
関東地方を中心に中華料理チェーン「日高屋」を展開し、中華・ラーメン業界で店舗数3位の地位を築く株式会社ハイデイ日高 。創業者の神田正代表取締役会長は、85歳となる現在も毎日自ら出店候補地に足を運び、現場の最前線に立ち続けています。
神田会長は、友人に誘われてラーメン屋で働き始めますが、「現金商材」の面白さに気付き、一代で東証プライム上場企業を築き上げていました。「夢は見るものではなく、語るもの」と語る神田会長に、経営における理念やビジョンの重要性をお聞きしました。
目次
「1杯380円のラーメンを売って、中卒から上場企業をつくるなんて、こんな面白いことありますか」
「私はね、中卒なんですよ」
インタビュー冒頭、神田会長はにやりと笑いながらこう言いました。
「でも、中卒だからここまでこれたよね。大卒だったら、ラーメン屋なんてやろうと思わないもんね。人生分からないものだね」
埼玉県日高町(現・日高市)の貧しい家に生まれた神田会長は、中学卒業後、和光市(当時は大和町)の自動車工場でバイクを作る仕事の夜勤をしていたと言います。
「でも、どうも仕事が合わなくてね、1年ほどで辞めてしまったんだ。何をしてもつまらないと思って、パチンコで生計を立てるみたいなこともしていたよ」
中学卒業後、本田技研工業株式会社(ホンダ)の工場に就職し、和光市(当時の大和町)の工場で二輪車を作る夜勤などに従事しました 。しかし、どうしても仕事が合わず、わずか1年ほどで退職してしまいます。「何をやってもつまらない」と感じ、一時はパチンコで生計を立てるような生活を送っていたといいます。
そんな時、友人に誘われて始めたのがラーメン屋でした。「最初からラーメンが好きで始めたわけではない。少しやってみようと思っただけ」と会長は振り返ります。
しかし、そこで事業の面白さに気づきます。
「毎日お金が入ってくるんですよ。出前に行ってお金をもらってレジに入れる。朝バイクで肉やキャベツを仕入れてきて、夜には現金が貯まっているんです。キャッシュフローが非常にいいんですよね。現金商売の面白さに気付きました。製造業だと手形決済などで何カ月も待たされますが、ラーメン屋は回りがいい。これなら面白そうだと思いました」
「1杯380円のラーメンを売って、中卒から上場企業をつくるなんて、こんな面白いことありますか」と、神田会長は笑いながら語ります。

「いずれ屋台は消えるなと思った」「時代錯誤」と笑われた駅前出店
ハイデイ日高が大きく成長した最初のターニングポイントは、独自の着眼点でした。
「成長した要因の1つはね、かっこいいことを言うと『時代の変化を先取りした』ということだね。当時、大宮や所沢の駅前を降りると必ず屋台があったんだけど、あれは道路を占有しているから道路交通法違反なんだよね。行政が許さないし、衛生的にも良くない。冷蔵庫もないし。いずれ屋台は消えるなと思ったんです」
「屋台がなくなったら、あのお客さんたちはどこに行くんだろう?と考えました。そこで、屋台のお客さんを徹底して取り込もうと、駅前の小さな賃貸店舗を探してどんどん出店していきました。当時は車社会の到来だと言われていたので、お金を借りに行っても『駅前出店なんて時代錯誤も甚だしい』と笑われたものです。当時人気のファミレスは、みんな郊外の道路沿いに出ていましたから。でも私は、屋台が消えた後のお客さんの受け皿になるべきだと思いました」
個人経営では困難だった「24時間営業」を、企業の事業として実現することで、屋台に代わる圧倒的な支持を集めていきました。

