ローカリティ!時代の開拓者たち

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熱と誠が宿れば、人は動く。ポンプを起点にインフラを支える「世界のエクセレントカンパニー」へ【東京都大田区】

5 min
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  • ゐのくち式渦巻きポンプ

株式会社荏原製作所は、1912年の創業以来、ポンプを起点に、送風機、冷凍機、エネルギー関連機器、環境プラント、半導体製造装置など、社会の基盤を支える産業機械メーカーです。普段、私たちの目に直接触れる機会は多くありませんが、ビルやマンションの給水、トンネルの換気、洪水を防ぐ排水、半導体工場、エネルギー関連施設など、暮らしと産業の見えないところで同社の製品は動き続けています。

2025年3月に執行役に就任した立山美和(たちやま・みわ)さんは、サプライチェーン戦略統括部長として、調達や物流、ものづくりを横断し、グループ全体の経営基盤を整える役割を担っています。

災害や地政学リスク、労働力人口の減少などにより、必要な部品や材料を安定して確保することは、以前より難しくなっています。 事業が多岐にわたる荏原製作所において、部門ごとに最適を考えるだけではなく、会社全体で製品を世界へ届け続ける「全体最適」の視点が求められています。立山さんに、これまでのキャリアと、同社が次の100年に向けて、社会に欠かせない技術を世界へ届け続けるための挑戦についてお話を伺いました。

株式会社荏原製作所 執行役 サプライチェーン戦略統括部長の立山美和さん

国産ポンプの実用化から、社会に必要な技術へ

荏原製作所は1912年に創業しました。創業者の畠山一清さんが、東京大学の井口在屋博士が発明したゐのくち式渦巻きポンプを実用化したことから始まったといいます。荏原製作所は、ポンプの技術を社会で使える製品にしていくことを出発点に歩み始めまし た。

その後、ポンプで培った流体技術や回転機械技術を応用し、送風機、冷凍機、エネルギー関連機器、廃棄物処理施設、半導体製造装置などへ事業を広げてきました。

身近なところにも、荏原の技術はあります。ビルやマンションの給水ポンプ、トンネルの送風機、洪水を防ぐ排水機場のポンプ、国立競技場の空調を支える冷凍機などです。シンガポールのマーライオンの噴水システムや、ラスベガスへの取水ポンプにも同社の製品が関わっているといいます。

水を送る、空気を動かす、熱を制御する。普段は意識されにくい場所で、社会を動かすための技術が使われています。荏原製作所の歴史は、国産ポンプの実用化から始まり、創意工夫を重ねながら、その時代に必要とされる技術を社会へ届けてきた歴史でもあります。

ゐのくち式渦巻ポンプの前に立つ創業者畠山一清さん:株式会社荏原製作所提供写真
創業時の写真:株式会社荏原製作所提供写真

「強靭で合理的なサプライチェーン」で、社会を支える製品をつくり続ける

荏原製作所の製品は、社会や産業を支える現場で使われるポンプ、冷凍機、半導体製造装置、発電所や石油・ガス関連施設で使われる機器など多岐にわたります。

こうした製品をつくり続けるには、必要な部品や材料を安定して確保し、工場で製品をつくり、顧客へ届けるまでの流れを止めないことが欠かせません。この、部品や材料を手配し、工場でつくり、顧客へ届けるまでの流れを、サプライチェーンと呼びます。

しかし近年は、災害の激甚化や戦争、地政学リスク、労働力人口の減少などにより、これまで調達できていた部品や材料が、ある日突然手に入らなくなる可能性も高まっています。

立山さんが率いるサプライチェーン戦略統括部は、2026年から新たな形で動き始めた部門です。その歩みは、2019年に開始した「グローバル調達」に遡ります。2020年には業務革新統括部の配下にグローバル調達・SCM戦略部が発足し、全社的な調達の最適化を進めてきました。現在は、その知見と実績を土台に、調達や物流、ものづくりを横断し、製品を顧客へ届ける流れを止めないための役割を担っています。

立山さんは、サプライチェーン戦略統括部の役割を「社会的責任を果たしつつ強靭(きょうじん)で合理的なサプライチェーンをつくること」だと説明します。

そのために必要なのが全体最適の視点です。部品や材料の供給を途切れさせない強靭さをつくり、部門ごとではなく全社で見た時に、合理性のあるよりよい調達や物流の形をつくること。そして部品や材料を提供する取引先と公平公正な関係を築き、コンプライアンスや環境への責任を果たすことです。

製品に必要な部品や材料の流れを整えることは、社会に必要な製品やサービスを届け続けるために必要な経営基盤になっているのです。

何万人もの力で製品を送り出す「オーケストラの指揮者」のような仕事

立山さんは、最初から調達や物流を専門にしてきたわけではありません。キャリアの出発点にあったのは、顧客の要望を受け止め、社内外の力をつなぎながら、大型の製品を現場へ届ける営業の仕事でした。大学卒業後、イギリスの商社の日本支社で、世界の発電所や石油・ガス関連施設などに向けて、日本の産業メーカーの製品納入を支援しました。2007年に荏原製作所へ入社してからも、エネルギー市場の顧客に対して製品を届ける営業に携わりました。

「1台で数億円から数十億円規模になる製品もあります。顧客と話し、社内では開発、技術計画、生産計画、調達、製造、物流、アフターサービスの担当者と調整する。その役割はオーケストラの指揮者のようなものに近かったですね」

