高度な技が生む、100色の糸が魅せる波のうねりとその「青」【群馬県伊勢崎市】

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〜この記事は、株式会社JTBふるさと開発事業部と合同会社イーストタイムズが共同で取り組んでいる「ローカル魅力発掘発信プロジェクト」から生まれたハツレポです〜

「横振り刺繍」の伝統を守る、新たな挑戦

3つの舟に乗る漁師たちを飲み込むかのように荒れ狂う波。100色もの糸を巧みに使って生み出されるのは、2022年6月にフランス・パリで開催された「第30回パリユネスコ本部 国際平和美術展」に出展され、大きな注目を浴びた横振り刺繍絵画「葛飾北斎浮世絵『神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』」です。

下準備から約3か月。この作品をたった一人で完成させたのは、横振りミシン職人歴15年の石坂こず恵(いしざか・こずえ)さんです。石坂さんは乳児期は横振りミシンで縫い物をする母親の背中におんぶされ、幼少の頃は母親の横振りミシン姿をそばで見ていたそうです。

「コンピュータミシンは波のうねりを表現できない。横振りミシンはそれができる」

横振りミシンとは、針が横(左右)にしか振れないミシンのことで、1854年に黒船で来日したペリーが徳川家に贈ったのが始まりなのだそうです。そのミシンを使い職人が図案を見ながら直接生地に柄を起こす技法は、日本独自のもので横振り刺繍と呼ばれます。

図案に添って縫い幅を調節するには、膝のレバーの押し具合を加減します。波の先端や石坂さんが気に入っている波のしぶきなどの丸い部分は生地を回して縫います。また、縫い直しはしないそうで、どの向きで縫うかをよく考えて縫う必要があります。横振りミシンを使いこなすためには、長年の経験と技術が必要なのです。

糸の光り方が生む、刺繍絵画の世界

※糸を何重にも重ねながら、表現したい色に近づけていく。

腕のある横振りミシン職人だけが生み出せる横振り刺繍絵画は、一体、私たちの目にどのように見えるのでしょうか。

「この青は、ただの青ではありません。黒、茶、緑、赤などが青と重なり合って独特な青い色になるのです」と話すのは、群馬県伊勢崎市にある1980年創業「有限会社福田商店」の専務代表取締役の福田大輔(ふくだ・だいすけ)さん。

上下左右のどこから見るかで印象の違いが生まれる刺繍絵画。さらに、朝や夕方の時間帯のように、糸に差し込む光の加減で雰囲気が変わる。そこには、実際に見た人だけに感じられる世界が広がります。

これからは、横振りミシン職人を育てたい

最新の性能を持つミシン技術で品質の高い刺繍製品を短時間で大量に作ることが可能な有限会社福田商店。これまで「お客様の要望に対して、作れないと言わないできた」と大輔さんは話します。作りたいイメージの写真画像だけで刺繍の仕上がりをアドバイスできるのは、蓄積されたノウハウがあるからこそ。

一方、このままではなくなってしまうかもしれない横振りミシン職人の技術と伝統。それを守るためにはまず、横振り刺繍のことを知ってもらう必要があると考えました。

「これからは美術館を造って、より多くの人がそこを訪れて作品を目にしてもらいたい。横振りミシンの仕事がしたいという人を育てたいと話す、大輔さんの新たな挑戦が始まります。

そこにしかない、特別な空気感を創り出す

※「縫えばできるから、縫うしかない。好きだから」と石坂さん。

国内においては、ホテルや旅館などの宿泊施設向けに横振り刺繍絵画の定額レンタルサービス(月々3万円〜)を2023年から開始すると話す大輔さん。季節や内装に合せて飾ることにより、特別な雰囲気を演出できるでしょう。

また、設立予定の美術館はショッピングモールに隣接するので、買い物の際は気軽に作品を鑑賞することができそうです。

石坂さんをはじめこれから登場する職人さんによって、どんな作品が生み出されるか、そしてそれら横振り刺繍の独特な世界観にどんな感動が得られるか、とても期待が高まりますね。

田畑詞子

田畑詞子

秋田県秋田市

第1期ハツレポーター

1978年秋田県生まれ。清泉女子大学文学部英語英文学科卒。東京で就職後、いったん帰秋。2017年、横浜在住時にライター養成講座に通い、その後地元秋田でWeb記事の取材・執筆活動に携わるようになる。
日々の暮らしをブログに綴ったり、親しい仲間や縁遠くなった友人へ手書きのZINEを書いて送ったりと、書くことが好き。エッセイや小説へも関心がある。

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