兵庫県丹波篠山(たんばささやま)市といえば、古くから猪肉鍋が名物として関西地方一円で知られています。
猪肉料理を食べると身体が温まるといわれているので、特に冬場は年末の忘年会シーズンには電車はもちろんタクシーやマイクロバスまでチャーターして京阪神から訪れるお客さんが多いです。
猪肉料理の基本はやはり鍋料理ですから、ある程度の人数で注文しなければならないので、なかなか一人で食べに行くというのは難しいところがありました。
最近、丹波篠山市の市役所からほど近いところにオープンした日本そばとうどんのお店『黒豆家』さんを訪れ、おそばの定食でも頂こうと思いメニューを開いたところ、見慣れないメニューが目に留まりました。
「猪吸い 1080円」
お店のスタッフにどのようなものなのか尋ねたら、篠山の他のお店でもよくある猪肉うどんからうどんを抜いたものとのこと。具体的に言うと、猪肉のスープです。
おそばは、ざるそばを後で注文することにして、まずはその気になる猪吸いを注文することにしました。
やがて運ばれてきました、猪吸い!
醤油味のおだしで煮込まれた猪肉に青ネギがのせられています。
猪肉は豚肉と違い、コトコトと煮込むほど柔らかくなります。濃厚なうま味と、猪肉の特徴である意外なほどすっきりとして甘味がある脂もじんわりと染み出ています。
シンプルなスープでありながら、とても滋味深く、夏バテしがちな猛暑の季節の胃腸にも優しく染み渡る感じがしました。
実はこれに似た料理が、大阪市内や堺市内にもあります。
「肉吸い」というもので、牛肉が入った肉うどんからうどんを除いたものです。深酒をした翌朝の二日酔いしたお笑い芸人さんが、うどんまではいらないのでお出汁だけ欲しいということで始まった料理で、それ以来、大阪府のいくつかのお店では定番メニューになりました。
猪吸いについて、さらにそのおそば屋さんのスタッフに聞いてみました。
猪吸いは、丹波篠山市内に数多くある猪肉料理店には存在せず、そのお店が初めて出すようになったオリジナルのメニューだそうです。
さらには猪肉鍋の通称であるボタン鍋を丼に注いだボタン汁(1280円)もあります。
こちらは猪肉鍋と同じく味噌味で煮込んだもので、ニンジンやカボチャなどの野菜も入っています。
お客さんの好みによって、醬油味のスープと味噌味を選択できるということです。ごはんが欲しい方には、これらに白飯とひじきの煮物、お漬物がついた定食もあります。
一人でも猪肉料理を食べたいお客さんや、お酒が好きな方にも嬉しいメニューが誕生しました。
余談ですが、東京の老舗日本そば店にも、昔から天ぷらそばからそばを抜いたメニューが存在しています。なぜか「天抜き」という名前で、海老天を転がしつつおつゆをすすり、日本酒をいただくという、いわば液体おつまみともいえるような楽しいメニューです。
お酒が好きな方たちの発想というのは、地域が違っても似ているということなのでしょう。