
「祭り」は、文化と文化が手を取り合う場である。
2025年9月27日(土)・28日(日)、ジャカルタの市民広場にて、第15回「ジャカルタ日本祭り(Jakarta Japan Matsuri)」が盛大に開催された。日本とインドネシアの国交樹立65周年を見据え、両国の絆を確かめ合う場として定着してきたこの祭りは、年々その規模と内容が進化している。

目次
旅するように、味わうように──拡充された「日本を旅する」エリア
今年の目玉は、なんといっても「日本を旅する」ブースの拡充である。北海道から沖縄まで、15の都道府県・市(北海道、青森、茨城、群馬、長野、兵庫、岐阜、名古屋市、岡山、高知、大分、宮崎、福岡、熊本、沖縄)が集結。観光PRだけでなく、食や伝統文化の体験も盛り込み、ジャカルタ市民に「五感で感じる日本」を届けた。
筆者が取材したのは青森県ブース。カラフルにコーティングされたりんご飴や青森特産のりんごを使ったドリンクやスイーツが並び、来場者の目を引いていた。ブースを運営していたのは、揃いのTシャツにりんごのカチューシャや髪留めをつけた日本人有志たち。
池本さん(青森とインドネシアをバドミントンで繋ぐ会)は、「青森には魅力的な特産品や観光地がたくさんあるが、まだインドネシアでは知られていない。日本に興味があるインドネシア人が多く来場するこのイベントで青森県のPRをした。スタンプラリーで地名や位置を知ってもらえたのがうれしい」と笑顔で語る。訪れた子どもたちは色とりどりのりんご飴に目を輝かせ、家族連れが次々と足を止める姿が印象的だった。
「たまたま青森をテーマにしたローカルレストラン『AOMORI SHOKUDO(あお森食堂)』がジャカルタにあり、りんご飴を販売してもらいました」と池本さん。今回の青森ブースは、青森県出身のバドミントンの奈良岡功大選手(オリンピック出場経験あり、世界最高ランキング2位)のサポーターを中心に運営していた。青森を拠点に練習し、世界の大会に出場し、年に数回インドネシアでも試合を行う奈良岡選手が、青森とインドネシアをつなぐきっかけとなったという。


国際交流は、体験から始まる
「見る・食べる・感じる」──アクティビティエリアには、日本への留学や技能実習の経験を語るブース、書道・染色・和太鼓・ワヤン(影絵)色塗り体験、方言クイズ、盆踊り、縁日コーナーなどが勢揃い。年齢や国籍を問わず、参加者が「自分で体験できる」ことにこだわった設計が、他の文化イベントとは一線を画している。
特に人気を集めていたのは、祭り衣装の試着体験。浴衣や法被を着た現地の若者たちは、うれしそうにセルフィーを撮りながら、日本文化への興味を深めていた。
また、日本語を勉強中の学生が多くボランティアとして参加し、簡単な日本語で来場者に説明する姿もあちこちで見られた。「言葉が通じると国が近くなる」ということを、あらためて実感させてくれる光景だった。



「市民から市民へ」──草の根の交流がつなぐ未来
ジャカルタ日本祭りは、政府間の文化外交というよりも、「市民から市民へ」の対話を重視するイベントである。インドネシアにはかつて日本で技能実習を経験した人も多く、ブースではそんな元実習生たちが、今度は“伝える側”として日本の魅力を発信していたのが印象的だった。
そして、この交流の裏には多くの日本人ボランティアの存在がある。運営スタッフ、出店者、観光プロモーションに関わる地域自治体の職員たちが、互いに連携しながら“地元愛”を国境を越えて届けていた。


つながる未来の、その先へ
日本とインドネシアは、人口構成も宗教も気候も異なる。それでも、この祭りには確かな“つながり”があった。食を通じて、アートを通じて、音楽や遊びを通じて──小さな「好き」が重なり合い、やがて互いの国への理解につながっていく。そんな場が、ジャカルタのど真ん中で今年も生まれていた。
両国の未来をつなぐのは、大きな政策やニュースではないのかもしれない。
一つのりんご飴を囲んで笑い合う、その瞬間こそが、未来への橋渡しなのだ。



※写真はすべて2025年9月27日(土)筆者撮影