鼻がツンとした。
冬が静かだった。
しっかりと踏みしめていないと、迷子になりそうだった。
これは秋田県八郎潟町の道路から撮った1枚だ。雲の色を、動きを見た時、思わず声が出た。山や田んぼの風景はどこにでもある。でも、昼から夜に向かう時の夕暮れとも言いがたい、ほんの一瞬の時間は、たっぷりと楽しめるものではない。
だから急いだ。急いで車を停車して、どこをどう撮ったらいいのか、急いで考えた。
「待って、まだ行かないで」
そう願うも、空は空の、雲は雲の時間をきっちりと守り、焦る小さな人間の都合など構ってはくれない。
だから、いいのだ。
筆者の住む秋田市でも、毎朝と言っていいほど路面は凍結し、通勤時のホワイトアウトはすでに見慣れた。ワイパーを動かしても渋滞で止まっている間にフロントガラスがわずかに凍りついてくる。全て真っ白で、もはや車道と歩道の境目は、ない。
ほんの数週間前まで、この写真を撮った夕方の時間には、辺りが真っ暗になるのに、最近は空が頑張って、秋田の冬にこんなマジックアワーをくれる。それはとても貴重で、当たり前の風景を愛おしく感じさせてくれる。ぽっかりと広がったプレゼントのような時間。
まだ鼻がツンとする。
昼と夜のあわい、重い雲に抗うように、空がほんのり紅を差し春を待っている。