「残ったお金を他の生活費に使ってほしい」低価格に込めた大衆への思い
日高屋は徹底したローコスト戦略をとっています。その理由を、神田会長に聞きました。
「日高屋があって良かったと言ってもらえるのが生きがいです。実質賃金が上がらない中で、大衆が安く食事を取り、残ったお金を携帯電話など他の生活費に使ってほしいんですよね」と神田会長は優しい眼差しで語ります。
「利益は十分に出ているから、本当はもっと値段を下げたいくらい」
原材料費が高騰しても安易に値上げせず、タッチパネル式の注文端末や配膳ロボットを導入して経費を削減し、利益を確保しています。
「ローコストにこだわる理由は、競争力みたいなのがありますよね。それと、やはり実質賃金が伸びてないしね。どこに行ったって、今、もう1,000円以下では食べられないもんね。利益を出すのは難しいけど、それでも外食産業の平均よりも5%高い給料を出せるような会社を作ろうと挑戦をしています」

桃太郎と企業の共通点。経営者のために働く従業員はいない
理念の重要さについて尋ねると、会長は桃太郎の例えを話してくれました。
「よく社員にも言うんだけどね、昔、鬼ヶ島に鬼がいたわけですよね。年貢を取り立てて島民をいじめたわけですよ。それを桃太郎さんが、鬼をやっつけたわけですけどね。あれ、鬼をやっつけたあと、今度は我々が鬼になって、年貢を取り立てようと誘ったら、サルやキジは参加しないと思いますよ。 あれは鬼をやっつけて島民を豊かにしようって言ったから、キジとかサルとか、みんなが応援して鬼をやっつけたわけですよね。企業もそんなもんですよ。うんと儲けてね、国民を騙して儲けて、自分たちの生活だけ良くしようとするんなら、人は集まらない」

「『夢は見るものではなく、語るもの』語ったことは全部その通りになってきた」
理念もビジョンも「語ることが重要だ」と会長は話します。
創業期を支えた実の弟と義理の弟が辞めそうなときには「大宮から赤羽まで、駅前に全部うちの店を出して赤ちょうちんをつないでみせる」と豪語し、辞めることを思いとどまらせたと言います。
成長の一番の要因は、店が3店舗しかないときに税理士さんの勧めで始めた『経営計画発表会』だったと神田会長はいいます。
「『大きな夢を語りたい』と言ったら『経営計画の発表会をしよう』と提案されました。最初はよくわからず、従業員、アルバイト、取引先の八百屋や肉屋さん、そして銀行の担当者を呼びました。店を全部休んで集まってもらいました。 銀行の担当者も、第一回は、なんか自転車で若いお兄ちゃんが来てましたね。そこで私は、『この会社は将来こうなる』『何年後には週休2日制にする』と夢を語りました。当時のラーメン屋でそんなことをやっているところはありませんでしたね」
「大勢の前で大きなことを言うから、ホラ吹きにならないように自分にプレッシャーがかかるんです。でも、語ってよかった。『夢は寝て見るものではなく、語るもの』ですね。語ったことは全部その通りになってきました。これが当社が伸びた最大の要因であり、成長のエンジンでした」
「一番最初は税理士の先生が書いた資料を棒読みでしたが、そのうちに分かってきて、コロナの時は2回か3回休んだけど、ずっと今まで続けてきました」
「経営計画発表会を続けてすごく経ってから、俺は将来上場したいと言ったら、それができちゃった。それで聞いている人には『いい加減だな』って言われたけどね。 言ったことは全部その通りになった。 言うって大事ですね」

