マガンが空を染める朝。伊豆沼に広がる秋の奇跡【宮城県登米市】

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9月19日、宮城県登米市にある伊豆沼で、今シーズン初のマガンの飛来が確認された。
冬の訪れを告げる「冬の使者」として知られるこの鳥たちは、毎年シベリアから日本へと長い旅をしてくる。

昼前、刈り取りを終えた水田に舞い降りたのは7羽のマガン。黄金色の田園風景の中、羽を休めたり、落ちた籾(もみ)をついばむ姿が確認された。
今年は例年よりも1日早い飛来となり、自然が刻む季節の時計が、また一つ先へ進んだことを感じさせてくれる。

10万羽の空のショー、ピークは11月

伊豆沼は、マガンやハクチョウ、カモ類など多くの渡り鳥が越冬のために訪れる国内有数の飛来地。
特にマガンは、11月上旬にピークを迎え、最大で約10万羽もの大群が空を覆う「朝の飛び立ち」は、見る者すべての心を震わせる。

まだ夜の帳(とばり)が下りた早朝、空がうっすらと白み始めると、沼の水面に静かに浮かんでいた無数のマガンが一斉に飛び立つ。
その羽音は、まるで風がうなるような響きで、地元では「伊豆沼の奇跡」と呼ばれている。
観光客や写真家の間でも人気が高く、毎年秋から冬にかけては国内外から多くの人がこの光景を求めて訪れる。

夕方伊豆沼にねぐら入りする群れたち

学びと発見がある「サンクチュアリセンター」

この自然と共に歩んできたのが、宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンターだ。
1990年の開設以来、ラムサール条約登録湿地である伊豆沼・内沼の自然や人とのかかわりを紹介し、自然観察や環境教育を行っている。

2015年には大規模リニューアルが行われ、1階には床一面に広がる伊豆沼・内沼の航空写真や、子どもでも楽しく学べる体験型展示が充実している。
2階には、地域の歴史や湿地の変遷、生態系の研究成果などが展示され、フィールドスコープを使って実際に鳥たちを観察することもできる。

「マガンが空を染める場所」としてだけでなく、人と自然のつながりを未来へ伝える場所としての役割も担っているのだ。

自然と生きる地域の力

マガンの飛来は、地域の暮らしや文化とも深く結びついている。
登米市や栗原市では、渡り鳥にやさしい農業を心がけて、マガンの糞が稲作に還元されるなど、循環型の自然共生が地域の中で育まれている。

伊豆沼に集まるのは鳥たちだけではない。観光、研究、教育、それぞれの目的を持った人々が訪れ、この地の自然の価値にふれる。
その経験は、気候変動や生物多様性の重要性を考える一歩にもなるだろう。

マガンの大群が伊豆沼の空を舞うその朝は、ほんのわずかの時間しか見られない。
だがその一瞬は、日々の喧騒から解き放たれ、「いま、この場所」にあることを強く実感させてくれる。

この美しい風景が、未来の子どもたちにも“当たり前”であるために。
サンクチュアリセンターの取り組みや、地域の自然保全活動は今も続いている。

秋が深まりゆく伊豆沼を訪れ、マガンの羽音に耳を澄ませてみてはいかがだろうか。

情報

伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター

【開館日】火曜日~日曜日、国民の祝日
【休館日】毎週月曜日(月曜日が国民祝日にあたる場合は、その翌日)、祝日の翌日、年末(112月29日~12月31日)
【開館時間】 午前9時~午後4時30分
【入館料】無料
【交通機関での所要時間】

  • JR東北新幹線「くりこま高原駅」から車で10分
  • JR東北本線「新田駅」から車で10分
  • 東北自動車道「築館インターチェンジ」から車で20分
  • 東北自動車道「若柳、金成インターチェンジ」から車で20分
  • みやぎ県北高速幹線道路「伊豆沼インターチェンジ」から車で3分

 ※駐車場あり(大型バス駐車可)

【公式パンフレット】http://izunuma.org/pdf/zaidan_panf.pdf

※写真は全て筆者が1年前に撮影

阿部宣行

阿部宣行

山形にある探究教室の講師。子どもたちが熱中できることを見つけ、大人顔負けで実践できるように日々活動しています。ローカリティに参加してからの趣味は写真撮影。子どもたちの視野を広げるために記事を書き、写真を撮っていきます。

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