実家のような安心感に包まれた「尾留川商店」で、手作りの「いつでもランチ」【秋田県由利本荘市】

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さて今回は、秋田県由利本荘市にある「尾留川商店」を取材した。昭和22年に創業したこのお店は元々総菜屋さんだったが、先代の店主が亡くなったことで飲食店と日用品を扱う小売店が一体化したお店として2023年にリニューアルオープンした。店主の尾留川泉さんの人柄もさることながら、名物の「いつでもランチ」はその名が示す通りに営業時間中ならいつでも注文可能である。なぜリニューアルするに至ったのかという経緯を尾留川さんのこれまでの半生とユニークな人生観を交えながら、昭和レトロな街並みが残る商店街で過ごした素敵なひと時を紹介しよう。

(2025年11月11日撮影)

元々はお惣菜屋さんだった

落ち着いた雰囲気の店内はさながら実家に帰ってきたかのような錯覚に陥り、時間を忘れてゆっくりと過ごせる快適な空間となっている。取材当日も筆者が訪れる前に近隣に住むおばあちゃんが訪れており、今でも地域の社交場として愛されている。

店内の様子(2025年11月11日撮影)

尾留川商店は昭和22年に惣菜屋さんとしてオープンし、主に13品目の惣菜を取り扱っていた。当時は先代である尾留川さんの母親がお店を切り盛りしており朝の5時から夜の9時まで営業していた。

▲店主の尾留川泉(びるかわ・いずみ)さん。調理師と栄養士の免許を持っている。(2025年11月11日撮影)

最盛期の売り上げは年間で200万円(当時)だったそう。朝早くから働く農家やサラリーマンにとってなくてはならない存在だった。なお隣には精肉店があり、どちらも昭和の時代から営業している。

先代が亡くなってからは、店はリニューアルし、2023年に飲食・日用品小売店一体型店舗として再スタートを切った。

▲尾留川商店に隣接する精肉店(2025年11月11日撮影)

看板メニューの「いつでもランチ」を食べる。

なぜ「いつでもランチ」と名付けられているのかというと、お客様の好きなタイミングで注文が取れるからである。つまり人によっては午前中にブランチとして食べることができ、家で夕食を作るのが面倒な人はここで夕飯として食べられる、画期的なシステムを尾留川さんは構築した。

今回私はメニューの中からオムライスを選んだ。サイドメニューにはエビの味噌汁とサトイモの煮っ転がし、デザートにはヨーグルトが付属し、さらに食後のドリンクにはカフェオレが付き、値段は1000円ジャストと非常にコストパフォーマンスの良いメニューである(なおドリンクなしの場合は800円になる)。味も高級レストランのような豪華な味ではなく、自分が食べて育ってきた家庭料理の味を思い出すような素朴な印象を受けた。

▲オムライスセットと食後のカフェオレ(2025年11月11日撮影)

「おなじみさん」の要望に応えるお店。

お客様のニーズに応じて、メニューに掲載されていない料理も提供することが可能であり、中でもエビチリは本人の自信作とのこと。値段は時価となっており、食べたいものがあれば事前に電話予約する必要がある。

また量の調整は可能で、少なくすれば値引きとなり、逆に増やせば少し値上げする。

なお営業時間は朝9時から夕方5時となっているが、イベントや会議等があればそれに応じて営業時間を夜まで延長することが可能。なぜこれだけ柔軟な対応ができるかというとお店自体が商工会の会議場になっているためであり、料理に関しては一度ここを訪れたお客さんに何度も来て欲しいという尾留川さんの思いやりである。

▲「いつでもランチ」のメニュー(2025年11月11日撮影)

また近年のSDGsの取り組みにも積極的で、なるべく食品ロスを出さないように取り組んでいる。これは以前惣菜屋さんをやっていた頃に食品ロスが非常に多かったらしく、少しでも無駄を無くそうという配慮から来ている。実際リニューアルしてからはロスがなくなったそうだ。

(2025年11月11日撮影)

失敗してもいいからチャレンジする

店主の尾留川さんは元々音楽が好きで高校時代はブラスバンド部に所属しており、将来は小学校の音楽教師になる夢を持っていた。教師になるために秋田大学を受験するも、当時はピアノの実技試験が含まれておりブラスバンド部の顧問の先生に相談を持ちかけた。しかし顧問の先生からは「サキソフォンで音楽の授業をしろ。君はこの学校に入った時点で音楽の道を捨てたんだ」と衝撃的な一言を言われた。その一言がきっかけで尾留川さんはブラスバンド部を辞め、泣く泣く音楽教師の道を諦めた。

その後は神奈川の短期大学に入ると調理師と栄養士の免許を取り、秋田へ戻ってきた。若い頃は失敗するのが嫌だったと述懐しており、とにかくなんでも完璧にこなそうと考えていた。市役所の職員を務めていた頃は給料のために働いており、自分の中の「何か」がわからなくなった時期もあった。

やがて先代の店主が亡くなり惣菜屋さんを畳もうとも考えていたが、残りの人生を「楽しく」生きようと考え始めた。尾留川さんは自分が手放したくないものの一つとして「料理」を挙げた。料理なら誰にも負けない自信があるし、それでみんなを喜ばせられるなら思い切って惣菜屋をリニューアルして料理屋さんをやろうと思い立った。リニューアル当初は周囲の反対もあったが、「自分の好きなように生きる」と吹っ切れたそうだ。

▲地元前郷で開催された食の祭典「めんごのんめもの」コンクールにて優秀賞を受賞したことがある。秋田弁で「めんごの」は「かわいい」、「んめもの」は「おいしいもの」という意味である(2025年11月11日撮影)

細く長くお店を続けていきたい

今では失敗を恐れずにどんなことも気軽にやってみようという生き方をしている尾留川さんだが、メニューに載っていない料理を提供したり、必要なら会議場として夜も営業するという姿勢からは「お客様に喜んでもらえることを自分なりにやってみる」という心意気を感じた。最近はどのレストランでもタブレットによる注文やロボットによる配膳が主流となり、効率的かつ便利ではあるもののどこか人間関係が希薄になってしまった。

そんな尾留川商店は我々現代人が忘れつつある「義理人情」を思い出させてくれる。

ゆったりとした雰囲気の店内と尾留川さんのおおらかな人柄が、訪れる者を日々の忙しさから自由にし、時間を忘れてゆっくりとランチを食べながら過ごせる素敵なお店である。

秋田県由利本荘市を訪れた際は、足を運んでみてはいかがだろうか?

▲看板猫の「モモ」は尾留川さんの大切な家族である(2025年11月11日撮影)
▲最寄り駅の前郷駅(2025年11月16日撮影)

情報

尾留川商店
住所:秋田県由利本荘市前郷字前郷29-1
電話番号:0184-53-3032
営業時間:9:00〜17:00(役員会や何らかのイベントがあった際は、要相談&要予約)
定休日:不定休
駐車場:5台

亀田健太

亀田健太

1995年生まれ。生まれも育ちも秋田育ちで、大学時代に観光学科に所属してました。ローカリティ!の一員として秋田の魅力を発信していきます。

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