
1980年、福岡の一軒のパスタレストランから始まった株式会社ピエトロ。現在は、レストランの運営をはじめ、ドレッシングやパスタソース、冷凍食品、スープなどの食品の製造・販売までを幅広く手がけています。特にお客さまの要望に応えて商品化したドレッシングは、全国へ広がり、会社の事業を支える商品になりました。2017年に社長に就任した高橋泰行(たかはし・やすゆき)さんが受け継いだのは、創業者が描いた夢だけではありません。目の前のお客さまに向き合い、料理を届けるという原点です。会社が大きくなった今も、その原点を「大きな厨房」で守り、社員一人ひとりがお客さまに向き合う組織づくりを進めています。
「家族が野菜を食べてくれる」。お客さまの声から商品化し、ヒット
ピエトロは1980年、パスタレストランとして創業しました。創業者の村田邦彦さんは、注文を受けてからパスタをゆでることにこだわり、料理ができるまでの時間に食べてもらうものとしてサラダを提供していました。そのサラダに使っていたのが、九州の甘口しょうゆをベースにしたドレッシングです。
酸味のある味が苦手だった村田さん自身が考えたドレッシングでしたが、お客さまから「野菜嫌いの家族がサラダを食べてくれるから、ドレッシングをわけてほしい」といった声が寄せられました。最初はワインの空き瓶などに詰めて渡していたものが、やがて多くの人に愛される商品へと成長していきます。

創業者の急逝、突然の社長就任。“お客さまを見る”姿勢を受け継ぎ、組織転換へ
高橋さんが創業者の村田さんに出会ったのは、前職時代です。村田さんが語ったのは、“ドレッシングをTABASCO®のように世界中で親しまれる存在にしたい”という夢でした。
「なんてわくわくする夢を持っている人なんだろう」
その後ピエトロに入社し、高橋さんは約10年間、村田さんの秘書として働きました。通信販売、営業、製造などの仕事の責任者も経験。2017年の代表取締役社長への就任は、村田さんの急逝による突然のものでした。高橋さん自身も、当初は「現実味を感じなかった」と振り返ります。
何をすれば社長なのか。会社は何のためにあるのか。高橋さんは就任後、書籍を読み、人に話を聞きながら、自分なりの答えを探しました。同時に、レストランや工場などの現場を回り、社員と話す時間をつくりました。
その中で高橋さんが考えたのが、「蒸気機関車から新幹線へ」という組織の転換です。
蒸気機関車は先頭にいる機関車が車両を引っ張ります。それに対して新幹線は、それぞれの車両がモーターを持ち、全体で力を合わせて走ります。
「社長の方を向いて仕事をしていたのを、回れ右をして、お客さまの方を見てもらう」
創業者の村田さんは、常に目の前のお客さまを見ていました。お客さまの声に応えてドレッシングの販売を始めたのも、その姿勢があったからです。高橋さんが目指したのは、社員一人ひとりが自分の意見を持ち、お客さまに向き合って判断できる組織でした。
こうした組織の変化には時間がかかりました。高橋さんは現場を回り、社員との対話を重ねながら、創業者が大切にしていた「お客さまを見る」という姿勢を、社員一人ひとりが担える形へと変えていきました。


組織の形を変える一方で、高橋さんが守ろうとしているのが、レストランから始まったピエトロの「料理」の価値です。
現在、ピエトロの売上はドレッシングが約40%、レストランが約35%、レトルトパスタソースや冷凍食品やスープなどが約25%を占めます。それでも高橋さんは、レストランが会社のベースだと考えています。
レストランで料理をつくることから始まったからこそ、商品をつくる工場も単なる生産設備ではありません。
「工場は大きな厨房。食品を製造しているのではなく、料理をしているという想いがあります」

ただ、そうした価値は商品を手に取るだけでは伝わりにくい。
そこで計画しているのが、2027年春に福岡県古賀市でのオープンを予定する「PIETRO FACTORY PARK」です。人が集い、つながる場所を目指して、レストランや工場見学コースをつくり、そこで商品の製造工程を実際に見てもらいたいと考えています。
「“こんなに想いを込めて丁寧につくっているんだ”ということを見てもらって、もっと応援してもらえるようにしたい」
大きくなった今も、料理をつくり、お客さまに届ける。その原点を体験してもらう場所として、PIETRO FACTORY PARKを位置づけています。
商品は子どもたち。創業者から受け取ったものを次の世代へ
高橋さんは、ピエトロの未来を一つの商品や事業だけに定めているわけではありません。
「どの商品もみんな、かわいい子どもたち」と高橋さん。
レストラン、ドレッシング、冷凍食品、スープ。パスタソースも大事な柱の1つと考えております。今ある事業を広げながら、新しい商品や事業の「種」もまいていきます。
人口減少によってお客さまや働き手の数が変わり、社会もデフレからインフレへと変化しています。そうした変化に対応しながら、高橋さんが目指すのは、急激な成長ではなく、毎年着実に成長し続ける「年輪経営」です。
「木の年輪が増えていくように、毎年着実に成長し続けるような会社の発展ができたらいい」
その根底にあるのが「感謝」です。お客さま、社員、社会から受け取っているものに感謝し、それを「恩返し」として次へつないでいきます。
創業者から受け取ったのは、ピエトロのおいしさを世界へ広げるという夢だけではありません。目の前のお客さまに向き合い、その声に応えて料理を届けるという姿勢もまた、受け継いできました。
会社の規模が変わっても、事業が広がっても、料理をつくる原点は変えない。
「大きな厨房」から料理を届け続けることが、ピエトロのこれからにつながっています。

写真1、3枚目取材時に筆者が撮影、それ以外はご提供いただいたもの
最も印象に残った言葉
「社長の方を向いて仕事をしていたのを、回れ右をして、お客さまの方を見てもらう」
「工場は大きな厨房。食品を製造しているのではなく、料理をしているという想いがあります」
会社名:株式会社ピエトロ
取材対象者:代表取締役社長 高橋 泰行さん
PIETRO VISION:しあわせ、つながる
創業:1980年12月
主な事業内容:ドレッシング、パスタソース等の製造販売、パスタ料理をメインとしたレストランの経営など
URL:https://www.pietro.co.jp/






