日本の人口は衰退の一途を辿り、地方では人口流出が止まらない。そんな中でも長崎県壱岐市には画期的な発想で地域に住む人々が集うコンビニがある。正面から入店すると、一見普通の店内だが、奥に続く入り口がある。カラオケボックス、さらに2024年4月1日からはゲーミングスタジオが併設された。ハイブリット型のコンビニだ。
コンビニで買った商品を、いずれの施設にも持ち込んで良いルールは併設されている強みを生かした仕組みである。これはコンビニの売上を増長させるだけでなく、利用者にとっても食べたいものや欲しいものがすぐに買いに行ける構造で、どちらにとっても願ったり叶ったりの複合施設だ。
この結びつくことのない業種を掛け合わせた店舗は地方の施設不足や人材不足解消の一手となっている。この施設の仕掛け人、株式会社ホーべウィン・代表取締役社長を務める髙崎朗さんに話を伺った。
「島にはコンビニが必要だと思った」。10年前に島内初の24時間コンビニを開店!
福岡県から高速船に乗り、約1時間で辿り着く長崎県壱岐市には島ながらコンビニエンスストアが複数ある。その中でもひときわ特徴を持っているのが2店舗あるファミリーマートだ。
1店舗目は、2012年開店当時、島内初の24時間営業のコンビニ、「ファミリーマート壱岐芦辺店(当時はRICマート壱岐芦辺店)」、2店舗目は、2017年開店の「ファミリーマート壱岐郷ノ浦東店」だ。
「壱岐芦辺店を開店した1年目は、思うほど売上が伸びなかったね。島の人の特性として、初めてできたものに警戒心があって。でも絶対にコンビニは島に必要だと思った」。
開店当時は24時間営業のコンビニは流行らないという声もあったという。しかし髙崎さんは信念を通し、2013年にコンビニ店舗の横にカラオケボックスを開店させた。
「最初は驚かれたけどコンビニの商品を持ち込んで良いルールにしたら、だんだん馴染んできた。昼からカラオケで歌える場所が限られているから、徐々にどちらの客足も伸びてきたね」。
髙崎さんの読みはあたり、島の人が次々に訪れる店舗となった。
2017年開店の壱岐郷ノ浦東店では、コンビニ開店当初からカラオケボックスを店舗奥に開設させる計画を進めた。
「当時はフランチャイズのお店で、この形態は絶対にダメだと言われて苦労したよ。でもなんとか掛け合うことができて併設させることができた。今では東京や地方から視察に来られる店舗になっているよ」。
反対を受けていた立場から一転、画期的なアイディアが先進的だとして真似される店舗となった。しかしこの形は、コンビニもカラオケボックスもいっぱいある都会では成り立たず、現在でも特殊な店舗となっている。
ピンチはチャンス。スタッフの声から生まれたゲーミングスタジオ
順調に進む経営だったが、コロナ禍に入り、カラオケは逆風を受けた。しかし髙崎さんはピンチをチャンスにする。
「いつまでコロナ禍が続くかわからなかったから、芦辺店のカラオケはすぐにコインランドリーに変更して、ランドリーカフェにしたね。これも珍しいと思う」。
ランドリーカフェもコンビニ商品の持ち込みが可能で、洗濯物を回している間くつろいだり、コンビニで買った商品を食べたりできる場所になっている。
「郷ノ浦店のカラオケルームの方は開店当初は40人くらい入れるパーティールームが1部屋あったんよ。でも色々あってお弁当の宅配サービスの場所として貸してたんだよね。それもコロナでやめることになったから、どうしようかって」
そこで辿り着いたのがゲーミングスタジオだった。
「スタッフのアイディアだったから、最初はそのスタッフに『やったら?』と言ってたの。1年くらい悩んでやりませんっていうから、じゃあせっかくだったらお店でやってみるかと思って、こうなったね」
6台のパソコンと大きなサーバー、さらに個室まで用意されているゲーミングルームはゲーム好きなスタッフからも好評だ。ヘッドフォンがあるため、隣人のゲーム音やカラオケボックスからの音漏れはなんの問題もない。
「スタッフが早速都会に住む友達とゲームで戦っていたから、どう?って聞いたら、全く問題なかったと。離島だから通信速度の問題があって、そこがいちばん心配だったけど、そこも解決した。これからe-スポーツがオリンピック競技になって、ますます関心が高まってくると思う。夏頃にはおそらくお客さんもいっぱいになるんじゃないかな?」
先進的な発想だけでなく、時代の変化に合わせて形態を変化させていくスタイルは、離島という一見辺鄙な立地を生かした最大のチャンスだ。これからも島や時代の変化と共に、髙崎さんの経営は続いていく。