「大曲の梵天」行事の期日前までに道具の製作がなんとか完了し、いよいよ「巡行」だ。「巡行」は大きく「会員巡行」、「企業巡行」、「夜巡行」、「恩師巡行」の4つに分かれる。
- 会員巡行…「大曲昭和五十五年会」の会員宅を訪ね、会員と家族の厄を払う。
- 企業巡行…地域の企業・商店の厄を払い商売繁盛を祈願する。
- 夜巡行…「企業巡行」を夜に行うもの。
- 恩師巡行…母校の中学校に赴き、感謝を伝える。
それぞれ複数日にわたって行われ、筆者はこのうちの「会員巡行」に同行取材した。
取材時はいつも気温が低く、雪が降りしきっていた。下は黒のスラックスと長靴、上はYシャツに学年カラー(今年は緑)のネクタイとジャンパー、それにその学年の半纏を身に着ける。これが彼らの正装である。
大仙市の学校の特徴で、各学年にそれぞれ名称が付けられていて、今回は「新樹」学年。半纏の背中にも大きく「新樹」の文字が描かれている。
会員巡行は最初に口上を述べる。そこでは、友との幼い頃の思い出や絆に対する想いが語られる。
「亡くなった母親にもこの姿を見せたかった。でもここにいる皆のことは話したことがある」
「奉納が終わったあともこの関係を続けたい」
「お前は俺の親友なんだから、引っ張りあって行けたらと思う」
さまざまな口上に、参加者が気持ちを涙としてあふれさせる場面もあった。カメラを構える私にも気持ちが伝わってきて、目頭が熱くなった。製作中に何度も繰り返し練習した「梵天歌」を歌っているときも、彼らの気持ちはあふれていた。こらえきれない涙を拭い、声を震わせているのが分かる。
視界一面が真っ白な雪に覆われる中、そこだけは互いを思いやる暖かい雰囲気に包まれていた。
(次章に続く)