「事業は根本的に人間教育」。素直さと感謝の気持ちを大切に
店舗を拡大する上で最大の壁となったのは「人材」でした。
「一番のピンチってのはやっぱり人ですよね。イチからやっても人が集まらない。 だって、当時は社会保険もないし、働く人はいないんですよ。 病気になれば自己責任だし、ボーナスだってないし、休みだって月2回しかないんだから」
「当時は『どうしたら24時間営業できるだろうか』ということばかり考えていました」
そんな状況の中で、ハイデイ日高が事業を通じて大切にしているのが、従業員の「人間形成」です。
「技術はやればすぐに身につくけど、自己中心的にならない人材を育てたい」と会長は語ります。
「うちは学歴のない若い子たちを多く雇ってたから、技術だけでなく、自己中心的にならないような人格形成を重視してきました。『食を通じた人間教育』に軸足を置いてやってきました」
「もともとみんな中卒とかそういう人と大きくなった会社なので、儲けるのは二の次だって言ったら、爆発して成長しちゃいました」
会長自身は「素直さと感謝の気持ち」を何よりも重んじています。
「人間は素直でなければ、誰もアドバイスをしてくれなくなる。85歳になった今でも、周りが注意してくれるのは、自分が素直に聞くからだ」と、謙虚な姿勢を忘れません。
「年に一度『感謝の集い』というイベントを開催して、社員がお互いに感謝を確認し合っています」
「みんなで作った会社だから当たり前」。会社の成長を従業員と分かち合う
神田会長の経営哲学を最も象徴するのが、従業員への株式分配です。会長は創業者として、2023年4月に自身の保有する株式約20万株(約4.3億円相当)を従業員約1,100人に無償で贈与(譲渡)すると発表しました。創業50周年の感謝と従業員への還元として行われたそうです。
「今から25〜26年前の1999年にジャスダックに上場してから、時価総額が上昇して含み益がかなりできちゃったんだよね。 それを創業者の私が持っていたので、それを分けてあげたんです。 当たり前ですよね。時価総額を上げたということは、社員が頑張ったんだから。 それをみんなに返しました」
「当然のことだと思うんだけど、でも、みんなやらないんだよね。変な話、生意気な言い方になっちゃうけど、85歳なんてね、お金持ってたって使えないんですよ。 欲しいものは何もないんです。車は免許返しちゃったしね。着るものもいくつか持ってるしね。家もちっちゃいのあるしね。お金もらったって、使わないの」
「それと、(株をみんなに持ってもらうことで)、会社の業績と株価が上がると、みんなで経営しているような感じになるのではないですかね。給料で返してるっていう人もいるけど、それは労働の対価であって、企業の成長の還元ではないんだよね」
「会社が伸びていくのを見ること自体が楽しいんだ」と語る無私の精神が、従業員との強い結束を生んでいます 。

関東から全国へ、売上1000億円を目指す次なる夢
現在、業界3位の日高屋ですが、神田会長の夢はまだ尽きません。「今の展開は関東エリアだけ。これから仙台や盛岡、名古屋、大阪、九州、さらには海外へも行ける。この会社にはまだまだ伸びしろがある」と目を輝かせます。
目指すのは、700店舗体制で売上1000億円を達成するという長期ビジョンです。そして会長は、地元・埼玉の経営者たちにも熱いエールを送ります。「埼玉は東京に近くてマーケットに恵まれているのに、上場する外食企業が少なすぎる。もっと多くの企業が上場して、みんなで業界を盛り上げてほしい」と語ります。
未来について、85歳の創業者はこう語る。
「私はもうすぐ引退だけど、自分が引退して老人ホームに入った時、新しい社長が『1000億円いきましたよ』と報告に来てくれるのを夢見ている」
「まあでも、キヤノンの御手洗会長は91歳で現役だから、私もまだできるかな」

最も印象に残った言葉:「夢は寝て見るものではなく、語るもの」
聞き手・構成:ローカリティ!編集長 中野宏一 書き手:ローカリティ!編集部 猪股豪
企業情報
- 会社名: 株式会社ハイデイ日高
- 代表者:代表取締役 会長(執行役員会長) 神田 正
- 事業展開エリア: 埼玉県、東京都、千葉県、神奈川県などの関東エリアを中心に出店
- 公式HP: https://hidakaya.hiday.co.jp/
- 経営理念
- [使命]私たちは、美味しい料理を真心込めて提供します。
- [挑戦]私たちは、夢に向かって挑戦し、進化し続けます。
- [感謝]私たちは、常に感謝の心を持ち、人間形成に努めます。






