沖縄県は2023年度、たくさんの「お宝=魅力」をもつ離島各所の事業者さんたちが、SNSなどの『デジタルツール』を利用してさらに魅力的な発信をしていけるように「沖縄県主催🌺価値を伝えて売りまくるためのデジバズ講座」という取り組みを行っています。この記事は、参加された事業者さんを対象に、「ローカリティ!」のレポーターがその輝く魅力を取材し執筆したものです。沖縄離島の魅力をご堪能ください。
目次
島で生まれ、島で育った人たちが立ち上げた「海を守る会」
「最近、島の生き物が少なくなってきたね。自分たちで守っていかなきゃいけないから何かやろう」
今から15年ほど前、地元の事業者さんたちの中から湧き出た思いを形にしたのが、一般社団法人「久米島(くめじま)の海を守る会」(以下「守る会」)です。
久米島は沖縄本島那覇市の西方約100㎞の東シナ海に位置する島で、琉球王朝時代には近隣諸国との交易の寄港地として栄えたそうです。琉球列島の中でも最も美しい島として「球美(くみ)の島」と呼ばれてきました。
そんな久米島ですが、2016年にサンゴの白化が起こり、多くのサンゴが死んでしまったそうです。白化とは海水温の上昇により褐虫藻(かっちゅうそう、サンゴと共生する植物プランクトン)がいなくなって、サンゴが白く見える状態のこと。環境が回復せず、この状態が長く続くとサンゴは死んでしまいます。
そのほかにも、生活や農業排水による水質の変化や赤土等の流出、サンゴを食べるオニヒトデの大量発生などが、サンゴ減少の原因と考えられます。
島で生まれ、島で育った人たちがサンゴ礁の海の保全のために立ち上がり、「守る会」として、流れ出た赤土の流出量調査や、流出を防ぐために畑のまわりなどに植栽をする活動(グリーンベルト)を始めたのが2010年頃。その後、2019年には沖縄県の支援のもと「久米島町サンゴ礁保全再生活動地域協議会」(以下「サンゴ協議会」)が立ち上がり、「守る会」もその一員として他の団体と協力しながら活動を続けています。
地域おこし協力隊、黒木さん奮闘する
「サンゴ協議会」が立ち上がるにあたり、久米島町役場に地域おこし協力隊としてやってきたのが、今回お話を伺った黒木恭子(くろき・きょうこ)さん。
黒木さんは、移住前は学校法人で事務職に携わっていたそうですが、趣味でダイビングをしていて、サンゴ礁の海が好きだったこともあり、久米島で「守る会」の事務局として働くことを決意しました。地域おこし協力隊の任期は通常3年ですが、コロナ禍の特別措置で2年の延長を受け、現在5年目とのこと。
事務局としての細かい事務作業はもちろんのこと、イベントの企画立案、段取りや日程調整などのマネジメントもやりつつ、プレイヤーとしてグリーンベルト植栽も行い、赤土の調査で海にも行くという黒木さん。そのほかにも、月に何回か行うビーチクリーンや、啓蒙活動としての環境教育を行っています。
youtubeに期間限定で動画を流したり、インスタグラムも始めました。
「今って発信しないと、地道に島の中だけで活動していても、なかなか仲間も増えないですし、環境を保全するには知ってもらうことがまず第一なので、発信は必要だなあと思います」
と語る黒木さん。昨年からラジオ出演も始めて、今年は月1回、「守る会」の番組を持つことになったそうです。
どうしたら人間の暮らしと自然は歩み寄れるか。地道に活動を続ける意味
「久米島の海は、ダイバーの目線で見ると、とても近場でワイルドな海を体験できるところです。港から近いところにダイビングポイントがあり、マンタやイソマグロの群れを見ることができます。今でもきれいな海ですが、私が来た時にはもうサンゴはかなり減っていたんです。これ以上サンゴが減らないように、守っていかなければと思います」
と語る黒木さん。毎月行っているビーチクリーンでも、「拾っても拾っても漂着してくる」ゴミをただ拾うだけではなく、元から減らすにはどうしたらいいかを考えなければ、といいます。
「プラスチックは本当に便利なものですが、なかなか自然分解されません。マイボトルを使うなど、少しでもプラスチックの使用を減らそうとは思っていますが、プラスチックの削減にしても、地球温暖化にしても、個人の力がどこまで及ぶんだろうという葛藤はあります」
ともすればマイナスな感情が湧いてきてしまうこともあるという黒木さんですが、そんな時に心の支えになるのが島の方たちだといいます。
「守る会の、地元の方たちはとにかく楽しく活動しようっていうのがモットーで、私がのめりこんで元気がなくなると、『楽しくだよ』って励ましてくれるんです」
「守る会」は島の事業者さんで成り立っているので、根底には島の人たちの「生活」があります。
「例えば、赤土の流出を減らそうと考えたとき、誰かの畑から流れ出る様子を撮影すればインパクトがある。そうすれば伝わりやすいかもしれない。けれど、だれかを悪者にしたり、島での生活を脅かすことはしない。どうやったら人間の暮らしと自然が歩み寄れるか、守る会はそこを大切に考えています」
そのためには、自分たちができることを楽しそうにやることが大切ですよね、と黒木さんは語ります。海岸のゴミを拾ったり、赤土の流出調査や植栽をしたり、といった活動は地味だけれど、島の人たちを巻き込んで続けることで、少しでも意識が変わり、海を、ひいては地球を守りたいという気持ちが育ってくれればと願っているそうです。
「守る会」を愛する黒木さんの今後は
「守る会」では、地元の小中学校からオファーがあれば、サンゴ学習について話をする機会を設けています。サンゴやサンゴ礁の価値について、どんな働き、役割があるのか、またサンゴの減少要因や、環境をよくするためにはどうしたらいいか、という話をしたり、実際に植栽や浜の観察会なども行っています。修学旅行で他地域からのオファーもあるそうです。
「次の世代、一般の人と専門家の方をつなげていくのが自分の役割だと思っています。このサンゴ礁の海が存続できる世の中は、恐らく人間にとっても生きやすい世界だと思うので、少しでも興味をもってもらえたらいいなあと思います」
もうすぐ地域おこし協力隊としての任期が終わってしまう黒木さんですが、「この活動を続けていきたいので、今その道を探っているところ」だそうです。
できることからコツコツと、そして楽しく。個人でできることは小さなことかもしれないけれど、それを少しでも大きなムーブメントにして、次世代に引き継いでいきたいという、久米島の海を愛する人たちの活動はこれからも続きます。
【事業者情報】
一般社団法人久米島の海を守る会<沖縄県久米島町>
HP:https://www.umiwo-mamorukai.jp/index.html
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