び(わびさび)の美しさを静かに語りかけてくる。窓が切り取る一瞬の風景が、過去の記憶と現在の自分を重ね合わせ、新しい景色として立ち上がってくる感覚があった。


拝観料:高校生以上500円/小・中学生300円
鶴岡八幡宮
鶴岡八幡宮は、源頼朝が鎌倉に幕府を開いた際に整備を進め、武家政治と鎌倉文化の中心として発展してきた神社である。鎌倉を象徴する存在であり、その歴史的背景と壮麗な社殿から、古都の精神を今に伝える場所として知られている。

筆者にとっても、鶴岡八幡宮は幼い頃からなじみ深い存在だった。初詣や遠足、友人との遊びなど、生活の延長の中にいつもこの神社があった。だが、大人になってカメラを持ち、紅葉の季節に改めて訪れると、その景色はかつてとはまったく違う姿で迫ってきた。
朱色の社殿と、赤や黄色に染まる木々。季節の移ろいがつくる陰影。ファインダー越しに見るその世界は、懐かしさと新しさが同時に胸に広がり、心を静かに揺らした。子どもの頃には気づかなかった光の深さや色の重なりが、大人になったいま、ようやく見えるようになった気がした。


境内の参拝は無料。宝物殿は大人200円/小学生100円。
かつて日常の延長にあった場所が、ふとした瞬間に新しい表情を見せることがある。 光、色、空気、そして自分自身の変化——そのすべてが重なり、景色は“見直すたびに”姿を変える。
この記事を読んでいる方にも、ぜひ思い出してほしい。子どもの頃に何度も訪れた場所が、今行ってみるとまったく違う景色を見せてくれることがある。懐かしい場所に“新しい自分”が出会う瞬間を、この記事がきっかけとなってくれたら嬉しい。




