「どちらが正しいかではなく、共に災害に立ち向かう者として情報を共有したい」。仙台市職員有志が「震災対応で感じたこと」を業務外の場で伝え続ける理由とは【宮城県仙台市】

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平成23年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)から2022年9月で、11年6ヶ月が経過した。

3.11の後も繰り返し発生し続ける災害の対応に、当時の経験や教訓を活かしてもらおうと、仙台市職員有志と趣旨に賛同する市民が力を合わせ、一方的に話を聞くだけではない震災伝承イベントを企画している。仙台市職員で実行委員長の鈴木由美さんに、イベントを続ける原動力は何なのか話を聞いた。

あれから12年スペシャル実行委員長 鈴木由美さん(写真提供:鈴木由美さん)

「楽しい」がきっかけで防災を考えてほしい

鈴木さんは、震災5年目の2016年から震災伝承イベント「あれから〇年スペシャル」(〇には震災からの経過年が入る、以下、あれスペ)を開催している。

「あれスペ」は、朗読やゲーム、食べ物を切り口にした震災体験談の共有など、有識者の話を聞いて学ぶだけではなく、楽しみながら参加できる仕掛けが参加者に好評だ。身近にあるごみ袋を使ったポンチョ、新聞紙で作ったスリッパや毛布で作るはんてんをコーディネートしたファッションショーや、ガス火がなくても調理できるサバメシ試食会を企画したこともあったという。

「防災のイベントや講演会は似たような内容で、有名な先生の話を一方的に聞いて終わりというものが多かった。だんだん人の心が震災から離れていくのを目の当たりにして、これはダメだと思った」と鈴木さんは「あれスペ」を企画した動機を語った。

あれから7年スペシャルの参加者。防災ファッションが目をひく(提供:仙台市職員などの自主的勉強グループ Team Sendai)

スナック菓子も主食に早変わり?! (提供:Team Sendai)

悪いところもいっぱい出てくる、ありのままを伝えようと

「あれスペ」のコンテンツの中でも人気があるのは、職員の体験を元にした「朗読」だという。被災者でもあり、市民を守らなければいけない職員の体験談は実に生々しい。朗読することで、危機的な情景が浮かびやすく、災害の恐ろしさが聞き手の心に迫ってくる。

2021年2月23日せんだい3.11メモリアル交流館で開催した朗読イベント(提供:Team Sendai)

「職員の話のなかには、被災された方だけではなく、業者も出るし、マスメディアも出てくる。市民には直接関係ない事情や市民からは見えない部分での震災対応もあって、行き届いた業務ができなかったという話もあった」と鈴木さん。

災害時に限らず、行政の対応に不満をもつ市民はいる。お願いしてもやってもらえない、できないと言われた、別の課の仕事と案内された部署でも対応できないと言われたなど、自分の希望が叶わないことに対する不満が多い。聞いていた予定と変わっても、問い合わせしないと返事がないという声も聞かれた。これらはあくまで市民側の感想で、どのような事情で行政が対応できなかったのかは市民には分からない。その事情が適切には市民に伝わってはいないことが伺える。

「不法投棄をする住民や避難所でトラブルを起こしたり、行政に自分の怒りをぶつける人たちもいたのも事実。不快な思いをさせたら(震災伝承)活動に賛同を得られないと思い最初は削っていたけど、職員個人が感じたことを伝えることで、参加者から自分たちは気をつけなくちゃという声も聞こえてきた」と鈴木さんは振り返る。

みんなの災害体験を100年後の人たちに伝えていきたい

2016年から毎年3月に開催してきた「あれスペ」。震災から10年目となる2021年には3月20日、翌21日と二日間にわたり開催する予定だった。しかし、3月18日に宮城県と仙台市が共同で、新型コロナウィルス感染症抑制対策として緊急事態を宣言したため、鈴木さんは中止を決断した。それでも、同年6月20日と11月21日の2回にわけ、ZOOMによるオンライン形式で「あれスペ10」を開催。一度は中止した「あれスペ」をオンラインに切り替えて開催したのは、東日本大震災で鈴木さんたち仙台市職員が苦しみながら得た経験を、いつかどこかで必ず起きる災害時に役立ててほしいからだ。

多様な切り口の企画を用意していたあれから10年スペシャル。2回に分けてオンラインで実施した(提供:Team Sendai)

あれから10年スペシャル記念撮影。参加者の表情からイベントの盛り上がり具合が伺える(提供:Team Sendai)

2022年3月に開催したあれスペ11もオンラインだった(提供:Team Sendai)

伝承の連鎖に期待している

「災害を体験した人たちは高齢になっていく。体験していない人も、話を聞いて体験を受け止めて、それを次の世代に伝えていけばいいだけ。本人でなくてもいい。今後は続けてくれる後継者を育てていきたい」と鈴木さんは、伝承の連鎖に期待している。

次回の「あれスペ12 Part1」 は会場参加とZoom参加を選べるハイブリッド方式を採用。顔を合わせて話す楽しみが戻ってくる。

行政と市民がお互いの都合や要望を押し付けあうのではなく、行政職員も市民の立場で、市

民も行政の立場にたち、お互い歩み寄ることが大切だ。行政側の事情を理解し、要望の伝え方を工夫することで、実現しやすくなるのではないだろうか。

「あれスペ」は「業務外」の催しではあるが、行政と市民が同じ目標に向かって、既存の制度内でできることを行うだけではなく、実現するために何ができるかを考え、100年後まで伝え続けていく場になってほしい。

情報

あれから12年スペシャル Part1 ~人の口から人の心へ伝える~
みんなの災害体験を100年後の人たちへ

  • 日時:2022年11月27日(日)10時~16時
  • 場所:仙台市役所ホール オンワード樫山ビル10階
  • 問い合わせ先:あれから12年スペシャル実行委員会事務局
    teamsendai3.11@gmail.com

詳細はこちら

https://aresupe12-part1.peatix.com/

阿部哲也

阿部哲也

宮城県仙台市

第3期ハツレポーター

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