株式会社コンプレクス グラフィカ 代表取締役
Makoto Senyo
仙誉 真氏
不動産広告のチラシやパンフレットといった紙媒体から、イメージPV、テレビCM、プロジェクションマッピングまで幅広く手がける広島の株式会社コンプレクス グラフィカ。代表の仙誉 真(せんよ まこと)さんは、絵を描くのが好きだった学生時代を過ごし、働きながらDTP(パソコンによる印刷物のデータ作成)を独学で学びました。より面白い広告制作のアイデアは、幅広い業界を知ることで養われる“目”から得られるそうです。そんな制作のヒントについてもインタビューしました。
独学で習得した多角的な視点から制作するデザインのノウハウを伝えたい
これまでのキャリアを教えてください。
僕は広島県出身で、子どものころから絵を描くのが好きでした。1991年に広島で開校したばかりの穴吹デザイン専門学校へ進学し、グラフィックデザイン学科を専攻。当時、パソコンはまだそれほど普及しておらず、生徒全員分のパソコンがそろっていなかったため、在学中はパソコン上でのデザイン制作をあまり学ばないまま卒業しました。
その後、百貨店で開催されるイベントのチラシなどを制作する会社に就職しましたが、バブル崩壊後だったこともあり、入社して半年で会社が倒産に。ハローワークへ行きましたが、経済的に厳しい時代だったことから、2カ月ほど就職活動がうまくいかず、卒業した穴吹デザイン専門学校に相談してみることにしました。恩師からの提案で、不動産のチラシ制作をメインに行う広告代理店で働けることになりました。
再就職してみていかがでしたか?
マンションの広告チラシやパンフレットを制作している会社でしたが、入社初日に「パソコンを使ってデザイン制作をしてください」と言われたんです。「やばい」って思いましたね。学生時代はあまり学ばずに卒業してしまいましたし、前職ではピンセットと糊とカッターを使って写真を紙に貼り付けたり、手書きでイラストを描いたりしてアナログでデザインしていました。ようやく入社できた会社だったため「できません」とは言い出しづらい。社長を含めて3人しかおらず、周りに相談できる人もいませんでした。パソコンに詳しい人も知らず、参考書はなく、YouTubeで学ぶなんてそんなことができる時代でもない。業務ではAdobeのPhotoshopを使用していましたが、まずはソフトウェア上で押したことのないボタンを片っ端から押してみて、試行錯誤を繰り返しました。かつて聞いたことのないようなエラー音が鳴ったときは、自らPCを分解して解決。手探りで、PCを使ったデザインをほぼ独学で習得しました。
仙誉さんご自身のカメラと一緒に。後ろには、デザインの参考書だけでなく、キャッチコピーなど文章にまつわる本もたくさん。
会社員として何年間勤めましたか?
3社ぐらいをトータルで約10年間会社員として勤めました。
その間に、ものごとの視座を高く持ち、広告全体を見渡したいという考えが強くなりました。そのため、デザイン制作だけでなく、映像やホームページ制作、さらにはFlashで簡単なゲームのようなものを制作し始めたんです。幅広い業界を知ることで視野が広がって、例えばマンション広告では、チラシだけでなく、映像も合わせて制作することで、より多角的にアプローチできるようになる。「紙媒体のデザインしか制作できません」「映像しか作りません」と言っていては、よりよい広告を作り続けることはできません。たとえ外部の映像会社とタッグを組んで広告制作を進めるとしても、映像制作に自分自身も詳しければ、同じ目線で意見交換できると思うんです。
起業するきっかけは何だったんですか?
よりターゲットにヒットする広告を作るために、もっと広い視野を持ちたい。そのためには、デザイナーなどの肩書きを越えて、さまざまな仕事を知る必要がある。そんなふうに考え、不動産広告制作をメインにしたビジネスを個人事業主として始めることにしました。
不動産広告の紙媒体だけでなく、イメージPVやテレビCMも自分で作り、マンションのモデルルームにはプロジェクションマッピングを使用するなどして、より魅力的に不動産情報を表現できるよう活動していました。
そのように幅広く広告制作を行ううちに、自分のノウハウを人に伝えていきたいと思うようになりました。デザイナー志望の人を1人アルバイトとして雇い、そこから3年ほど経った15年に「コンプレクス グラフィカ」を創立しました。
実際にモデルルームに展示したプロジェクションマッピングの様子。どのような街で暮らせるかをよりリアルに感じさせます。
自分の心の声を信じて、とびきり“トゲ”のある案を提出。クライアントの個性を引き立てる
起業してから事業はどうですか?
