
住宅街を歩いているとき、工事中の家をぐるりと囲む金属製の足場を目にしたことがあるのではないでしょうか。職人がその上を行き来しながら、壁を張ったり、塗装をしたりする。私たちにとって見慣れたその光景を支えている足場の一つが「ビケ足場」です。
このビケ足場を開発し、日本の住宅建設現場に広げてきたのが株式会社ダイサンです。部材をくさびで緊結し、ハンマー一本で組み立てられる仕組みによって、足場づくりの作業性を大きく変えてきました。現在、同社が掲げるパーパスは「人と現場を守り抜く」。建設業界の人手不足が深刻になる中、同社が次に目指しているのは、足場そのものだけでなく、そこで働く職人の価値や社会的地位を高めることです。
株式会社ダイサン 代表取締役社長の藤田武敏さんに、証券マンから転身して同社に入社し、足場の仕事に魅了されていった原点と、職人が誇りを持って働ける未来への思いを聞きました。
目次
売れなかった「ビケ足場」 施工まで担う仕組みで日本の足場を変える
住宅の工事現場の足場は、もともと丸太で組む形が主流でした。これに対し、ダイサンはドイツの展示会でヒントを得たくさび式の足場、いわゆる「ビケ足場」を1980年に発売します。
「ハンマーで叩いたら施工できるから、簡単にできて作業時間も短くなる。現場の問題解決のために使えるんじゃないかと」
しかし、開発当初はなかなか売れず、結果、材料をレンタルし、運搬・設計など全てを同社が準備することに。「実際に使っていただいたら、従来の足場よりかなり作業性が良くて、機能的だったので、ビケ足場という名前が認知されてハウスメーカーさん中心に徐々に広がっていきました」
その後、「ビケ会」という組織をつくり、全国にビケ足場を広げる施工ネットワークを広げました。
「建機の会社さん、商社などいろんな方に『ビケ足場事業の代理店をやりませんか?』と提案したんです。面白いと思っていただいた方に参加していただきました」。代理店に対してダイサンが材料を販売、さらにハウスメーカーも紹介する形で展開していきました。「代理店さん同士で商圏を奪い合うのをやめましょう、と。同じ地域でもちゃんと住み分けをしながら事業としてやっていく。そうすると、やっぱり生産性も良くなります」
こうした積み重ねにより、ダイサンのビケ足場は高い評価を受け、同社の事業の軸に成長しています。「お客様との信頼関係では、私たちのほうにアドバンテージがあると感じています。どちらかというと、『ビケ足場でやってほしい』と言われる側になっていますね」
藤田社長が足場の面白さに魅了された理由

藤田さんのキャリアは、証券会社からスタートしました。3年ほど大阪で証券マンとして働き、家族の体調不良のため退職、出身地である山口県長門市にUターン。「地元は田舎なので企業がほとんどないんですよ。いろいろ探した中にダイサンがあって、腰掛けでいいかという感じで入社しました」
ここで藤田さんはビケ足場と出合い、半年ほどたった頃から面白さを実感します。「住宅工事の現場には大工さんや元請さん、業者さんがいて、みなさんの要望を聞いて足場を組むんですね。足場ってオーダーメイドなんです。一軒一軒違うんです。要望に沿って足場をつくると、お客様がすごく喜んでくださるんですよ」
藤田さんは、一つひとつの現場にこだわりを持つようになっていきました。大工や職人に藤田さんのファンもでき、指名を受けるまでになります。
1995年、阪神大震災が起こり、住宅工事が増えたため、藤田さんは大阪本社で勤務することになりました。その際、ビケ足場以外の新規事業や本社企画にも携わるようになります。現場だけでなく、会社全体の事業や仕組みを見る立場になったことで、仕事の取り方や人材育成についても考えるようになっていきました。
「お客様にしっかりアプローチして仕事を獲得しないといけない。まず、僕たちがいい提案をできるように、常に勉強して知識を身につけようと。そういうことはずっと言い続けていて、会社の意識改革が少しはできたかなと思いますね」
「専門家でありたい」あと7センチの提案
お客様に「関西で一番いい足場を組みます!」と話していたという藤田さん。印象に残っているのは、家の建つ位置を変更してもらった案件だと言います。
