白だけの日々に、紅が差した2月【秋田県八郎潟町】

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(写真)2021年2月5日、筆写撮影。以下同。

鼻がツンとした。

冬が静かだった。

しっかりと踏みしめていないと、迷子になりそうだった。

これは秋田県八郎潟町の道路から撮った1枚だ。雲の色を、動きを見た時、思わず声が出た。山や田んぼの風景はどこにでもある。でも、昼から夜に向かう時の夕暮れとも言いがたい、ほんの一瞬の時間は、たっぷりと楽しめるものではない。

だから急いだ。急いで車を停車して、どこをどう撮ったらいいのか、急いで考えた。

「待って、まだ行かないで」

そう願うも、空は空の、雲は雲の時間をきっちりと守り、焦る小さな人間の都合など構ってはくれない。

だから、いいのだ。

(写真)湖から大地へ。かつて、琵琶湖(滋賀県)に次ぐ国内2番目の広さを誇った八郎湖は、約20年に渡る干拓工事を経て広大な農地に生まれ変わりました。歴史の上を、風が追うように滑っていきます。

筆者の住む秋田市でも、毎朝と言っていいほど路面は凍結し、通勤時のホワイトアウトはすでに見慣れた。ワイパーを動かしても渋滞で止まっている間にフロントガラスがわずかに凍りついてくる。全て真っ白で、もはや車道と歩道の境目は、ない。

ほんの数週間前まで、この写真を撮った夕方の時間には、辺りが真っ暗になるのに、最近は空が頑張って、秋田の冬にこんなマジックアワーをくれる。それはとても貴重で、当たり前の風景を愛おしく感じさせてくれる。ぽっかりと広がったプレゼントのような時間。

まだ鼻がツンとする。

昼と夜のあわい、重い雲に抗うように、空がほんのり紅を差し春を待っている。

(写真)八郎潟の神、八郎太郎が恋人の辰子に会いにゆくときは、こんな空だったに違いない。
田川珠美

田川珠美

秋田県秋田市

編集部校閲記者

第1期ハツレポーター/移住と就業促進の仕事に関わってから、知らなかった魅力や課題のあることに気づきました。雪国のあたたかく柔らかい秋田を届けたいと思っています。ライフワークはピアノを弾くこと、ワクワクするのは農道探索、そして幸せは、心のふるさと北秋田市の緑の中をドライブすることです。