「モノには流行があるが、まちは変わらない」ふるさと納税にかける公務員たちの思いとは【秋田県北秋田市】

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写真=風光明媚(めいび)な四季の風景を動画で見ることができる、北秋田市の納税サイト(下記、「サイト情報」参照)

2020年度の秋田県北秋田市のふるさと納税額が前年度の約18倍(約5億円)という驚くべき数字になったことが、このほど分かった。申し込み件数も、同年度と比べて約15倍の2万件ほどに上る。いったい何があったのか。北秋田フリーク(愛好家)の筆者としては確かめたくてたまらなくなった。市総合政策課政策係の係長、高田徹さん(49)と主任の杉渕拓弥さん(27)に話を聞いた。
【田川珠美】


ーー 20年度のふるさと納税額が、19年度の約18倍に跳ね上がったというニュースを耳にしました。一部では、納税サイトをリニューアルして注目を引いたのが理由、という話もありますが。

私たちも実は驚いているんです。こんなに反響があるとは思わなかったものですから。(高田さん)

筆者もサイトを見たが、四季折々の風景の中を秋田内陸縦貫鉄道の列車が走る動画に見入ってしまった。「あ、ここのコスモスを見に行ったことがある」「この陸橋を列車が走る様子を見たことがある」。マタギのイラスト動画も紙芝居みたいで雰囲気があるし、星空だけの6分の動画は新鮮味があった。住んだこともないのに、まるでふるさとを見ているような懐かしさであふれている。

写真=クリックするとそこは北秋田ワールド。納税サイトということを一瞬忘れそうになる

ふるさと納税の話を聞きに行ったのに、いつのまにか筆者の“北秋田びいき”がさく裂してしまうと、少しずつ高田さんと杉渕さんの口も滑らかになってくる。取材に行くアポイントを取った時点では、「お話しできること、できないことがあります」と言われていたが、地元愛あふれる熱のこもった話を聞くことができた。

ふるさと納税に応募いただく以前に、まずは北秋田市そのものに興味を持ってもらいたかったんです。返礼品競争にはしたくなかった。ふるさと納税って、一種のはやりのような側面もありますでしょう。モノで人を引き付けても、全国に似たものはあふれていて、限界があるんじゃないかなって。だから、観光地はもちろん、北秋田市の人々の暮らしや四季折々の美しい自然、その中で育まれる米や特産品を作る生産者の思いをまず知ってほしかった。モノにははやり廃りがありますが、町や人の思いは変わらないですから。応募者に返礼品を直接的にPRするのではなく、地域を知ってもらった上で返礼品に興味を持ってもらえるようなしくみを作りたいと思い、今回のサイト制作に至りました。(高田さん)

ーー まず地域ありき、ということでしょうか。

そうです。お金が欲しいというより、地域を応援してほしい。そんな思いが伝わるようなものが作れないかと、地元の制作会社とタッグを組んで作ったのが、田川さん(筆者)が見たあのサイトです。(高田さん)

確かに、県内の他自治体のふるさと納税を紹介するサイトを見ると、参加している19市町村のうち半数以上が、観光資源などで町の紹介はしているものの、まず目に入るのはずらりと並ぶ数々の返礼品だ。それに比べ北秋田市のサイトは、動画の中に一般の人々を登場させたり、平安時代から伝わるマタギ文化をイラストで紹介したりするなど、暮らしの息づかいが伝わるようなサイトとなっている。

北秋田市の返礼品は米が特に人気のようだが、白米・無洗米・玄米と選べる上に「定期便」制度を設けている。リピーターも多いという。しかし、リピーターが多い理由はそれだけではなかった。

今は申込件数が増えたので同じようにはいきませんが、これまで納税してくれた全員に、市長が直筆でお礼のメッセージを書いていたんです。(杉渕さん)

一瞬、言葉を失う筆者。「これまで」と言っても、年間1300件超はあった申込者全員に直筆のメッセージを書く市長は、そうはいないと思う。件数が跳ね上がった現在、応募の欄にコメントを書いてくれた人を対象に市長直筆のメッセージを送っているという。

人口およそ3万人で、面積の多くを山や田畑が占める北秋田市。車を走らせると、どこまで行っても緑、また緑だ。絵画のような、というのは他の自治体からたまに行く筆者だからこその感想だろう。そこに住む人々には豪雪や熊と共存する暮らしがある。農産物の生育に汗する生産者がおり、木目の美しい家具を作る職人がおり、観光資源を守り広める人たちがいる。地方独自の文化や歴史を活かした営みと働きは、北秋田市に限ったことではないだろう。しかし、「まず、町を知ってもらいたかった」と何度も繰り返す高田さんと杉渕さんの言葉は、この町で生きていこうとする人々の丹精込めた思いが、「ふるさと納税」の数々の返礼品の中に詰まっていることを伝えたかったのではないかと感じた。

北秋田市役所を出ると、夕方だというのにまだ30度はあろうかという暑さだ。筆者の住む秋田市まで車でおよそ2時間。森林と田畑がおよそ9割を占めるという北秋田市を車で走ると、夕暮れの風に吹かれる広大な田んぼの遠くのほうで、真っ赤な一点のトラクターがトコトコと働いていた。

写真=つい引き込まれてしまう星空の6分間。日常を休みたくなったらぜひ見てほしい
写真=高校生やファミリーも登場。「町を知ってもらいたい」がちりばめられている

【サイト情報】
北秋田市ふるさと納税(楽天) https://www.rakuten.ne.jp/gold/f052132-kitaakita/

田川珠美

田川珠美

秋田県秋田市

編集部校閲記者

第1期ハツレポーター/移住と就業促進の仕事に関わってから、知らなかった魅力や課題のあることに気づきました。雪国のあたたかく柔らかい秋田を届けたいと思っています。ライフワークはピアノを弾くこと、ワクワクするのは農道探索、そして幸せは、心のふるさと北秋田市の緑の中をドライブすることです。