
八女市黒木町にある津江神社の宮司、井上雅和さんは、同じく黒木町にある総合施設グリーンピア八女にて、昭和・平成に作られた旧車を集めた「オールドカーミーティング」を毎年開催している。
毎年11月に行われる「八女くろぎふるさと祭り」内で開催した2013(平成25)年から数えると、今年2026(令和8)年で14年目になる。最初は20台から始まったが、今では100台以上が集まるイベントになった。10月12日(祝)に開催された同イベントでは、熊本地震の復興支援も兼ねて開催。あっという間にエントリー枠が埋まった。
福岡のみならず、広島、長崎、熊本、大分、佐賀などから150台以上が集まり、オールドカーファンのほか、近隣の住民や同施設の利用客などが見学。エントリーしたオーナーとの対話を楽しんだ。地元の観光バス会社から、昔懐かしいボンネットバスもやってきた。
ギャラリーの中には、父に連れられ、立派なカメラを首にかけ旧車を見て歩く少年、近隣の老人福祉施設からは高齢の利用者がスタッフと一緒に見に来るなど、ほほえましい光景をたくさん目の当たりにした。
地元から出店したマルシェも売り切れ続出。スタッフの中には警察OBや、整備士、バス運転手など車のプロも在籍しており、安全に注意して運営している。会場は、走行時の古い車ならではのバリバリとしたエンジン音からは想像がつかないほど、ほのぼのとした穏やかな空気に包まれていた。
車関係の友人からの紹介で10年余り受付、撮影、チラシデザインなどでイベントに携わってきた筆者は、今回、参加者の中から、オールドカーのオーナーである原島裕之(ひろゆき)さんと、松尾行洋(ゆきひろ)さんに旧車の魅力について伺った。

原島さんは1973(昭和48年)式のマツダ・ファミリア・ロータリークーペが愛車だ。
愛車のマツダ・ファミリアの前には、手製のロータリーエンジンの説明書きとエンジン内部が見えるカットモデルが置いてある。
原島さんは昔からロータリーエンジンが大好きで、もともとマツダ初のロータリーエンジン搭載車であるコスモスポーツに乗っていた。そんな中、父がファミリアのライトバンに乗っていた思い出と、ロータリーエンジン好きが相まってこの車種を探すようになり、ようやく横浜の中古車販売店から手に入れた。

気に入っているところは、後ろの丸いテールランプ。ギャラリーからよく褒められ、「兄貴が持っていた」「先輩が持っていた」と話が弾む。
原島さんのコーナーで目を引くのは、丁寧な説明書きとロータリーエンジンのカットモデル。マツダ好きにはたまらない。いつも和気あいあいと人だかりができている。
取材中もロータリーエンジンがデザインされたTシャツを着た人が現れ、熱心に車を眺めていた。


取っ手がつけられたロータリーエンジンのカットモデル。自動車の多くが積む一般的なレシプロエンジンとの違いを「ローターが三角形の形から、おにぎりエンジンと言われている」ということくらいしか知識がない筆者にも、丁寧に説明してくれる。
ロータリーエンジンは、「通常のレシプロエンジンに比べ、軽く、小さく、走りがいい」「高速を走ったら振動が少ないことがよくわかる」そうだ。それは、現代のロータリーエンジンを発電用に積む電気自動車マツダMX-30 Rotary-EVでも言えるとのこと。

スイッチやハンドルがレトロで気になり眺めていると、車の中も案内してくれた。
維持するうえで苦労した点は、「最初の頃、エンジンの調子が悪く、岡山まで持っていて、専門の業者に見てもらった。そこからは、今のところ不便を感じていない。パーツを取り換えるなどの改造をせず、そのままの『フルノーマル』で乗るのが好きだ」と原島さん。
オールドカーイベントに参加したきっかけは、知り合いの紹介から。熊本や大分などのイベントにも参加したことがあるが、地元から近いことと、「なんかいい」から参加している、とのこと。
また、「スタッフがいいから」というありがたいお言葉もいただいた。

こちらも、オーナーと対話する人の輪が絶えない。
松尾さんは1966(昭和41年)式の日産・セドリックが愛車だ。
所有暦は、なんと32年。旧車に乗りたくてプラモデルを作っていた。実車を探していたある日、自動車販売店に行ったとき、中学時代の苦い記憶がよみがえった。かっこいい車が飾ってあり、その車をついつい触りたくなったところ、見張っていた店員に「触っちゃダメダメ」と言われた。「あの時の車だ!」それが日産・セドリック。購入して3年のトヨタ車を手放して購入した。家族には「おかしくなった」といわれた。そのころは退職する18年ほど前。「退職後も大切にする」との熱意に、家族が根負けし、認めてもらえた。
気に入っているところは、「昭和レトロなところ」電子制御に頼らず、自分の感覚で操る点がノスタルジックで気に入っている。
維持するうえで苦労した点は、と尋ねると、「耐え忍んだのは、家族の白い目」。
購入した日の翌日、バッテリーが悪くなった。一か所悪くなって新しくすると、他が無理をしてどんどん悪くなるとのこと。しかし、救いの手が現れ、部品が見つかったり、手助けしてくる人が出てくる。「今思えばよかった」と、松尾さん。

松尾さんの愛車の横には「貴方の大切な愛車を絵にしませんか。」との看板が立っている。
取材当日も依頼があったとのこと。
中学生のころから新聞広告の真似をして、車の絵を描いていた。4年ほど前から本格的に水彩画を描き始めた。久留米市美術館賞、最高賞、全国公募展の「示現会展」(東京)で佳作に選ばれるなど、入選を重ねる腕前だ。撮った写真をもとに愛車や、愛車と地元の風景を描いている。「今年も今から出す」と意気込まれていた。
やっと今、「買ってよかったね」と家族に言われるようになった。「売らんね!(売りなさい)」から「持っとかんね!(持っておきなさい)」になったそうだ。
オールドカーイベントに参加した理由は、主催者の井上さんから誘われたこと。
台数が少なかった第1回目からほぼ毎回参加している。いろいろな車種が見られるところや、スタッフが責任をもって運営を行っている点、主催者も旧車を持っているところから心配りがあるなどが、その理由とか。愛車を描いて宣伝もできるのが良い。生きがい、張りがある。元気なうちは相棒としたいとのこと。
今回は2名のオーナーにインタビューしたが、筆者は「エントリー車すべてにオーナーと愛車のストーリーがある」という事実を改めて感じずにはいられなかった。読者の皆さんも何か一つくらいは、「かつて乗っていた思い出の車、家族が所有していた思い出の車、そして今現在乗っている愛車」、それぞれに「かけがえのないストーリー」をお持ちなのではないだろうか。筆者の愛車は「いわゆる旧車」ではないし、長年オールドカーイベントに携わっているにも関わらず、今でも車のことはよくわからない。さらに言えば、運転は苦手だ。それでも地元に帰ってからは、移動手段が限られているということもあり、平日は、ほぼ毎日車に乗る生活。今乗っている車だけはデザイン的にもサイズ的にも気に入っている。これからも自分の愛車が旧車と言われるようになるまで、大切に乗っていこうと思った次第だ。
写真はすべて10月12日(祝)筆者撮影

情報
津江神社 宮司 井上 雅和(いのうえ まさかず)
(八女オールドカー倶楽部会長)
住所:〒834-1221福岡県八女市黒木町今49
電話:0943-42-1651