立山さんは、顧客の要望を受け止め、社内外の専門家の動きをそろえ、納期や品質を見ながら、何万人という延べ人数が関わる仕事を一つの製品へまとめ上げ、全体を見ながら動かす役割が、「指揮者に近かった」と振り返ります。

製品を納めることは、単に物を売ることではありません。多くの人が関わり、何年もかけてつくり上げたものを、最後に顧客の現場へ送り出し、使い続けていただく支援をする。その喜びを、関わった人たちと分かち合える仕事でもあります。

営業としての経験は、サプライチェーン戦略統括部として全社を横断する部門を率いるうえでも生きています。「全体最適」は、誰か一人や一部門の判断でできるものではなく、事業それぞれの専門性をつなぎ、どこに課題があるかを見て、会社全体で動かしていく必要があるからです。

「熱と誠」が宿れば、人は動く

荏原製作所の強みを聞くと、立山さんは「熱と誠」と答えます。

同社の「創業の精神」として掲げられてきた言葉です。与えられた仕事をただこなすのではなく、熱意をもって創意工夫し、誠心誠意やり遂げる。社会や顧客の期待に対して、技術と人の力で応えていく。その姿勢が、荏原製作所のものづくりを支えてきました。

時代が変わり、AIや自動化が進んでも、仕事の土台には人がいます。顧客のニーズだけでなく、まだ言葉になっていない課題を見つけるには、人と話し、信頼関係を築く力が必要になります。

一方で、課題もあります。立山さんは、荏原には真面目な人が多いと話します。言われたことを誠実にやり切る力がある。だからこそ、もう一歩先へ進むには、「なぜこれをやるのか」を自分ごととして捉え、ワクワクしながら取り組むことが必要だといいます。

立山さんは、AIが市場データを整理し、プレゼン資料をつくれる時代になっても、現場の人と本当に話したのか、人の気持ちを動かすパッションがあるのかは、すぐに伝わるといいます。

「きれいに整った資料でも、熱と誠が宿っていなければ、人は動きません。逆に、本当にやりたい思いがある人は、指摘を受けても何度でも考え直し、持ってきます」

立山さんは、そうした情熱のある挑戦こそ、会社の中で応援されるべきものだと見ています。

荏原製作所が世界に製品やサービスを届け続けるには、調達や物流、その他のバックオフィスの仕事もまた、社会を支える仕事として自分ごと化される必要があります。真面目に誠実にやり切る力に、ワクワクする熱をどう宿すか。それが、次の挑戦を生む土台になります。

世界のどこでも信頼され「エクセレント」と言われる会社であるために

荏原製作所は、2035年のありたい姿として「グローバルエクセレントカンパニーとして持続可能な社会の実現に欠かせない企業」を掲げています。それは、世界のどの地域でも、顧客や社会から必要とされる存在であり続けるということです。

立山さんは、判断に迷った時に「それはグローバルエクセレントカンパニーになる選択なのか」を考えるといいます。どちらを選ぶか、何をやめるか、どこに力を注ぐか。その基準として、世界中から「欠かせない」と言われる会社に近づく選択かどうかを問うのです。 

そのためにサプライチェーン戦略統括部が担うのは、経営基盤の土台づくりです。

調達コストを下げるだけでは、価値は高まりません。顧客が求める機能を損なわず、必要な品質を守り、供給を途切れさせず、社会的責任を果たしながら、全体としての価値を高める。立山さんの部門では、「V=F/C(Value=Function/Cost)」、つまり提供価値は機能をコストで割ったものだという考え方を基準に、顧客が求める機能を損なわず、必要な品質を守り、社会的責任を果たしながら、全体としての価値を高める、ExValuEという活動を全社へ展開しています。

さらに、部門を越えて技術や顧客接点をつなぐことも重要です。

精密・電子事業の顧客に、建築・産業分野の冷凍機システムを提案するなど、ある部門の顧客接点に、別の部門の技術を掛け合わせる。社内にある技術や知見を横断できれば、顧客への提供価値も広がります。

見えないところで社会を支える会社だからこそ、社内の見えないつながりが重要になります。

ポンプから始まった荏原製作所は、いま世界のインフラや産業を支える企業になりました。部門を越えて人と技術をつなぎ、全体最適の視点で必要な製品を世界へ届け続ける。その仕事に「熱と誠」を宿し続けることが、「グローバルエクセレントカンパニー」と言われる会社への道を開いていきます。

聞き手、丸山夏名美・木場晏門 執筆:木場晏門
提供写真以外の写真は2026年5月26日丸山夏名美撮影

最も印象に残った言葉:
「強みはやっぱり、熱と誠ですかね」
「指摘を受けても何度でも考え直して意見を持ってくる人には、情熱がある」

会社概要

会社名:株式会社荏原製作所
取材対象者:執行役 サプライチェーン戦略統括部長 立山美和さん
創業:1912年
事業内容:ポンプ、送風機、冷凍機、エネルギー関連機器、環境プラント、半導体製造装置など
所在地:東京都大田区羽田旭町11-1
URL:https://www.ebara.com/jp-ja/

木場晏門

木場晏門

神奈川県鎌倉市生まれ藤沢市育ち、香川県三豊市在住。コロナ禍に2年間アドレスホッピングした後、四国瀬戸内へ移住。webマーケティングを本業とする傍らで、トレーニングジムのオープン準備中。

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