「大阪は敷地がすごく狭いんですよね。その図面で組んでしまうと、将来リフォームする時に足場が立たないんです。『あと7センチあればリフォームの時にも足場が組めます。長い年月住まわれるわけですから、可能だったら少し家をずらしてはどうでしょう』 と、まだ基礎ができていない時にお願いしたんです。そうしたら、お施主様に許可を取っていただいて、基礎の位置をずらしてくれました。逆にお施主さんからも感謝されたんです」
藤田さんが考えるお客様との関係とは、「自分たちは、中小受託事業者だけれども専門業者である」ということです。「専門業者として『ここはこうした方がいい』とお客様にしっかり提供できるチームであることにやりがいを感じます。自分たちとお客様とは、51対49だと思うんです。2ポイントぐらいの差で、自分たちの価値をお客様に認めてもらおう、と」
よりよい足場を考えるには、もちろん時間もかかります。どうしたら作業しやすくなるか。なぜそうしたほうがよいのか。藤田さんはお客様に丁寧に伝えていました。
「いい足場ができると、1週間かかる工程が5日で終わったりもします。作業がしやすいからです。業者さんは、単価が同じであれば、2日早く終わった分だけメリットが増えるということですね。1日当たりの収入が上がる。だからハッピーになる。この業界の中でちゃんと生きていける糧を得る状態ができる。そういうことも含めて全部を考えながら、どうしたら作業しやすくなるかをお客様に伝えて組んでいくんです。そういうことも理解していただけるように、伝えてやってきました」
「社長になるつもりはなかった」先代から託され、働く人と組織を変える

先代の社長から、次の社長への就任を打診された時、藤田さんは「やるつもりはなかった。営業や、営業の責任者をして働くほうが会社にとっては絶対いい」と思い、断ったそうです。しかし、先代や当時の役員から、次の世代を担う存在として社長を任せたいと請われ、悩みながらも引き受けることになりました。 藤田さんは、お客様やスタッフ、会社のことを考えたうえであれば、先代にも臆せず意見を伝えてきました。そうした姿勢を認めてもらえたことが、後継者として選ばれた理由の一つだったのではないかと振り返ります。
社長就任後は、給与体系や退職金制度など、働く人に関わる制度を見直していきました。その中で、藤田さんはダイサンの空気の変化を感じとります。
「一人ひとりの意識、仲間意識みたいな部分、社会から見た僕たちの立ち位置、社会的な地位がどう上がるか、それをまず実感できることが大切です。最近少しずつ変化してきていると感じられてうれしいですね」
「人と現場を守り抜く」みんなで見つけた言葉を、現場の行動へ
ダイサンは今、「人と現場を守り抜く」というパーパスを掲げています。これは、プロジェクトをつくり何度も議論を重ねて2022年に決めたものです。
「『これどうですか』『こういう見方あるよね』とメンバーで壁打ちしながら、最終的に『人と現場を守り抜く』が出てきて、『これでいこうか』と。決まった時のメンバーの感動した感じ、あれは忘れられないね。なんかホッとしたっていうか」
創業から方向性は変わりませんが、現場のスタッフがダイレクトにイメージでき、リズムがあって効果的な言葉がほしかったと藤田さんは話します。
「現場での経験が長いので、現場のスタッフまで浸透させたいんですね。そこを意識して、現場の考え方も共有したものにしたいと。そうやって出てきた一つの形がこのパーパスだと思います」
ダイサンでは、月に一度、「安全ウィーク」が設けられています。パーパスを現場に浸透させるため、安全ウィークの中の1日、現場は仕事を止め、1カ月の行動についてみんなで話し合います。統括部長や地域の責任者は全ての拠点を回っています。また、藤田さんが毎週メッセージを出したり、月刊誌『致知』を読んで4人1組で感想文を発表し合う木鶏会を開催したり、さまざまな取り組みをすすめています。