フリーランスになってから、お取り引きさせていただく企業が徐々に増え、時代性もあって映像制作の割合が増えています。僕を含めた5人の社員で事業を進めています。
社員旅行では毎年音楽フェスに行くほど音楽が好きなメンバーです。僕自身も、会社員時代から、DJが流す音楽に合わせて映像を切り替えるVJとしての活動も行っています。イベント出演やクラブイベントを主催し、イベントに合わせたロゴ作成やパンフレット、チラシ作成も手がけました。あらゆる視点からグラフィックデザインに取り組んできたことでトータルプロデュースができたと思います。
御社の強みは、その幅広い事業提案だと感じます。
そうですね。取引先からは「コンプレクス グラフィカに依頼すれば、チラシから映像、現場で使用するプロジェクションマッピングまで、幅広く制作してもらえる」と評価していただいています。クライアント様との打ち合わせの中の何気ない会話にたくさんのヒントが隠れていて、それに即した広告のイメージをしっかり共有し、個性が引き立つデザイン提案ができるよう努めています。
広告制作の過程で大切にしていることは何ですか?
長くデザイン制作をしていると、クライアントの好みに寄せすぎたり、流行に過度に影響を受けたりすることがあると思います。しかし、それでは弊社に広告制作を依頼する意味がない。だからこそ、客観的になりすぎず、自分のいいと思う心の声をまずは信じたい。クライアントに提案する際は、最初の案はとびきり“トゲ”のあるもので攻めたいと思っています。
最終的にはさまざまな人と協議を重ねる中で、そのトゲは丸くなるかもしれませんが、まずは誰でもいい、どんなトゲでもいい、“刺さる”デザイン提案を心がけています。この考えは、新入社員にも必ず伝えているモットーです。
「視覚的なインパクトを!」3DCGの技術でCDジャケットも
これまでで、印象に残っている案件はありますか?
広島にあるフレンチレストランのパンフレット制作は、とくにユニークで面白い経験でした。DJブースがあるお店だったので、この料理にはこの音楽をかけながら味わっていただく、という見せ方をしました。お店と料理の魅力をパンフレットの紙の質感や、糸で縫ったような冊子の綴じ方で最大限に表現してみました。
また、これまで音楽のCDジャケットもデザインしたことがあり、その際は僕が3DCGで描いたイラストを使用しました。3DCGの技術を生かし、デザインに視覚的なインパクトを与えるよう工夫しています。
普段の景色も面白く見える“目”を養い、若いクリエイターには楽しんでほしい
クリエイターを目指す方々に伝えたいことはありますか?
僕がこれまで経験してきたように、カメラやイラストなど、さまざまな分野にチャレンジしてほしい。そうすることで、日常の風景やモノの形が、新たな視点で面白く見えてくるはず。また、視野を広げることより、視座を高めることの方が大事だと考えています。 “知る”ことで視座を上げたいのです。そうすることで長くこの業界で頑張れるのではないかなと思います。これからのデザイン業界を引っ張っていく若い世代が楽しんで仕事に取り組んでもらえることが大切だと感じています。
仙誉さんご自身の夢はありますか?
自分が「面白くない」と思いながら作ったものが、他人から面白いと評価してもらえるわけなくて。だから面白がって仕事をしていきたいですね。
個人的な夢は、写真展を開催すること。日々コツコツと撮影を続けているので、披露してみたいです。
取材日:2024年8月21日
株式会社コンプレクス グラフィカ
- 代表者名:仙誉 真
- 設立年月:2015年10月
- 資本金:100万円
- 事業内容:広告・映像(TVCM、PR)・イベント・空間・プロジェクションマッピング・Webディレクションなどの企画から制作
- 所在地:〒730-0013 広島県広島市中区八丁堀6-7 チュリス八丁堀702
- URL:https://www.compgraph.jp
- お問い合わせ先:上記サイト「contact」フォームより
この記事は株式会社フェローズが運営する、クリエイターに役立つコンテンツを発信する「クリエイターズステーション」にも掲載されています。