貧困地区からフォトスポットへ。『色で村を変えた』大学生の革命から10年【インドネシア・マラン】

3 min 14 views

インドネシア東ジャワ州マランにあるKampung Warna Warni(カンプン ワルナ ワルニ)は、旅行者が頻繁に訪れるフォトスポットとして知られている。川沿いの斜面に広がる家々が、赤・青・黄・緑と鮮やかな色で塗られ、空から見下ろすとまるで絵の具箱をひっくり返したような光景が広がる。しかし、この村が最初から観光地だったわけではない。そこには、若者の発想と地域の覚悟が交差した「再生の物語」がある。

かつては“見過ごされてきた場所”だった

Kampung Warna Warniは、もともとマラン市内でも貧困層が多く暮らすエリアであった。住宅は密集し、インフラも十分とは言えず、川沿いの立地から洪水や衛生面の課題も抱えていた。衛生状態や生活環境が劣悪で、政府による住民移転の話まで出るほどだったという。

観光客が足を運ぶ場所ではなく、多くの人にとっては「通り過ぎるだけの場所」だったのである。

村を変えたのは、大学生の一つの提案

転機となったのは、地元大学に通う学生たちの提案であった。

マランはインドネシアでも有数の学生都市として知られ、多くの大学が集まる活気ある地域である。この地で2016年、Universitas Muhammadiyah Malang(UMM)の8人のコミュニケーション学科の学生たちが、地域社会の活性化というテーマでプロジェクトを立ち上げたのである。 初めは大学の実習・課題として始めた活動だったが、彼らは視点を「色」に向けた。 

彼らが着想を得たのは、異国の都市・ブラジルの リオデジャネイロに見られるファヴェーラペインティングなどの色彩あふれる光景だったという。色を通じて地域の印象を変えられないか―莫大(ばくだい)な予算や大規模な再開発ではなく、ペンキと人の手による変化。シンプルだが大胆な発想である。

このアイデアは行政や企業の支援を受け、翌年から地域住民の協力のもとで徐々に実現していく。家々の壁が少しずつ塗り替えられ、村全体が一つのキャンバスのように変化していった。その過程で、住民自身が「自分たちの村をどう見せたいか」を考えるようになったことも、大きな意味を持っていた。

“映える村”に、今も人は暮らしている

完成後、Kampung Warna Warniは一気に注目を集め、写真映えする観光地として知られるようになった。しかし重要なのは、この村がテーマパークではなく、今も人々の生活の場であるという点だ。洗濯物が干され、子どもたちが路地を走り回り、祈りの時間には静けさが訪れる。カラフルな壁の向こう側には、日常が確かに存在している。

観光客として訪れるとき、その色彩だけに目を奪われがちだが、そこに暮らす人々の生活リズムを尊重する姿勢が求められる。写真を撮るという行為も、誰かの暮らしの一部を切り取っているのだという意識が、この村では特に重要になる。

色がもたらしたのは、景観以上の変化

村が注目を浴びたことで、経済的な変化も生まれた。入場料や土産物の販売、ガイドなど、住民が関われる仕事が少しずつ増えていった。さらに、「自分たちの村は誇れる場所だ」という意識が共有されるようになったことは、数字では測れない大きな成果である。

かつては外から貼られていた「貧しい地区」というレッテルが、「色で生まれ変わった村」という新しい物語に塗り替えられた。その変化は、ペンキの色以上に、住民の表情を明るくした。

色鮮やかな家々は、村を訪れる観光客の写真や動画となって SNS を通じて世界中に発信されている。この視覚的魅力は、さらなる来訪者を呼び込み、住民が土産物や屋台・カフェを開くなど、地域経済に新しい循環をもたらしている。

静かな革命から10年

Kampung Warna Warniの変化は、劇的な破壊や置き換えによるものではない。若者の発案、住民の参加、行政の後押しが重なり合い、時間をかけて進んだ静かな革命である。だからこそ、この村の物語は多くの人の共感を呼ぶ。

旅人としてこの場所を訪れるなら、色彩の美しさだけでなく、「なぜこの村がこうなったのか」という背景にも目を向けたい。そこには、若者の想像力と、地域が変わろうとした意志が、確かに刻まれている。

学生の発想から生まれたこのプロジェクトは、今年で10年目を迎える。都市の活力と地域創生が結びつく象徴的な事例なだけに、国内外からの注目度は高い。後世に語り継がれるプロジェクトになるかどうか、地域一丸となった挑戦はこれからも続く。

村の入り口にあるショップの店主が、展望台まで案内してくれました。入り口から徒歩3分

※写真・動画は全て筆者が撮影(2025.12.24)

阿部宣行

阿部宣行

インドネシアはジャカルタ在住。長年お世話になった東北や旅して回った国々の記事を執筆しています。
ローカリティ受賞歴:
ハツレポグランプリ2025 副編集長・丸山賞
写真受賞歴:
東京カメラ部×FUJIFILM10選 - Colors Like Film -フォトコンテスト2025
Fun,Fan,Find青葉 Fコン2025
仙台朝市銀座UNフォトコン2025
やっと連仙台 阿波踊りフォトコン2024
ウズベキスタンフォトコン2024

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です