街を散策して見聞きしたことをもとに、オリジナルの演劇台本を書いて演じる--。そんなユニークなイベントが9月26日、演劇の未経験者らを集めて、秋田市で開かれた。イベントは、秋田市文化創造館が来年3月にオープンするのを前にしたプレ事業。台本の中には、ほろっと涙を誘う出来の作品も。市民が主役となったイベントは好評で、監修したNPO法人アーツセンターあきたは、今後、別の場所で開くことや、台本をまとめた作品集の制作を計画している。
イベント「ダイアリーシアター〜千秋公園編〜」は、秋田市中心部の千秋公園を舞台に開かれ、地元の会社員や高校生など14人が参加した。多くが演劇の未経験者だ。
イベントでは、参加者たちが3、4人の4つのグループに分かれて公園を散策。その後、散策中に見聞きしたり体感したりしたことを演劇の台本としてグループで書き上げ、演じた。
このうち、秋田公立美大附属高等学院の女子高生3人組は、全員が美術部員で、演劇はまったくの素人。強いて言えば、「学校からの帰り道に、3人でふざけて演劇の真似をしたことがあるくらい」という。
3人は、公園内の秋田神社で引いた「恋みくじ」の小吉に、恋人の血液型の相性として「B型がよい」と書かれていたことなどを盛り込んだ台本を完成させた。
台本は、序盤、高校生ならではの軽やかなやりとりが続く。油断しているところに、最後、仲間への思いを込めた言葉と、「戻ろっか」という寂しさを感じさせる締めの一言がやってくる。
「あ、あそこに鳥居あるよ」「行きたーい」
-- 一同、神社に向かい走る。
「あ、あそこにおみくじあるよー。恋みくじもあるじゃん」
「引いてきなよー」「わかった!!」
-- 恋みくじを引く。(おみくじをみんなで見ながら)
「はあっ!!」「何吉?ファミチキ?」「小吉だった……」
「同い年でB型ってうちの学校にはいなそうだよねー」
「あ、2年後に待ち人来たるだって!!その頃にはもう大学生かー」
「いい連絡待ってるよー」
「大学行ってばらばらになっても、こーやってずっと仲良しで入れたらいいねー」
「そうだね」
「もう時間だって」
「戻ろっか」
台本「はじめての千秋公園」より一部抜粋。
3人が演じ終えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。イベント講師を務めたNPO法人アーツセンターあきたの島崇さん(39)は、劇作家で俳優でもある。島さんは「日常をリアルに書いてくれたのが伝わってきた。最後は、友だちとのこの時間はもう戻ってこないんだと私たちに思わせ、刹那的で、うるっときた。そんな3人の会話を目撃したという感動がある」と絶賛した。
島さんは「今後も継続できるならば、JR秋田駅前や市内の商店街など、街のあちこちを舞台にイベントを開きたい」と話し、参加者が作った台本をまとめた作品集の制作も計画している。
女子高生3人組の1人、佐々木千来(ちな)さん(16)は「人前に立つことや演劇が苦手なタイプだったけど、やってみて新しい自分を見つけることができた。視野が広がってうれしい」と話した。
イベントは、千秋公園近くの秋田市文化創造館が来年3月にオープンするのを前にしたプレ事業「乾杯ノ練習」(※)の一環。10月31日にはダンスのワークショップ、12月26日にはダンスと音楽の合同ワークショップがそれぞれ開かれる。この他、プレ事業ではトークイベントや展示も。詳しくは、NPO法人アーツセンターあきた(電話:018-888-8137、メール:info@artscenter-akita.jp)。
各種インフォメーション
・NPO法人アーツセンターあきた http://www.artscenter-akita.jp/
・今後のイベントのお知らせ https://www.artscenter-akita.jp/archives/15729
・秋田市文化創造館について https://www.2020akita.jp
※乾杯ノ練習・・・宴会の席で、参加者が全員集まる前に「乾杯の練習」と称して飲み始めてしまう秋田県の習慣を指す。