「木鶏会は互いに、いいところを認め合い、褒め合いましょうという基本姿勢で行っています。月刊誌『致知』には、成功者の体験談が多く掲載されています。そのような方達のマインドを意識しながら、『人と現場を守り抜く』というパーパスを実践していく必要があります。ここでいう現場とは、施工や製造の現場だけではなく、営業の現場、オフィスの現場など、すべての現場が対象です。あらゆる現場で、ダイサンが日本の社会を守るために何ができるのか考えていこう、と」
人がいなければインフラは守れない 職人を「マイスター」と呼ばれる仕事へ

日本の建設業の就業者数は、急激に減少しています。今後の社会インフラを支えるには危機的な状況です。「ダイサンが建設業の中心となって職人さんの社会的地位を高めることによって、もう一度、日本人が建設業界で働くことの価値をつくり出したい。日本全国の社会インフラの整備や、家を建てたい人たちが安心して建てられるような状態にしないといけない」と藤田さんは語ります。
藤田さんが考えているのは、国籍を問わず、建設業を支える人材を育成する仕組みをつくることです。ダイサンでは外国人材も、単なる人手不足の補完ではなく、資格取得や職長へのステップアップを目指す専門人材として育成しています。
「ビケ会で行っている厚生労働省認定の社内検定制度に作業手順のテストがあるんですよ。日本人でも合格率が30パーセントぐらいなんですが、合格しないと職長になれません。今、外国人の方がこの資格を取得し始めてるんですよ。外国人スタッフが職長になって、日本人の若い人や技術実習生を作業に連れて行くようになっています。これはどこもやってないんですよ」
「DXで変えられることは、変えていく。それを既存事業と融合し、新たな事業ポートフォリオの柱とする成長戦略を考えています。お客様にとって、いろんな問題が解決できる状態を目指す。そうして社会的地位を高めていきたいんです」
実は、足場事業は建設業29業種の中で、独立した専門業種として認定されていません。足場工事業を認めてもらい、事業価値を高めることによってダイサンの事業規模を大きくしたい。建設業界の課題を解決しながら、自社の事業伸長を目指したい。そう藤田さんは考えています。
「ロマンとかプライドとかそういうものを持ってやっていきたい。そうでないと、何やってるのか分からないじゃないですか」と藤田さん。「単純に、足場を組んで解体するだけではない。そこにどんな課題や未来があるのかをわかって働くのとそうでないのとでは、大きく違う」と言います。
「オランダの酒造職人さんや漁師さんは、年収1,000万円を超えることもあるそうです。そういう状態なら働きたいと考える人が出てくるんですよね。建設業は、社会インフラを支えるものですし、知識とか技術が必要です。マイスターと言ってもいい。みんなが必要とするかっこいい仕事だと認知されて、社会的な地位や年収が上がれば、やりたいという人もきっと増えてくる。そういう業界をつくっていきたいと思います」
もっとも印象に残った言葉
「オランダの酒造職人さんや漁師さんは、年収1,000万円を超えることもあるそうです。そういう状態なら働きたいと考える人が出てくるんですよね。建設業は、社会インフラを支えるものですし、知識とか技術が必要です。マイスターと言ってもいい。みんなが必要とするかっこいい仕事だと認知されて、社会的な地位や年収が上がれば、やりたいという人もきっと増えてくる。そういう業界をつくっていきたいと思います」
聞き手:ローカリティ!副編集長 丸山夏名美 構成:ローカリティ!副編集長 天野崇子
執筆:編集部 加藤道子
写真:2026年8月3日丸山夏名美撮影
企業情報
会社名:株式会社ダイサン
取材対象者:代表取締役社長 藤田武敏さん
設立年月:1975年4月
経営理念:
「私たちは志を高く持ち、常に未来を創造し
社会の持続と発展に貢献します」
パーパス:「人と現場を守り抜く」
事業内容:
クサビ式足場「ビケ足場」の施工サービス、次世代足場「レボルト」のレンタル、建築金物・仮設機材の製造・販売、コンピュータシステム・ソフトウェアの企画・開発・販売、監視用カメラ・電子機器、教育研修サービスなど。
所在地: 〒541-0054 大阪府大阪市中央区南本町2丁目6番12号 サンマリオンタワー3階
URL:https://www.daisan-g.co.jp/






